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神は神だと知らなかった  作者: まずまじお
1章
6/19

6

生きる者には心があるといわれている。

生きるもには生き残るために考える力がある。


どちらも生きるためには必要なものだと誰もが言う。しかし、それが時として害になりえる時があるという。


心には許容できる痛みの量が決まっているとあるものは言った。

考える力は時として生きたまま死を告げる力を持つという。


この二つはどちらも魔法でも医療でも直せないという。否、魔法であれば直すことはできなくても高位の魔法であれば、長期的にその原因となったものを封印することはできる。が、それはいつ暴走するかわからない制御不能な不完全発動大魔法と変わらない。ちょっとした外的要因によって封印が解除される可能性があるのだ。そのため、国際規定では魔法による『生き死』状態を改善するのは重罪となる。

彼女の現在の状況はそれに近い。彼女はあと少しのところで踏ん張っている状況だろう。その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


結局彼女は食事が来ても静かに食べていた。食べ終わってしばらくたってから彼女は


「ねえ、失敗したとき、自身がない時ってどうしたらいいの?」


初めて私に質問をしてきた。なんて答えたらいいのだろうか…


「失敗なんて誰でもする。自信がないなら助けてもらえ」


これぐらいの答えしか俺には答えられない。


「自身がなくて…助けを求めても誰も助けてもくれず…一回もやったことも聞いたこともない複雑な作業を「前誰かに教わっただろ、いい加減覚えろ」と()()()()()()()も言われ続けて、やっとその痛みから解放されたと思ったら、一から何もわからない場所で、ほとんど情報も得られず…いるのは自分より遥かに強い食物連鎖の上の存在…それで抜け出せたと思ったら、今度はもう終わった、過ぎ去った変えようのない過去が怖くて…怖くて…」


彼女はベットの上で頭を抱えてしゃべるのをやめてしまった。

私は彼女何かを言い返してあげないといけないと考えた。何を言い返せばいいかはわからない。だけど…


「結局はなんだ、俺だって失敗だってしたし、死への恐怖も覚えたこともあった。お前のような年の子が俺よりも生きたような言い方しているが、別に誰も気にしないさ。こんなに死が身近な者が集っている場所じゃ」


「そうね…」


彼女は俺を見てこう言った


「あなた以上に私の記憶には生きていた記憶がある。前のダメな私自身の記憶も残っている。確かに、こんな死が身近なこの世界じゃあ、一人一人の小さな失敗ぐらい誰も気にしないね…」


「俺以上に生きた?前の記憶?どういうことだ?」


何が言いたい?彼女は、魔法を極めた者のみが使えるという転生魔法でも使って新たに体を得て生まれてきた者だとかそういうたぐいのやつか?それとも魔法や種族などの関係で年齢と見た目が一致していないとか?


「ねえ、見てるんでしょ。言っても大丈夫?」


彼女は突然壁のほうを見てしゃべりだす。まるで誰かがいるように。


「わかった。制限なんてないのね」


彼女はそれを言い終わると俺のほうを見て語り始めた。




彼女はある程度だとは思うが話してくれた。自分はこの世界のものではない記憶を持っていると。初めてこの世界で目覚めた場所は浅い海か池を超えた隣の大陸だと。自分は死ねてもまた、この世界に即座に体を得てよみがえると。

正直すべてが本当とは限らない。。嘘の可能性も十分にあり得るし、他の可能性としては他国の奴隷という可能性もある。または何らかの方法でウソの記憶を植え付けられたなど様々だ。

私は以上を踏まえて報告書を書いた。羊皮紙二十枚程度だろうか。


後は扉の外にいる警備兵に報告書を渡し、アンケリセンさんに届けてもらう。


彼女とはその後三日間同じ部屋で過ごした。最初は部屋備え付けの水浴び場を見て「不便」といっていた。どういう生活をしていたかわからないがこの部屋備え付けの水浴び場はかなりいい作りだ。これで不便ということは相当いい暮らしをしてきていたのだろう。

彼女の心理面にも三日間で変化が見られた。多分だが、多少話して楽になったのだろう。それでもたまに「殺してくれ」とか「ごめんなさい」とか「怖いよ…怖いよ」とか前触れもなく突然しゃべりだす。ひどい時は頭かけたまま暴れだすレベルだ。それでも多少は笑うようになったし、口数も増えた。たまに自分から話題を振ってきたりもした。まあ、そのたびになぜか「話題持ちかけてごめんなさい」と言っていたが。これは専門の医者や魔術師に見せたほうがいい気がする。それも含め翌日の早朝に報告書を再度提出した。


報告書を再提出した昼、大体四十時頃扉がノックされた。


「アルバブレッド、入るぞ」


「はい」


アンケリセンさんが、入ってきた。羊皮紙をもって。


「アルバブレッド及び外壁警備班四班は、本日任務終了と同時に外壁警備班としての任を完全に解く。次の任はその名称不明の少女を保護及び警護だ。軍上層部及び国のお偉いさんがたが興味を示してな。王都まで、安全ルートで約一週間の長旅だ」


「…わかりました」


いきなり挨拶なしに命令だ。そんなにこの少女に興味があったのか上層部は


「君もそういうことだ。君に拒否権はない。王都へ行ってもらう」


「わかりました。もともとその予定でしたし」


「そうか…、にしてもなぜ王都が目的だったんだ?」


確かにそうだ。なぜ目的地が王都だったのかだ。


「いえ、単純に一番情報の集まる場所のほうが安心して暮らせそうだったからです」


「嘘はついてなさそうだな」


「…」


この数日間で彼女の報告書に「彼女は嘘が苦手な可能性がある」という記載をした。彼女が過去話をしているときに明らかにごまかしているとき話のつながりが不自然だった。加えてポーカーフェイスも苦手ときたもんだ。全部顔に出ていた。


「嘘をついてもバレるでしょう。それに怪しまれて行動制限されるよりも動きやすいですし」


「計算の上か。まあいい、アルバブレッド!。三日後の朝二十四時に馬車倉庫南入口に元四班全員集合の銘を出してある。遅れるなよ」


そういうと彼女は私の返事を聞かずにそのまま部屋を出て行ってしまった。


「ということだ。急だが準備…するものはないな」


「ありますよ」


何があるんだ?


「心の準備」


彼女は笑顔でこっちを見ながら言った。


「あっそう…」


思わずそう答えてしまった。もっとマシな返答をしてやればと思ったが、いつものように彼女はこの後謝らなかった。何か彼女が少し変わったと感じたのだ。

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