『sideルア』
私は二星瑠璃、本の1週間ほど前はどこにでもいるゲームが好きな女子高校生だった。
そんな私がこんな殺伐としたデスゲーム世界に来てしまったのはなぜなのだろうか?
幼なじみで、同じくクラスの錬太郎に誘われたから?
それとも、私が『せかんどわーるど』なんでゲームが好きだったから?
私はたしかにゲームが好きだし、こういうVRものの小説も好きだ。
もちろんその中には有名なアルファベット3文字のデスゲームものも含まれている。
ただ、実際にデスゲームに閉じ込められるとなると話は変わる。
こんな私だって現実では普通の少女で、デスゲームみたいな自分の命を賭けたゲームに参加しろなんて事を言われたら無理だ。
死ぬのは嫌だから。
デスゲームになるとは知らずにあの時の私は錬太郎にプレゼントされた『わーるどだいばー』を使って、ただ遊ぶ為にゲームへとログインしたのだ。
キャラクターを作ってログインをしたら、いきなり邪神とかいうキャラクターにデスゲームだという宣告をされた。
初めはよく飲み込めずに『ゲームの演出かな?』とか思っていた。
でも、錬太郎……いやレンとカオリとハルトの3人と出会ってこの世界が本当にデスゲームだという事を知ってしまう。
私は英雄じゃない。
ふとした時に何もできずに死んでしまうモブみたいな奴だ。
そういう現実を叩きつけられたみたいで、胸がキューって苦しくなった。
それからはとにかく泣いてる所を見せたくなくて。
とりあえず一人にさせてと頼んでから、たまたま見つけた公園で私は独りで泣いていた。
もう帰れない。
帰れたとしてもかなりの時間が経っているはず。
友達三人は一緒だけど、知り合いはそれだけ。
お母さんも、お父さんも、いつもは頼りになるあの兄も居ない。
あまりの絶望に打ちひしがれて、少し泣いてしまった。
いや、少しどころじゃなかったかもしれない。
そんな時、ベータテスターでα版の方でもかなりのランキング上位者であるゼ・ツーさんにであった。
泣いている私を見掛けて、優しく声をかけてくれたのだ。
私がなんで泣いているのかをたどたどしく説明すると、彼は優しく説明してくれた。
「俺は君とは違って帰りを待っている家族もいなければリアルに友人もいない。
だから帰らなくても別にいいんだ。
でも、俺は戦うつもりだ。
あーっと、もちろん君と一緒で死ぬのは怖いよ?」
「じゃあ……なんで戦うんですか?」
「まあ、リアルの俺はクズみたいな奴でね。
親に迷惑かけるわ、友人に迷惑かけるわ、親戚に迷惑かけるわと……そんな事をしていたら全員から捨てられた。
それからはネットに逃げて逃げてでね、でもこのゲームを見つけて、初めて本気で何かをするって事ができたんだ。
死んだように生きていたからこそ、この世界ではちゃんと生きたいんだ。
だって、せっかく貰った二回目の人生だぜ?
人間やり直せるチャンスなんて中々ないんだ、だからこそ今を必死に生きる意味があるんじゃないか?」
説明下手で、話すのも下手で、でもどこか必死で。
彼もまたたどたどしく説明してくれた。
今この瞬間を生きるという意味を。
優しく、丁寧に。
そして、最後に彼はこう言った。
「大丈夫だ、君は生きれる。
リアルでめちゃくちゃだった俺だって頑張れるんだぜ?
リアルで生きてたお前が生きられないわけがないじゃないか」
「……本当に生きて、このゲームをクリアできるんでしょうか?」
「安心しろよ、絶対に君が生きている間にクリアされる。
もしかしたらもう、最初のボスが討伐されるかもしれないぜ?」
「ふふ、なんですかそれ」
私がそういった瞬間。
ポーンという効果音が流れてこういうシステムメッセージが流れた。
『第一層、東エリアのボスが討伐されました!』
「おい、マジかよ……本当にクリアされやがった」
「ゼ・ツーさんは予言者ですね」
彼の必死な説明を受けて私はすっかり笑顔を取り戻せていた。
彼の必死さが、彼の本気さが、何故か私の心に光をもたらせたのだ。
「ゼ・ツーさんの事、ちょっと信じてみます」
「あはは、良かった。
それじゃ、俺は行くよ頑張ってね」
その後、私は三人の元へ戻って『ルリ』ではなく『ルア』としてリアルの三人ではなく、ゲームの三人として。
一緒に、本気で生きる事を決意したのだった。
それから私達はしばらくの間情報収集に集中する事になった。
この中にはベータテストの経験者は一人もいないのでVR版についての知識が圧倒的に欠けていたのだ。
チュートリアルもなければ、ヘルプもないというある意味超鬼畜な難易度。
そんな難易度のゲームで自分の手で新たな道切り開いて、情報を集めて生きていかなければならないのだ。
知っていそうな人を探しては訪ね、探しては訪ねをしているうちに掲示板の事を知り、Wikiなんてものまで作ったプレイヤーが居ることに気がついた。
今までのこの苦労はなんだったのかと、萎えそうになったけれど、これも一つの経験だと思って一つ一つの情報をしっかりとみんなに共有していった。
そうして、ある程度情報が集まった時。
私達4人は北エリアに行って狩りをする事にした。
結果は狩りどころじゃなかった。
町から出て次の村へと進む時に、悪質なプレイヤー12人に囲まれて一気に私達は追い詰められていった。
金を差し出せ?
アイテムを差し出せ?
身体を差し出せ?
心が弱っている頃の私ならコイツらに屈してしまったのかもしれない。
でも今は、あの人が言ったように。
『死ぬ事よりも、生きていないのが嫌だった』
「必死に生きて、必死に頑張れば、夢は叶う……か」
「ルアちゃん、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ。
……あ、ここの紅茶って本当に美味しいんだね」
「ああ、たしかに美味いよな」
必死に生きて、必死に足掻こうとしていれば、彼の言った通り本当に助けが来てくれた。
黒髪で茶色い瞳をした物凄い強い男の人。
何か物凄い武術を使って触れるたびに相手を倒していたのはまさに神業としか言い様がなかった。
嘘だとかいってだけど、妙に様になってたし、恐らく本当にあの人は武術の達人か何かだと思う。
彼は間違いなく極東の聖人、その第一候補だ。
決め手になったのは決闘を申し込まれた時だ。
彼はボス戦に参加していないプレイヤーで、つまりは二つ名持ち程の慣れもレベルも無いはずなのに勝つ気満々だった。
恐らくだが、彼もそこまで本気に隠すつもりじゃなかったのだと思う。
「す、すいません、遅れました!
あ、あの……シオンさんから連絡があって、今日は明日の決闘の準備をするから来れないみたいです」
「本当に決闘受けるつもりなんだな……」
「そ、そうみたいですね」
「ねぇ、ここの紅茶すっごく美味しいよ?
ミオンちゃんも飲んでみる?」
「あ、ありがとうございます」
ミオンちゃんはシオンさんについてきた少女で、どう見ても小学生にしか見えないのだが、本当に19歳らしい。
最近学校で習った数学の問題やら物理の問題を出してみたのだがあっさりと解いてしまった。
最初は年齢を聞いた時に、キャラメイクで作ったのかと思っていたのだがどうやらこれが彼女のリアルらしい。
人体の神秘って本当にあるなんて事は、彼女を見るまでは嘘だと思っていた。
「あれ? 君達って確か『蛮族』と決闘するの人のパーティメンバーですよね?」
私達が今日の予定を決めていると隣の席に見覚えのある人達がやって来た。
とても動きやすそうな格好をしている黒髪のショートヘアの女性プレイヤー。
『超怨念』の二つ名を持っている第六位のナハトさんだ。
「な、ナハトさんじゃないですか!」
「こんにちは、怨念のお姉さん」
「あはは……怨念のお姉さんってまるで幽霊みたいな呼び方ですね。
あのリーダーの方はいないんですか?」
「あ、リーダーは一応俺っす。シ……うぐっ、ちょ、何するんだルア!?」
レンがうっかりとシオンさんの名前を出そうとした時、私は全力でレンの口を押さえつけた。
シオンさん、極東の聖人のプレイヤーネームは私の切り札になる武器だ。
こんな簡単にカードを切られたらたまったもんじゃない。
「個人情報の保護、人の名前は勝手に教えない方がいいよ?
のこりの3人も注意してね?」
「は、はい」
「俺はレンみたいにお喋りじゃないから大丈夫だ」
「え、えと……気を付けます」
「レンはそこで反省してる事」
「すまん、頼む」
よし、これでレンが黙ってくれた。
後の三人は一番歳上のミオンさんと、日頃からそこまで喋らない2人だから安心してもいいだろう。
「あの方が仕切ってましたけど、システム上のリーダーはそこのレンです。
あのお兄さんは明日の決闘の準備してますよ」
「という事は逃げたりはしない感じですか?」
「お兄さんは育神流合気柔術の継承者で、本当に強いんですよ。
あの蛮族って人くらいなら片手で捻れると思いますよ?」
「え、ええと? 何の継承者です?」
「武術の神が江戸時代に作ったとされる柔術の流派らしいですよ。
電光石火の動きで相手を翻弄し、本来なら振れるだけで相手を倒せるらしいです。
ゲームなので、三割くらいの力しか出せないみたいですが」
こういう時は適当に設定を作って言っとくのが吉だ。
シオンさんは、こういうアドリブで設定とかを作ったりするのが好きみたいなのでめちゃくちゃな設定でも作らなければ対応してくれるはずだ。
それに、実際に私を助けてくれた時は目にも止まらぬ速さで相手を倒してたし何とかなるはずだ。
「な、何そのめちゃくちゃな人」
「あの奥義、『不可説転』だっけ? まじでヤバかったよな」
「る、ルアちゃんの言ってる通りに、触れただけで相手が飛んでましたね」
「まるでアニメや漫画の中から出てきたみたいでした!」
「本当にそう言う武術ってあるんですね……」
なんか丸め込めた気がする。
三人とも実際にあの光景を見ただけあって嘘はついていない。
仮に、そういった事を見抜けるスキルがあったとしてもこれなら多分大丈夫だ。
「あの、もし良ければその人に伝言を頼めませんか?」
「内容によるけど何って伝言を伝えればいいの?」
「えーと、あのデュエルを闘技場でやる事にしても良いかという事です。
もし良ければ観客を呼び込んで、賭けなんかをしたりしたいのですが」
そう聞いた瞬間、私は机に手を置いてナハトさんの方へと身を乗り出していた。
「その話、詳しく!」
評価や感想が増えると嬉しいなって私は私は思ってみたり!