上位プレイヤー
「おいクソガキ共、てめぇら人にぶつかっといてそれですまそうってのか、あ!」
「ふ、ふぇぇ!?」
「こ、この人混みじゃ、不可抗力です!
そ、それにそちらにも非があると思います」
「上等だ、クソガキ!」
俺たちが2人を見つけると、堂々と町中で厳つい顔の男に絡まれていた。
どこの世界にもこういういかにもモブそうなチンピラはいるものだ。
なんか騒ぎになってたおかげで直ぐに見つかった。
「はいはーい、ストップ」
「なんだぁてめぇ?」
「そいつらの保護者件、パーティメンバーだ。
文句があるなら代表して俺が聞くが?」
「ほう? なら賠償として500ガルン払え」
うん、何言ってんだこいつ。
まあ、聞くだけ聞いたし帰るか。
「よし、じゃあお前ら帰るぞ」
「おい! てめぇ! 待ちやがれ!」
「俺は聞くとだけ言った、そしてお前は言い分を言った、だが俺は当然それを叶える義務はない」
「そんな屁理屈が通じると思ってんのか!」
「思ってるが?」
「決闘だ、俺とデュエルしろ」
「いいぜ?」
「ちょ、やばいですよ! こいつ二つ名持ちです」
二つ名持ち?
こいつが?
どう見てもただのチンピラにしか見えない。
「『チンピラ』の二つ名でも持ってんのか?
まあ、別に二つ名持ちだろうが構わん」
「よく言ったなクソガキ、じゃあさっさと武器を出せ」
「武器? そんなもんないな。
お前なんぞこれで十分だ」
そう言って俺は拳を構える。
相手がどんなプレイスタイルだろうがHP0の俺には関係ないし、そもそもレベル差の暴力がある。
余程のプレイヤーでなければかすり傷負わずに倒せる自信はある。
「ふざけるんじゃねぇッ! それじゃあ一瞬で勝負がついちまうじゃねぇか!
勝負はお預けだ、二日後の正午にここに来い!
その時も持ってなかったら容赦しねぇからな」
そのまま決闘に移る流れかと思ったのだが、何を思ったのかそのままどこかに消えていった。
よく分からんが、とりあえず明後日の正午にここに来れば良いみたいだ。
まあ、いいか。
どうやらあれでも二つ名持ちみたいだし、対人戦の訓練にはなるだろう。
HPが0なのがバレると問題の種なのでどんな奴が相手でも攻撃を喰らわないようにならないとな。
「よし、帰るか」
「け、決闘を挑まれたのに冷静ですね」
「勝てば問題は無いだろ?」
「そ、そりゃあそうですけど……」
「こんにちは、ちょっといいですか?」
「ん?」
声を掛けられたので振り返るといかにもな拳闘士スタイルの女性のがそこにいた。
先程、転移の広場から出てきたプレイヤーの一人。
殴り呪い師連合のリーダーにしてプレイヤーランキング6位、『超怨念』のナハト。
辺りに呪いのデバフをばら撒きまくり、弱体化した敵を投げ技と組技を使って封殺する殴り呪い師の原点だ。
「あ、確か、怨念のお姉さんだ!」
「すげぇ、本物だ」
「あの人は『蛮族』の二つ名を持ってるそれなりに強いプレイヤーなんですけど本当に良かったのですか?」
「勝てば良い、そうじゃないか?」
「君、私と同じスタイルですよね? 序盤は相性がかなり悪いよ」
……どうやって見抜いた?
さっきのセリフからか?
それともまさかこんな序盤で高レベルの看破持ちがいるのか?
「あ、鑑定は警戒しなくてもいいよ。ユニークスキルの【千変万呪】の効果ですから」
「ゆ、ユニークスキル!?」
なんだそのチートポイもの。
どうやって手に入れるんだよそんなもん。
千変万呪、名前を聞く限りでは呪いの効果を変化させるとかそういう能力か?
それとも呪い系の複合スキルか?
……仮に複合ならくっそ強くね?
「ユニークスキルとかあるんだな……」
「今回のゲームが始まった時にα版でランキング12位までにいたプレイヤーに与えられたみたいだよ」
「マジかよ、チートじゃねぇか」
「確かにチートかな? とは思ってますが使えるものは使いますよ。
こんなデスゲームなら尚更ですよ」
そりゃあ、ランキング上位勢がVR版でも強いわけだ。
あの変態☆紳士はαもβもプレイヤースキルが鬼やばかったらしいのでユニークスキルとかいらないと思う。
鬼に金棒、いや変態にパンツだ。
「確かにな、使えるものは使うべきだ。
で、本題は? ただ心配しただけじゃないんだろ?」
「そうそう、もし良ければギルドに入らないですか?」
「ギルド? えーと、呪いギルド?」
「えーと、そっちじゃなくて『変態☆紳士と愉快なせかわ攻略軍』の方ですね。
君、そうとう強いと思ったから誘ってるんですけど、もし良ければどうですか?」
そう言えばなんかギルド作るとか掲示板に書き込んでた気がするんだが『変態☆紳士と愉快なせかわ攻略軍』って言うのか……相変わらず名前が酷いな。
というか、そっちじゃなくてって事は呪いギルドもあるのか……。
「必要性ができたら参加させてもらう」
「そうですか……ありがとうございました」
俺が断ると、とぼとぼと帰っていった。
あ、なんか落ち込んでるの可愛い。
「さて、これからパーティを組むことになったわけだがまずは役割を決めようか」
喫茶店チョリチョリでホワイトボードを取り出した俺はそこに色々と書き込んでいく。
「まず前衛はタンカーのレンとアタッカーのルア、中衛は魔法攻撃のミオン、後衛はヒーラーのカオリと長距離攻撃のハルト、これに異論は無いな?」
「ミオンさんは中衛なんですか?」
「ああ、長距離系でキャラメイクをしない限りは魔法使いは基本中衛だと思ってくれ。
んで、俺は指揮官役だとでも思ってろ」
そう言って俺は1番後方に指揮官と書き込んだ。
次に書き込むのはメイン役職以外の役割だ。
「レンが俺が居ない時の代理指揮官、ルアが斥候、ミオンが地図、カオリは情報、ハルトがチャッターで異論はあるか?」
「えーと、Wikiとチャッターって?」
「Wikiは情報収集役、つまりは敵モブの情報を調べたりする役割でチャッターは外部とのやり取りを行ったり、いざと言う時に連絡を行ったりする役割だ」
綺麗にこうやって役職を割り当てておくことで1つの事に専念できる為、効率が非常に高くなるのだ。
ついでに全員が『誰かがやってるだろう』と考えて誰もやっていない事態というものを防ぐことができる。
意外とこういうケースが多いのだ。
「シオンさん、チャッターって日頃は何をすればいいんだ?」
「何もやる時がなければWiki役のサポートだな、掲示板でも見て情報を集めるといいぞ」
「なるほど」
「以上、具体的な戦術についてはその場で言う事にするからとりあえず南に行くぞ」
「南ですか?」
「ああ、北も西もプレイヤーが多いが南と東は敵が強いからさほど多いわけじゃない。
そして南は東より敵が弱い、つまりはレベラゲにはもってこいの場所なんだよ」
東は低レベル帯でも出てくるのがレベル4だからな。
このパーティなら頑張れば勝てるとは思うがそれでも負ける可能性が残り、効率が悪くなるので南をチョイスしたという訳だ。
□□
南エリアはちょっとした草原になってる場所が多く、開けていて戦いやすい。
出てくるのは動物系のモブで、代表的なのはブルーブルという牛だ。
「ブヒィィィィ!」
この牛、モーではなく豚のようにブビィと鳴く。
よくあるファンタジーの謎設定だな。
ブルーブルはこちらを見つけたら、即座にレンに向かって猛スピードで突進しきた。
「うぉっ、危ねぇ!」
「避けるな、ダメージ受けてもいいからその盾使って敵を止めろ」
「は、はい!」
「片手剣の盾持ち剣士は盾を使っていかにして敵を止め、どうアタッカーに繋ぐかの役職だ。
少しくらいHPが削られるのを怖がるな」
そうして、突進を避けられたイノシシはそのままの勢いでルアの方へと向かって行ったがそこでミオンが動いた。
「牽制します! 『大いなる水よ、水球を綴りて敵を撃て』」
「ブビィッ!?」
「良い判断だ、盾役以外にはダメージを与えさせるな」
「てい!」
「弓行きます!」
「ルアもハルトも良い感じだ」
一旦タンカーが抜かれたものの、直ぐに体制を建て直してレンがきっちりと盾役をこなすことで超安定した感じになった。
ヒーラーと盾が居るとそれだけでかなり違うものだ。
それからは何度か危ないところがあるものの、安定してレベル3のブルーブルを削りきった。
「意外と行けましたね」
「はぁはぁ……た、盾役って予想以上にしんどくね?」
「頑張れ頑張れ、今のをあと16体倒せばレベルが上がるぞ」
「お、お兄さん、あれ16体ってかなりヘルモードだよ?」
「攻略組はもっと過酷な、って言おうとしたけどアイツらユニークスキルとか持ってるんだよな……。
そりゃあレベラゲもどんどんできるよな」
チート持ってデスゲーム攻略とか一体これはなんなんだよって感じだ。
まあ、チート筆頭の俺が言うことでもないかもしれないが反則もいいところだ。
ただ、ユニークスキルがないβの時代にも一切デスペナを受ける事無く、ソロレベラゲを続けていたプレイヤーも何人かいる。
あの変態☆紳士さんを筆頭にα版のランキング上位数名はβでも強さの桁が違ったらしい。
一位の変態☆紳士さん以外にも、2位の『自爆特攻』という二つ名を持つ、しばぞうというプレイヤーも完璧な間合い管理と立ち回りでまるで芸術のように敵を倒していたし、3位の『絶剣』黒の剣士はまるでその名の通りにどこかのラノベから出てきたような剣技で敵を圧倒していたという。
「お兄さん、ユニークスキルを持ってないプレイヤーも普通に強い人いるよ?
例えばあのゼ・ツーさんとか」
「あー、14位の人か、ならお前らにもできる!
とりあえず最低でも今日中にレベル上げるぞ!」
「「「「「「はい!」」」」」」
ユニークスキルか……。
俺も何か一つは欲しいものだ。
そんな事を妄想しながら俺は今日一日かけて5人を育成していくのであった。
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