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行動が遅い少年の末路


「――――あ゛、あぁあ゛あ!! あ゛あっ!! ああぁあ……あ……」


 シズルはいつの間にか悪魔も剣も手放してしまっていることに気付いて両手足をばたつかせようとしたが、仰向けで両手両足が大の字の状態で縛られていたのでそれはかなわなかった。


 状況が把握できないシズルは体に力を入れることをやめ、乾いた体液で気持ちの悪い服と体、柔らかい土に寝転がる心地よさと木の枝が背中側にあるわずらわしさ、吹き抜ける風の涼しさと、自然のものとは思えない不快な臭いを感じながら呼吸を整える。


「落ち着いたか?」


 聞き慣れない男の声にシズルは驚き、敵意を剥き出しにしながら声のした方向に目をやる。そこには、白い布を顔に巻き、穏やかな目をした男性が座っていた。


「大丈夫、敵じゃない。縛ってあるのも、お前が目を覚ました時に下手に暴れて怪我をしないようにするためだ。まあ、気絶して空中から落とされても無傷なお前なら、心配ないのかもしれないが……。落ち着いたようならすぐ解く。どうだ?」


 シズルは数秒、男を観察し、ゆっくりと頷いた。


「よし。待ってろ、今解いてやる」


 男は立ち上がり、シズルの右手へと近づいていく。


「俺は薬師のホンダ。お前らが運んできてくれた食料の分は、きちんと働くさ」


「悪魔は……?」


 ホンダの情報を頭が整理するよりも先に、シズルの口はその質問をこぼしていた。


「大丈夫。お前が深手を負わせたおかげで、こけおどしの火薬でも逃げてくれたよ。おかげでシエラの治療も間に合った。ありがとう、誇っていいと思う」


 ホンダは右手に続いて右足、左足と縄を解き、左手へと向かう。


「まあ、アレは悪魔というより、悪魔を模した影だな。強さはご存じの通りだが所詮は影。どこかの誰かさんが討伐するのも時間の問題だろうよ」


 その言葉と同時に左手の縄は解かれたが、シズルには忘れていた事実を突きつけられ、心臓を重い鎖で繋がれたように感じた。


「あ……あぁ……」


 みるみる血の気が引いていくのが分かる。

 不自然なほど無傷な自分の体。それは、ダメージを後回しにしているからに他ならない。


 長くとも、あの悪魔を模した影が倒れるまで。


 上半身を起こすと、少し離れたところで横たわるシエラの姿が見えた。


 その体は呼吸で僅かに揺れ、その顔は希望に満ちているように穏やかである。



 シズルの頬に大粒の涙が伝った。



シズルの物語はひとたびここまで。

お付き合いくださった皆様、ありがとうございました。

次の転生者が決まったらまた書きます。

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