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実力の片鱗を見せつける

本来1クラス40人程度の教室に俺を含めて6人しかいないので、教卓を中心にアーチ状に机を並べている。

そこには5人の生徒がそれぞれ座っている。とりあえず遅刻などはないようで安心だ。


「再三自己紹介はしているが改めてさせてもらおう。特別教育学科の担当教師のマルクスだ。これから3年間で君たちを超一流の魔法使いにするため様々な授業をさせてもらう。よろしく頼む」


「「「「「よろしくおねがいします」」」」」

5人の元気な返事が帰ってくる。元気なのはいいことだ。


「ここにいる5人はこれから共に学ぶ学友となる。とりあえず簡単に自己紹介を頼もうか…左側、ハルト=ライムートから行こう」



「ライムート家長男、ハルトです。近衛騎士団に入るべく入学しました。火属性が得意です。よろしくおねがいします」


「…アリアです。回復魔法ぐらいしか使えません…足手まといになるかもしれませんごめんなさい」


「エルネ、七彩の二つ名を持つ冒険者兼魔剣打ちだ。卒業資格が欲しくて学校に来ている。よろしく」


「ヴィオラ…マナエルフです。風と水が得意です。立派な魔法使いになって親孝行したいです。よろしくおねがいします」


「ラウディッタにゃー魔法はばばっと撃つのが得意にゃ。よろしく~」


一通り挨拶が終わったが5人全員…ではないが不安げな顔をした生徒が何人かいる。まあ原因はなんとなく察しが付く。

生徒が異様に少ないクラスにわざわざ配属されたなんて、自分がなにかやらかしたせいだろうかと不安になる気持ちは分からなくもない。


「ではこれから軽いレクリエーションも兼ねて…」


一度訓練場に、と思ったところでハルトが声を上げる。

「その前にマルクス先生に聞きたいことがあります」


「僕は騎士になるべくこの学校に入りました。アンケートでも騎士希望であると書かせてもらいました。なぜ騎士科ではなくこのクラスなのですか?」

不満げな表情を隠しもせず真っ直ぐと見つめてくる。


「そういうことならあたしも卒業資格だけのために来てる。わざわざ特別教育学科なんて仰々しいクラスじゃなくて構わないんだが?」

ハルトの物言いに呼応するようにエルネもまた声を上げる。


「このクラスにいる5人は俺が振り分けテストの結果を見て才能があると感じた奴だけだ。俺が直接指導する以上、お前達を凡百の騎士や魔剣打ちにするつもりはない」


「ですが先生、貴方は騎士や鍛冶師ではない。魔法使いだ」


「俺に騎士や鍛冶師は育てられない、と言いたいんだな?」


「少なくても本職の人よりも優れているとは思えません」


この世界における魔法使いは支援職としてのイメージが強い。

前線で剣を振るう訳でもモノづくりの専門職でもない。

だが俺はただの魔法使いではなく、ありとあらゆる魔法を極めし魔導師だ。

魔法には近接戦闘に用いるための魔法もあるし、モノづくり用の魔法だってある。

それらの魔法を極めるためには当然、それら魔法以外の技術だって極める必要がある。

ならば魔導師が近接戦闘やモノづくりも極めているのは必然。そうでなければ俺は前の世界で最強などと呼ばれない。


とはいえ口で言っても信用されないだろう。

だからこそ一度俺の実力を見せるべくレクリエーションをしようと思っていたのだ。


「お前達が俺を信用してないことぐらい分かっている。だから最初の授業はお前達に俺の実力を知って貰う所から始める」


見てもらった上でどうしても嫌なら他のクラスに移動して構わない。

そう言い加えて全員に訓練場へ移動するよう言った。


…俺とクラスの5人で訓練場へ出てきたのだが、何やら訓練場の様子がおかしい。

訓練場には数十人の教員と武装した騎士と思われる人がいる。


「あ、マルクス先生。訓練場は今は使えないんです」


どうやら訓練場横の森から強力な魔獣が寄ってきているそうで、その魔獣を警戒してこうして訓練場の防護を固めているそうだ。


…元々演習場兼環境保護区としてグロッセーナ大森林という大森林が学園に隣接している。

当然大森林に生息する魔物などが敷地内に入ってくる可能性があるため、普段は森林との境界には結界を張っている。

しかし時折その結界を超えるほど強力な魔獣が迷い込むことがあるそうだ。

そういったときは学院の教員や騎士団が派兵される。丁度今がそのタイミングだったようだ。


その話を聞き、早速魔獣の存在を確認するべく探査魔法を展開する。

…確かに魔獣が1体、結界の近くにいる。強さもそれなりのものを持っている。

ここに集まっている騎士や教師だけなら十分蹴散らせるだろうな。


実力の誇示には丁度いい相手だ。挑発用の魔法を叩き込む。

効果があったようで真っ直ぐこちらに向かってくる。


「来るぞ」


そうボソリと呟くと同時にこちらに迫る地響きが轟き出す。

騎士団や戦闘を教える教員などは一斉に剣を構え、警戒を強める。

地響きが次第に大きくなり、メキメキと木々がなぎ倒される音も聞こえてくる。


木々の破壊音と結界の弾ける音を響かせながら現れたのは紫がかった黒色の毛を持つ巨大な犬のような魔獣。

前の世界では「ベロス種」と呼ばれるタイプの魔獣だ。この種は頭部の数が多いほど強い。

今回現れたのは頭部が一つしか無いベロス種の中で最弱の個体だ。


「で…デーモンウルフだ!天災級がなんでこんな所に!?」

教員の一人が驚愕の声を上げる。

天災級とやらが何かは知らないし、この雑魚に大層な固有名詞がついているのも驚きだ。


魔獣はこちらの出方を伺っているのかすぐに襲いかかるようなことはしない。

騎士団たちも覚悟が決まったかのような表情で相対している。

とはいえ彼らではベロス種の相手は荷が重い。


「そこの騎士君、剣借りるよ」

そう言って俺は近くにいた騎士の持っていた剣を借り、他の騎士団員をかき分けて魔獣の前に立つ。


「無茶だ!魔法使いのあんたに何が出来るっていうんだ!」と教員から声が飛ぶが無視。


適当に身体強化や付与魔法を重ねがけする。

生徒たちに実力を見せつけるという目的がある以上、分かりやすく瞬殺しようと思う。


そうこうしているうちにしびれを切らした魔獣が大口を開いて襲いかかってくる。

それをステップで避け、首を一太刀で刎ねる。

だがベロス種は首を刎ねても数分は暴れ続ける。

俺を引き裂こうとする両爪を腕ごと切り落とし、返す刃で胴体を四つ切りにする。

我ながら魅せることを意識した狩り方だ。


「こんなものだろう。剣は返す」

周りは唖然としている。この反応は想定していたさ。とはいえ思ったよりこの国の防護体制は深刻だ。

国防に携わる人間を一蹴できる魔獣が学院の隣の森に済んでいて、定期的に顔を出すなど学院が成り立っているのが不思議なぐらいだ。


「こういうことはよくあることなのか?」

「い、いえ…そもそも結界を突破する魔獣が来る事自体が1~2年に1回程度ですし…あんな大物が来ることなんて今までありませんでした」

…流石にレアケースだったらしい。だがそれでも防衛面に関してはお粗末だな。

「代わりの結界を張っておこう。あの程度の魔獣なら近寄らない程度でいいか」

今後の防衛体制に関して教員や騎士達と相談しておく必要があるな。


「この死体はどうする?何かに使うか?」

「天災級の素材ですから学院としては頂きたいところですが…仕留めたのはマルクス先生ですから」

そういうことなら死体はそのままにしておいて貰おう。このあとで使うからな。


…生徒たちを放ったらかしにしてしまったな。皆呆気にとられたような表情をしている。

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