才能がある生徒がいた
そんなこんなで7日間のテストが終わり、クラス分けを行った。
基本的には成績よりもアンケートで聞いた本人の希望を尊重した。
ちなみに今年度の段階で高等部に所属している学生は元々3年生や2年生であっても、全員1年生という扱いになる。
これに関しては反対意見も考慮して、(この世界基準の)卒業資格に当たる魔法技術の習得をした段階で卒業希望者は卒業を認めるものとした。
学科は大まかに3つに分かれている。
まずは騎士科。卒業後に近衛騎士団や国営軍への編入を希望する生徒達が所属する学科だ。
戦闘技術は当然だが、防御に重きをおいた魔法などの習得をメインにする。
冒険科。卒業後に特殊傭兵部隊や冒険者になることを希望する生徒が所属する。
個人の能力、特に自衛力が求められる職種なので自己強化や回復魔法を中心に習得する。
魔法科。将来の進路よりまずは魔法使いになることを希望する生徒が所属する。
なんと高等部の8割、約400人がここに所属している。魔法使いへのあこがれの強さが伺える。
前の世界の学校に倣って魔法科はさらに習得魔法に応じて学部に細分化した。
攻撃魔法学部。攻撃魔法をメインとして習得する学部。
文字通り攻撃魔法に特化した学部。卒業時には(後述するとある学科を除けば)魔法攻撃力は随一になる学部だ。
防御魔法学部。防御魔法をメインとして習得する学部。
こちらは防御魔法特化。こちらも卒業時には防御力随一になる学部だ。
支援魔法学部。回復魔法・強化魔法・補助魔法をメインとして習得する学部。
後方から魔法でサポートするのに特化した学部。ある意味ではこの世界における魔法の需要にマッチしているとも言える。
操魔術部。使役魔法や造魔魔法・召喚魔法をメインとして習得する学部。
魔獣使い志望の生徒や、ゴーレムについて研究したい生徒なんかもいたりする。
魔法科学部。魔法を使った機械や魔導具の研究・開発をメインとする学部。
ものづくりが好きな生徒が多く所属している。
魔法薬学部。ポーション調合の勉強をする学部。
薬師志望の生徒がちょっとだけ所属している。あと隠してるつもりだろうけどポーション中毒者が混じってる。
そして最後に『特殊教育学科』
テストの結果、俺が「こいつには才能がある」と選出した5人の生徒だけの学科だ。
他の学科では俺が作った教科書を元に授業が行われるが、この学部だけは1から10まで全て俺が担当する。
卒業する頃には前の世界基準でも世界トップクラスの魔法技術を習得するだろう。させてみせる。
そんな特学に選ばれた才能のある5人を紹介しよう。
ハルト=ライムート。ライムート伯爵家長男。明るい赤髪が特徴的な18歳だ。
テストの際には全生徒の中でも数人しかいなかった魔剣持ちだった。
魔剣に刻まれていたのは火属性付与と身体強化魔法の補助術式。術式としてのレベルは低いが複数の術式が刻まれていた魔剣は唯一だった。この魔剣は一家の長男が受け継ぐ宝剣だそうだ。
だが魔剣よりも、補助込みとはいえこの年齢で身体強化魔法を自在に使えるというのは結構すごい。
身体強化魔法はマナの操作を誤ると筋肉や神経を傷付ける危険性がある。
正しい知識と練習があれば問題ないのだが、魔法技術の低いこの世界ではリスクのほうが大きいのか、学校では習わないそうだ。つまり彼は独学ないし家族から教わったことになる。
にもかかわらず、前の世界基準でもスムーズな強化が行えている。身体強化魔法向きのマナ操作が得意なのだろう。
彼にはより実践的な魔法を織り込んだ近接戦闘とそれに付随した補助魔法を中心に教えようと思う。
魔剣といえばもう1人いる。七彩のエルネ。『七彩』は彼女の冒険者としての異名だ。長身で紺色の髪の22歳だ。
テストのときから7本の魔剣を持ち込み、それらを代わる代わる振るっていた異色の彼女は、元々鍛冶師志望だったが親に猛反対されて家を飛び出し、冒険者として活動しながら各地の鍛冶場を転々としていたそうだ。
その過程で魔剣打ち(鍛冶と付与を両方やる鍛冶師のこと)の存在に強く惹かれ、夢は地元で自分の工房を持つことだったが、工房を持つには少なくても大学院卒業資格がいるそうで、卒業資格のため入学したらしい。
テストの際に見た7本の魔剣はどれも芯が通っており、付与刻印も丁寧に刻まれていた。良い師匠に巡り会えたのだろう。
彼女には魔剣の打ち方は勿論、よい材料の見分け方や危険地帯への素材調達のために必要な力を身に着けてもらおうと思う。
ヴィオラ。長耳と青緑色の髪を持つエルフ。しかしただのエルフではない。
エルフは元々緑や黄色の髪を持ち他の種族に比べてマナ量が多いのだが、彼女はその中から稀に生まれる『マナエルフ』という青緑色の髪と膨大な体内マナ量が特徴の種族だ。
前の世界ではその膨大なマナを軍事利用するべく、大昔に各地でマナエルフの捕獲などが行われた結果、希少種族となってしまった。
この世界では森エルフ(森に住み文明から隔絶した生活を送るエルフ)からは忌み子として迫害されてこそいるが、街エルフ(街に住むエルフ)には個性の一つとして扱われているようでマナエルフ自体は結構な数がいる。彼女もそんな中の一人なわけだがマナエルフの平均から見ても莫大なマナを所持している。
テストのマナ量測定は500回をカウントしたあたりで止めた。しかもまだ余裕がありそうな様子であった。
測定器があれば恐らく数値的には10万以上は出るだろうな(平均は8000程度)。
彼女には膨大なマナを十二分に活かせる魔法の数々を教えていこうと思う。
アリア=ダクマーヤ。回復魔法の名手と呼ばれるダクマーヤ家の次女。儚げな雰囲気を持つ黒髪の16歳だ。
名手というだけあり回復魔法に関しては(この世界基準で)学校以上の教育を受けているようだ。
両親から見聞を広めるよう言われて学校に籍を置いているとのことだが、生徒のリストを見た限り長女が入学していないので、多分体よく追い出されたんだろう。
俺は長女とやらがどんな奴なのか知らないのでなんとも言えないが、少なくてもその辺の人間よりも彼女はよっぽど回復や補助の素質を持っている。潜在的に聖属性を宿しているのだ。
聖属性はマナの六大元素に該当しない例外な属性で、回復や補助にとても高い適性を持っおり、前の世界では生まれ持った人は聖人として教会に祭り上げられるぐらい珍しい存在だ。
彼女には回復と補助魔法、聖属性の攻撃魔法について教えていこうと思う。
ラウディッタ。茶髪に猫耳が特徴的な獣人の17歳。
獣人は元々身体強化系の魔法に適正を持つ種族でその中でも猫人族は移動速度に関する強化魔法、特に脚部に使う強化魔法が得意だ。彼女も例にもれず人間よりは身体強化魔法に適正があるが、同じ獣人内で比べると若干劣る。その代わりに魔法の連射速度に尋常でない才能がある。
テストの際には下級魔法を凄まじい速度で連打していた。総マナ量自体は平均的なのですぐ息切れを起こしていたが…燃費の良い魔法やマナ量増加の鍛錬を積めばあの連射力はかなりの脅威となるだろう。
この5人が俺が選抜した特殊教育学科の生徒たちだ。男女比が残念なことになっているが、これはまあ仕方あるまい。
彼らを導いていくのが俺の仕事だ。そのためにもよい教育環境と、生徒たちとの信頼関係が必要だ。
授業の初日はオリエンテーションと生徒との交流でまるまる使ってしまおうか。授業内容も俺が自由に決められるし。
…そして俺が教師として教壇に立つ初めての日が訪れた。