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学生の力を目の当たりにする

そして迎えた学部振り分けテスト1日目、実技テストを行うために高等部の演習場にいる。

70人の高等部の生徒たちと俺の他に何人かの教師がいるが、彼らはテストの補佐と言うより見学である。

単純に俺がどんなテストをするのかが気になるのだろう。


「さて、それでは実技テストを行う前に、皆を10人1組のチーム分けを行う。1人づつこの箱からくじを引いてくれ。紙に書いてある番号がチーム番号だ」

くじ引きのような物理的抽選は楽に作れる上にランダム性が高いので好きだ。

ちなみに魔法でイカサマできないように簡単な細工もしてある。魔導士クラスなら頑張れば欺けるがまあこの世界の魔法技術じゃ無理だろう。出来るやつがいたならこの世界は放っておいても安泰だ。


そんな訳で7組のチームができた。男女比から学年まで全部バラバラだ。

ざっと全員を眺めたが、自前の武具を持ち込んでいる生徒がそれなりにいる。中にはかなり装飾が凝ったものなどもある。貴族出身とかなんだろうか。


「では最初のテストを開始する。今から召喚する魔物をチームごとに倒れるまで攻撃してもらう。召喚される魔物は反撃を行わないので安心して攻撃し続けるように」

そう言って俺は《クリエイト/クレイゴーレム》を発動する。すると地面に魔法陣が描かれ、その中央から土でできたゴーレム…クレイゴーレムが現れる。

地面が少し歪んでいるが、これは召喚の際に使用された土の分地面が凹んでいるためだ。後でもとに戻しておこう。

併せてゴーレムには《アサルトレジスト》と《マジックレジスト》の2つの補助魔法を掛けている。

これらは全て前の世界なら高等部1年操魔術部の最初の授業で習う、最も初歩的な造魔魔法と召喚獣用の補助魔法だ。


造魔魔法が珍しいのか、その光景を眺めていた学生からは感嘆の声が上がっている。この程度で感心されても困るんだが…

一部の生徒は出てきたクレイゴーレムを観察している。


「あれは…マッドスライム?それにしては粘度が低いっていうか…」

「いや、マッドスライムは大きくても60cm程度だろう。あれはどう見ても1.5mはあるぞ?」

「あんな魔物何処で使役してきたんだろう?」


誰もゴーレムだと思ってないらしい。ちなみにマッドスライムとは文字通り泥でできたスライムで、人形をとる下級魔物だ。

あと誰も造魔であることに気づかない。事前に捕まえた魔物を召喚していると思っているようだ。

高等部の生徒が気づかないということは、一般知識として造魔技術が存在しないことが伺える。一般教養の教科書で見たが、この世界のゴーレムは古代遺跡などに存在する未知の魔法で作られた人形存在という扱いらしい。

教科書のイラストなどを確認したが、造魔魔法で作られるゴーレムと大差ない姿をしていたので恐らく造魔魔法自体がロストテクノロジーと化しているのだろう。


そんな調子で7体のゴーレムを召喚し、それぞれのチームを対峙させる。

「それでは第一テスト、開始!」

俺の掛け声とともに生徒たちがクレイゴーレムへの攻撃を開始する。

戦闘に関する教育はかなりレベルが高いようで、各々が協力して継続的にダメージを与える理想的な集団戦闘の形式をとっている。

だがやはり魔法を使っているのはごくわずか。遠隔担当が矢をつがえる隙を埋めるように射撃魔法を撃つのが散見される程度だ。

強化魔法や補助魔法を使っているような反応は見られない。


…ちなみに《クリエイト/クレイゴーレム》は操魔術士の基本となる魔法だが、その本懐は術者を守る即席タンクとしての役割だ。

なので物理防御が高いのは当然なのだが、今回は《アサルトレジスト》と《マジックレジスト》を両方使用しているので物理防御は更に高く、魔法防御もそれなりにある。

加えて今回は反撃を行わず防御に徹するように命令を出している。前衛で戦っている剣を持った生徒たちはやりづらいのだろう。苦い顔をしている。

…このまま物理一頭辺では倒すのに20分以上かかるだろうな。


そう思っていたが元魔法科の生徒が混ざっている第7チームから声が上がった。

「こいつ水に弱いぞ!水魔法が使えるやつはとにかく使いまくれ!」

どうやら1人の男子生徒がクレイゴーレムの弱点に気づいたようだ。

クレイゴーレムは土でできたゴーレムなので、水を浴びるとその部分が泥になり物理防御が一気に落ちる。

それでも基本水魔法では《マジックレジスト》に弾かれるため、最低でも下級水魔法を使ったことになる。

正直レーヴァンの言う優秀の程度が分からなかったのだが、下級魔法が使えるなら少しは安心できる。

それからは元魔法科所属生以外も積極的に水魔法を使っていき、第7チームは12分程度でクレイゴーレムの討伐を終わらせた。

その様子を見ていた他のチームも真似るように水魔法を使用し、だいたい平均して18分程度で全チームが討伐を終わらせた。


…ものすごく遅い。立ち回りはいいのだが戦略がまるでなっていない。

物理攻撃が効きづらいなら魔法攻撃をすればいいのに、誰もそれを積極的にしないのだ。

教科書を読んだときに感じたことだが、どうやらこの世界では『魔法は強力だが、あくまで戦闘の補助として使うべきだ』という考え方があるようだ。だから使える魔法の種類が増える多属性使いのほうが重宝されるのだろう。

その一端として、ゴーレムの弱点が水であることに気づいても、水魔法で水を浴びせたあとに武器で攻撃していた。水魔法で攻撃し続けているだけでもっと早く倒せたというのに。

そのせいで討伐時間が異様に伸びた。見た感じ元魔法科以外の生徒も7割程度は下級魔法が使えるよう見受けられたので、魔法主体で戦えば5~7分は短くなったはずだ。


そもそも10人がかりで12分も掛かるのがおかしいのだ。

前の世界の高等部攻撃魔法部の生徒なら同様の条件で単独でも5分で討伐できるはずだ。

その原因としては「魔法はあくまでも戦闘の補助的存在」という考え方が根付いているもそうなのだが、自前の武具を持ち込んでいる生徒の達の中に、誰一人として魔剣持ちがいないのも関係しているだろう。


魔剣はその名の通り魔力が籠もった武器のことだ。籠もっている魔力や刻まれている術式などによって効果は異なってくるが、大体は付与魔法の手間を省くのが目的だ。

戦闘中の付与魔法の手間が省けるので、前の世界では戦闘をする者ならとりあえず一本持っておく程度には普及していた。俺も何本か収納魔法に入れてある。

近接戦闘は眼を見張る部分もあるので、持っている武器を魔剣に変えるだけでも戦闘力は大幅に増加するだろう。


「第一テストは以上だ。10分後に次のテストを行うので、各自この箱の中にあるポーションを飲んで体力と魔力を回復するように」

そう言ってポーションの入った箱を出した。赤い色のヘルスポーションと、青い色のマナポーションだ。

ポーションの色を見た瞬間に生徒たちが渋い顔をしていた。


これは前の世界から持ってきた素材で作ったものだが、素材自体はこちらの世界でも調達できるのを確認している。別に色を付ける必要はないのだが、前の世界では誤飲を防ぐためにわざと特徴的な色を付ける風潮があった。

こちらの世界ではそういった風潮はないようなのだが、つい癖で色を付けてしまった。

馴染みがない色に困惑しているようなので、色ごとの説明をして目の前で飲んで無害であることを証明した。


「…ちょっとしたいざこざはあったが第二テストを開始する。次は先程までと逆で、防御のテストだ。先程召喚した魔物が今度は攻撃をしてくる。10分耐えるかギブアップ、または俺が危険と判断してリタイアになると終了だ。倒してもいいぞ」

同じ敵なら弱点がわかってるから楽勝…そんな顔をしているな。勿論そんなに甘くない。


「ただし、今度はより強めの補助魔法をかけるので倒そうと思うなら本気を出すように」

そういって召喚したクレイゴーレムは、見た目こそ同じだが使っている補助魔法が違う。

先程までの魔法の他に、物理防御をより高める《硬質化》と魔法から身を守る《マナウォール》を展開している。

もし今ここにいる生徒がこれを倒そうと思ったら…俺が出した指示を完璧にこなしたとしても1時間以上は掛かるだろうな。

その上今回は反撃もするし魔法も使う。使う魔法は…一応彼らが正面から防げそうなギリギリのレベルにしておこう。


「では第二テスト…始め!」




…7チーム中3チームがリタイヤ、2チームがギブアップ。残ったチームもあと2分長かったらリタイヤだっただろう。思った以上に耐えられなかったようだ。

原因は恐らく対魔法戦闘の知識不足だろう。物理的な攻撃に対してはいい動きをしていたが魔法が飛んできた際の動きが稚拙だ。飛んできた風魔法をただの剣で叩き落とそうとするのは流石に無茶だ。

やはり物理戦闘に対して魔法戦闘の技術が低すぎるな。

あと水魔法が《マナウォール》に防がれているのを分かりながらも水魔法を連打している生徒もちらほら見受けられた。まぁこれは意地っ張りなだけだろう。彼らはまだ子供だ。



…再びポーションを飲ませて、次のテストを行うことにする。

「次が最後のテストだ。昨日配ったアンケートに自分の得意な属性を書いてもらったと思う。その属性ごとに指定した魔法を使い続けてもらう。つまり、同じ魔法を何回使えるのかを数えるということだ」

指定した魔法を使ってもらい、回数を記録しておくことで大まかだが使用者の総マナ量が分かる。それを測るものだ。

本来ならマナ量測定器を使うのが一番いいのだが流石に前の世界からは持ってこなかったし、この世界にはそもそも存在しないらしい。不便なのでそのうち材料を集めて作ろうかと思っている。


生徒に使わせるのは基本属性魔法だ。属性ごとの最も基本となる魔法で、威力も低い。

火・水・土・光属性なら拳大の玉を飛ばす魔法、風と闇属性は前方に小さい刃のようなもの(通称ミニカッター)を飛ばす魔法だ。


「1づつ俺が数字を言っていくので、聞こえてから魔法を使うように。使えなくなったら手を上げて後ろに並べておいた椅子に座って待機だ。それでは第三テストを開始する」

俺のカウントに合わせて生徒たちが魔法を使う。ちなみにカウントは一定回数ごとに間隔が短くなる。前の世界の高等部だと平均で80~90回ぐらいだ。




平均で86回といったところか。総マナ量は前の世界の平均と変わらないようだ。

これは素直に安心した。もしこれが平均40回とかだったら総マナ量が低い原因を突き止めた上で()()()()()()()をしなきゃいけなかったので面倒が一つ減った。


こうして初日のテストが終わった。今日でおおまかなこの世界の平均がつかめたと思う。

今日の中には能力が突飛した生徒もいなかったので、明日以降はそういった生徒がいるかどうかも併せてチェックしていこう。

テストの内容について(前の世界の高等部魔法科で採用されている共通テスト)


1.攻撃力テスト

ゴーレムを何分で倒せるかを測定するテスト。制限時間10分。

使用されるゴーレムは操魔導士の初歩であるクレイゴーレムにちょっとした補助魔法を掛けたもの。

高等部平均タイムは6分。攻撃魔法が得意なら更に短くなる傾向がある。


2.防御力テスト

魔法を発動するゴーレム攻撃を正しく防御するテスト。制限時間10分を耐えきる。

ゴーレムは近い敵には近接攻撃、遠くの敵には魔法攻撃を行う簡素な命令系統を受けているため、遠くにいれば魔法を防ぐだけになる。

防ぎ方は防御魔法や対となる属性をぶつけるなど、何をしてもいい。

10割の生徒が耐えきれる。内約4割は無傷。


3.マナ測定

マナ測定機を用いて自身の総マナ量を測定する。

普通はあんな魔法版シャトルランのようなことはしない。マナ切れで疲れるし。




次回にやっとヒロインっぽいのが名前だけ出る

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