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異世界の教育方針を指摘する

「採点が終わりました。まさか満点だとは…御見逸れいたしました」


当然の結果だ。前の世界なら高等部卒業生全員が満点を取れる程度のテストだからな。


「予定通り、先生には高等部の授業を受け持ってもらいたいと思います」

「それは構わないが…この教科書を使わなければ駄目か?」

「別に使わなくても構いませんが…この教科書が世界で最も優れた教科書になりますよ」


正直この教科書を使っていたのではこの世界に魔法技術を広めるなどというのは無理だ。

できれば自前で教科書を用意してそれを使いたいぐらいなのだが…一応提案しておくか。


「分かった、自分で教科書を執筆する。1冊完成したら増刷して欲しいのだが…構わないか?」

「うーん、私だけの判断ではなんとも…内容にもよりますので」

「まあ完成してから考えてくれて構わない。とりあえず高等部について色々聞きたい」

教えるにしても教える相手のことを知らないのはまずい。

現状の技術などについては本人たちを見ればいいだけの話だが、それ以外にも知りたいことは何個かある。


「まずは魔法科の総在籍数と学部に関してだが、どれぐらいだ?」

前の世界では基本的に高等部からの魔法科は、本人たちがどんな魔法使いになりたいかによって更に細分化された学部に分かれる。

攻撃魔法を覚えたいなら戦闘魔術部、治癒魔法や補助魔法なら支援魔術部、ゴーレムや魔物を操るなら操魔術部…といった具合だ。

「学部…というのはよく分かりませんが、魔法科の在籍数は80名。全員が6属性全てと治癒や補助などの特殊魔法の内1種類を習得している優秀な魔法使いです」

「…5属性以下の生徒はいないのか?」

「魔法科への編入条件が6属性と特殊魔法1種の習得なのです。5属性以下ではそもそも魔法使いとして扱われませんからね」


…なるほど、この教育方針も魔法技術の停滞の原因だろうな。

本来、魔法を覚えること自体には才能は必要ない。きちんとその魔法を理解した上で勉強すれば誰でも魔法を覚えることはできる。

だが、より多くの魔法を覚えようとするのは大変だ。人間にはどうあがいても習得できる魔法の数に限りがある。前の世界では『キャパシティ』や『習得容量』などと呼ばれていた。これらはある程度は訓練で伸ばせるが、一定量以上になると生まれ持った才能が必要になってくる。

なので複数の属性を伸ばすよりも、1~2属性程度を極めたほうが魔法使いとしてのスペックは高い事が多い。

しかし、この世界では魔法使いといえば6属性以上の魔法を操る者を指す。つまりどうあがいても器用貧乏しか生まれないのだ。

この辺りも改善点だな。


「魔法使いにはそれぞれ得意とする属性がある。一度高等部全生徒の適正属性や好みを見極めた上で、属性ごとの学部に分けたいと考えている」

「なるほど…今までの教育方針とは異なりますが、レイチェル様よりマルクス先生には自由にやらせてほしいと言われております。お任せいたしますよ」


レイチェルとは誰だ、と思ったが恐らくあの女神の偽名だろう。

異世界の常識を塗り替えるような教育をさせるために色々根回ししてくれていたようだ。


「ですが、高等部全員となると大変では?」

「そうだな、複数日に分けて振り分けテストというような項目でやらせてもらえればと思う」

「分かりました。始業式の翌日から1週間程は振り分けテストの期間といたしましょう」


これで見た目は前の世界の教育機関のような学部へと振り分けできるだろう。

なにか新しいことをする場合には、まずは既存のものを真似るのが一番だ。

まさか前の世界で3年だけ教鞭を執っていた経験が生きるとはな。長生きはしてみるものだ。


…実際に教壇に立つのは4月から。まだ日にちに余裕がある。

自宅の整備や教科書の用意などをしておくとしよう。

時折学院に顔を出して、校長と教育方針に関してや、他の教員への挨拶なども併せて行っていった。




そうして迎えた4月、高等部の始業式。

レーヴァン校長の挨拶などが終わり、式の最後に自己紹介の場を設けてもらった。


「マルクス・マイズナーです。今年度より高等部の魔法科を中心に様々な授業を請け負うことになります。みなさんが立派な魔法使いになれるよう指導していきますのでどうかよろしく」


…挨拶などこの程度でいいだろう。どうせ明日以降は素で対応するし。


「…では、始業式を閉会いたします。生徒の皆さんは教室に戻った後、明日以降の学部振り分けテストに関しての説明を受けてください」

レーヴァンの締めの挨拶とともに、生徒たちがぞろぞろと教室に戻る。

このあとは俺もいくつか教室を回り、明日以降のテストに関しての説明をしなきゃいけない。


というわけで今俺は魔法科の教室にいる。

「先程挨拶をしたが改めて自己紹介だ。俺はマルクス・マイズナー。魔法技術全般の教員だが高等部全生徒を請け負うことになっている」

「それは魔法以外の授業も担当されるということですか?」

そう質問を投げてきたのは1人の男子生徒だ。委員長などしてそうな見た目だ。

「その通りだ。とは言っても基本的には魔法学と各種戦闘学がメインだ」

戦術心理学についてはわざわざ再訂するような内容ではないし、この世界に来て1ヶ月もない俺に一般教養など無理だ。この世界の常識など知らん。


「さて、君たちには記名式のアンケートを書いてもらう。高等部3年間の学部、ひいては君たちの将来すら左右しかねない大事なものなので、真面目に書くように」

そういってアンケート用紙を配る。内容としては自身の得意な属性や、自分が一番自身のある術式、将来どんな魔法使いになりたいかといったものである。

「そのアンケートは明日以降の振り分けテスト時に回収する。それまでに記入しておくように。将来を左右しかねないなどと言われては流石にすぐには書けないだろう。なので家に帰ってじっくりと考えてほしい」

「振り分けテストの内容については教えてくれないんですか?」

先ほどとは別な生徒が質問してくる。耳の尖った女子生徒。エルフ…いや、体内マナの質的にハーフエルフだな。

「実技テストを行う。必要な道具などは全てこちらで用意するが、もし使い慣れた武具や魔導具があるなら持ってきても構わない。テストは丸一日行うので各自睡眠不足などが無いように気をつけるように」


武具を使うと言われて模擬戦をやるとなんとなく想像がつくのだろう。活発そうな男子生徒たちは拳を合わせやる気を見せている。

ちなみに最初は各クラスごとにテストを行おうと思ったが、同じクラスだと技能が偏っておりテストの内容的に問題があると判断したため、事前に全生徒から1グループ70名程度のグループを7個作っておいた。

1グループごとに丸一日使って振り分けテストを行う予定だ。ちなみに残りのグループはテストに向けて自習するように伝えている。


「他に質問がなければ今日は以上だ。明日以降のテストを頑張るように」

こうして俺の教員生活1日目が終わった…と言っても本番は明日からだ。

明日から7日間、全生徒のテストを監査するわけだからな。


…この世界に来てからまだ魔法を使っているところを見たことがない。

魔法技術の低さは教科書から察せるが、実際のところどうなのか…

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