接近
その日の夕食には彼は来なかった。
お父様が言うには布団から出てこなかったと言う。
慣れるまでは部屋へとご飯も運ぶと言っていた。
部屋は私の部屋の隣で気にかけてやって欲しいとも言われた。
その日の夜、ふと目が覚めてしまい台所で水をもらおうと部屋を出た。
するとすすり泣く声が聞こえ、目をやると彼がうずくまり泣いていた。
「大丈夫?」
彼は静かに私を見上げる。
そして小さく「ごめんなさい、叩かないで、ごめんなさい」と呟く。
少し下の方が濡れてるように見え、おそらくおねしょをしてしまったんだろうなと推測できた。
「ここでは誰もそんなことでは叩かないよ」
私はそう言って髪を撫で、うずくまる彼を抱き締める。
「本当…?」
消え入りそうな小さな声。
夕食時にお父様に聞いたが、彼はまだ3歳なのだ。
「大丈夫だよ。心配ならお姉ちゃんが一緒に謝ってあげる。」
「ほんと?」
「うん」
「…ありがとう」
「じゃあ、着替えようか。カロンを呼んでくるわ」
「えっ…」
私はカロンを呼びに行こうと立ちあがった。
しかし服の裾を掴まれ拒まれた。
長い髪から潤んだ綺麗な瞳が「行かないで」と訴えかける。
「でも…濡れていたら気持ち悪いから着替えた方が…」
「あっ」
服の裾を掴む手が震えている。
ー大人が怖いのかな…
「じゃあ、私の服になっちゃうけどそれに着替えて私のベッドで寝ようか」
彼は静かにうなずく。
服の裾を掴んでいた手を服から外しその手を握る。
手を引き、自分の部屋へと連れていく。
クローゼットを開けるために手を放し、彼が来ても問題ないものを物色する。
シンプルなネグリジェがあったので濡れている服に下着を脱がせそれを着せる。
下着はー仕方ないよね。ないから。
ベッドに案内し自分が先に入りどうぞと布団を持ち上げる。
少し戸惑っていたが肌寒いのか私の横に入る。
「あったかい…」
「布団温かいね」
「ううん、お姉ちゃんがあったかい…」
「そう?」
「うん」
「そう言えば名前、ちゃんと聞いてないな。お姉ちゃんに教えてくれる?」
「…セヴィ…」
「セヴィって呼んでいい?」
「…うん…」
温かいのかうとうとしてきたセヴィの背中をポンポンとリズミカルに軽く叩く。
小さく寝息が聞こえてきた。
その寝息を聞いていると自然と私にも眠気がやっていた。
あくびをして私も目を閉じた。