前世を思い出す
私が発熱を伴って倒れてから1週間経ったらしい。
らしいと言うのもカロンが目を覚ました時に言っていたからだ。
私の今の名前はリアナ・コーラル・スコルプ。
あの時、妹の名前がきっかけとなり、前世の記憶が蘇ったのだ。
前世の記憶は6歳の私の頭には膨大で処理が追い付かず熱を出して倒れてしまったようだ。
ーはぁ…これが噂の異世界転生か…。
よく異世界転生の小説、漫画は読んでいたがいざ自分がその立場になると複雑だ。
今私の頭にあるのはリアナとしての記憶と前世である高梨千羽としての記憶が混じりあっている。
前世の私は日本と言う国でオタクな普通の会社員でだった。
最後の記憶は乙女ゲーム『星屑と虹色のラプソディ~精霊との誓い~』(略して星ラプ)のラストライブイベントの帰りに電車を待っていて知らない人に線路に突き落とされたところで終わっている。
おそらくそこで死んだのだろう。
死んでしまったら仕方ないのでリアナとしてきちんと生きて行こうと思うのだが、前世の星ラプというのが肝なのだ。
ー多分だけどここは星ラプの世界だわ…。
前世の記憶を取り戻した“ロゼリア・ルージュ・スコルプ”と言う名前は星ラプのライバル悪役令嬢の名前なのだ。
星屑と虹色のラプソディは 虹色の赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の7色をモチーフとした7人のキャラクターがおり、魔法がある中世ヨーロッパのような世界観のRPGを基調とした乙女ゲームである。
そこでヒロインを邪魔するのが悪役令嬢、ロゼリアである。
ヒロインへの注意だけではなく犯罪紛いな嫌がらせも多く、嫌いな人も多いキャラクターだが私はロゼリアにスポットを当てた外伝の小説が意外に好みでロゼリアのことはそこまで嫌いではなかった。
その小説にロゼリアの姉の記述があった。
名前はそう、リアナ・コーラル・スコルプ、今の私の名前である。
私は部屋にある姿見で自身の姿を確認する。
小説の記述通り、ピンクプラチナのサラサラな髪にピンクゴールドの瞳だ。顔はあまりロゼリアには似ていない。現在6歳と言う年齢故かもしれない。
小説、ゲームを通しリアナはあまり登場しない。ロゼリアと仲が良く、ロゼリアが4歳になった頃、隣国の第2王子と婚約が決まり、花嫁修行も兼ねて隣国に行くことになった。
その頃にスコルプ家の跡取りとして攻略対象の1人、セヴィ・グラナート・スコルプが養子に来てからロゼリアの環境は悪化していく。
母はセヴィが父の愛人の子供だと判断してしまい、父、セヴィのことを目の敵にする。
段々と精神を病んだ母はロゼリアすら認識しなくなる。
ロゼリアは父と母の不仲、姉が出ていったのはセヴィのせいだと感じ、セヴィのことを苛めぬく。
父はセヴィは跡取りなので厳しく育てていきセヴィには居場所がなくなる。
そしてヒロインに出会い、傷付いた心を癒していく。
なんて言うのがスコルプ家の今後である。(あくまでも予定だが)
正直、リアナにはロゼリアが処刑されても特に変わりはない。
第2王子がなかなかの浮気者らしく、幸せかどうかは定かではないが死亡フラグは一切ない。
ーでも…このままでいいのだろうか。
物思いに更けているとドアを叩く音がした。
「リアナ様、失礼してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「失礼したします」
カロンが静かにドアを開ける。
「何かあったのかしら?」
カロンに向き合いそう問いかける。
「マリア様の体調が落ち着いたようですのでロゼリア様とお会いしても良いと当主様よりお話がありました。」
「お母様の体調は大丈夫ですの?」
「産後の日達はあまり良くなかったようですが、今は食事も取れているようで問題ないみたいです。ロゼリア様にはお会いいたしますか?」
「なら良かったわ。ロゼリアには是非会ってみたいわ。今からでもいいのかしら?」
「問題ありません。参りましょうか」
ーとうとう会えるのね。
私はカロンとともに部屋を出た。