第6章私。走ってます。
そして次の日の朝、先輩が日課のランニングを行なっていると前から走ってくる結衣を見つけた。
「先輩。奇遇ですね」
結衣は先輩に笑いかけた。
先輩は苦い顔をして言った。
「何が奇遇だ。お前の家は逆方向だぞ。どうやってここまで来た?」
結衣は平然と言った
「走ってきました」
先輩は驚いた。
「嘘だろ。3キロくらいあるんだぞ」
「それ位余裕ですよ。それより走りましょう」
結衣はそう言うと先輩と併走を始めた。
先輩は走りながら結衣に話しかけた。
「お前ってさ。身長何センチ?」
結衣は元気一杯に答えた。
「163センチです。先輩は?」
「そうか。俺は178センチだ。」
すると結衣は嬉しそうな顔を浮かべた。
「15センチ差じゃないですか。男女の理想の身長差ですね。これは結婚するしかないですよ」
先輩は少し考える様子を見せた。
理由は単純である。
どう見ても結衣と先輩に15センチも慎重さがあるようには見えないからである。
そして言った。
「お前。身長のさば読んでるだろ。」
結衣は先輩から目を背けた。
「どうなんだ。答えろよ。」
結衣はしぶしぶ答えた。
「はい。本当は168センチです。」
「5センチか大分違うな。」
すると結衣は言った。
「でも先輩も身長嘘ついてますよね。本当は174センチですもんね」
先輩は驚いた顔をした。
「なんで知ってるんだよ。プロになるために不利かもしれないから本当に誰にも言ってないのに」
結衣はそれを聞いて得意げな表情を浮かべた。
「私。保健委員ですから。」
「いや。それはおかしい。保健委員だからって別にそんな権限ないだろ」
「こっそり書類を読みました。だから先輩の身体データは大体知ってますよ」
「さすがの俺でもそれは引くわ。」
そう言いながらも先輩は結衣と共に走り続けたのだった。