第3章私。サッカーやります。
「よし。今日は紅白戦やるぞ。」
そんなある日、女子サッカー部では紅白戦を行う事になった。
「二葉と日高はAチームに入れ。二葉はボランチ。日高はフォワード。良いな」
「「はい」」
コーチの発言に全体が少しざわついた空気になった。
まだ入部したから3ヶ月も経たない一年生の2人がレギュラーであるAチームに入るよう言われたためである。
「愛美ちゃん。気楽に頑張ろうね。」
「うん。取り敢えずドリブルするよ。」
結衣は愛美の様子に少し不安になった。
しかし、その分は自分がフォローすれば良いと気を取り直した。
そして試合が始まった。
愛美は緊張からか急にパスを出したり、逆に妙に長くボールを持ち続けたり、無茶なドリブルを仕掛けたりした結果、チームの足を大きく引っ張った。
それに対して結衣は、広い視野と豊富な運動量でチームを大きく助けた。
「やっぱり上手いね」
「なんでもトップチームへの昇格を断ったらしいよ」
補欠の部員達は結衣の他の部員からは頭一つ抜けた素晴らしい動きに衝撃を受けた。
その様子は隣のグラウンドで練習している男子サッカー部にも伝わった。
「なんかサッカー部に凄い新人が入ったらしい。」
「あのうるさい奴だろ。あんなに上手かったのか?」
「どうしたお前達?もしかして二葉がプレーしてるのか?」
女子サッカー部の練習試合を男子部員が見始めたことに気付いた先輩も隣のグラウンドから女子の練習を見始めた。
すると結衣の表情が変わった。
ディフェンスラインまで下がってボールを受け取ると鋭いドリブルで中盤を持ち上がった。
そして、相手のディフェンス、ボランチが結衣を防ぐために、向かってきた事を確認すると叫んだ。
「愛美ちゃん。裏―」
愛美はその言葉を聞くと少し上がったディフェンスラインの裏に向かって必死に走った。
するとそこに結衣からスルーパスが届き、愛美は走り出した。
(これは絶対に決めなきゃ。)
しかし、力んだ愛美はバランスを崩して転びかけてしまいその間に戻ってきたディフェンスに囲まれてしまった。
(どうしよう。また足を引っ張っちゃう。)
愛美は軽いパニックになりながらも必死にボールをキープした。
すると斜め前に空間が開き、そこに結衣が見えた。
「愛美ちゃん。返して。」
愛美は反射的に結衣にパスを出した。
結衣はそのパスを受け取ると正確なシュートでゴールを揺らした。
そしてそのまま結衣は男子が見ている隣のグランドの方に向かうと言った。
「先輩。見ましたか?私は点取りましたよ。惚れませんか?」
それを見た同じ女子部員のチームメート達は頭を抱えた。
先輩はいつも通り冷静に言った。
「凄く綺麗に決まったな。だけど今のはフォワードの娘の飛び出しとキープが大きかっただろ」
すると結衣は嬉そうに言った。
「はい。愛美ちゃんは良いプレイするんですよ。そうだ。先輩。今暇ですか?この後、お茶でもしながら今のシュートについて話し合いません?」
先輩は苦笑して言った。
「それは魅力的だな。だが後ろを見たほうが良い」
「後ろですか?」
結衣が後ろを振り返ると激怒した様子の監督が来ていた。
「二葉。試合中だぞ。何している?」
結衣は気まずそうに答えた。
「えっと。パフォーマンスです」
「練習試合にパフォーマンスは要らん。この試合が終わったら罰走をしとけ」
「罰走ですか?」
「そうだ」
結衣は気落ちしたように、グラウンドに戻った。
すると愛美が声をかけた。
「結衣ちゃん。ドンマイ。後で私も一緒に走るよ。」
結衣は愛美が満面の笑みを浮かべ顔を高潮させている事に気付き言った。
「愛美ちゃん。なんだか凄く嬉しそうだね。」
愛美は照れくさそうにいった。
「だって私、アシスト決めたの初めてだったから。」
それを聞くと結衣は愛美を抱きしめた。
「愛美ちゃん。本当可愛い。」
愛美は機嫌がよほど嬉しかったのか、珍しく素直に応じ、結衣を抱きしめ返したのだった。