第1章プロローグ
夕方、既に薄暗くなった頃、少年は黙々とサッカーボールをゴールに向けて蹴っていた。
華奢で背も大きくは無いが、顔立ちは整っており、真面目で優しそうな少年だった。
そこに、少女がやって来た。
少女は、短い黒髪に、スレンダーな体型をしていたが目鼻立ちははっきりしており、少し西洋風の顔立ちだった。
少年は全てのボールを蹴り終わるとボールを全て片付け始めた。
少女もそれを見ると少年の片づけを手伝った。
そして全て集め終わると少年は少女にお礼を言い、今度はボールを拭き始めた。
少女も手伝おうとしたが、少年はそれを拒んだ。
恐らくボールを磨く事は少年にとって一種の儀式なのだろう。
少女はボールを磨く少年を見ながら言った。
「先輩。私と付き合ってください。」
少年はボールを磨く手を止めずに言った。
「それは無理だ。」
少女は食い下がった。
「どうしてですか?」
「何度も言っただろ。俺はサッカーに集中したいんだ。プロを目指してるからな。」
少女は目を輝かせて言った。
「夢を目指す先輩はやっぱりかっこいいです。付き合ってください。」
その言葉を聞いて少年は苦笑した。
「相変わらず人の話を聞かないな。そう言うお前はどうなんだよ?」
「私ですか?」
少女は不思議そうに尋ねた。
「ああ。お前はプロを目指さないのか?」
少女は驚いて答えた。
「目指しませんよ。私の夢はサッカー選手じゃなくてお嫁さんですから」
それを聞くと少年は呆れたようにまた笑った。
少女は少年に近づくと言った。
「でも誰でも良い訳じゃありませんよ。私は先輩のお嫁さんになりたいんです。」
「お嫁さんね。そっちはあんまり才能なさそうだけどな。料理とか出来るのか?」
「大丈夫です。それは先輩がやります。」
少年はそれを聞いて笑い出した。
「相変わらず面白いな。でも答えは一緒だ。俺はお前とは付き合わない。今はサッカーに集中したいからな。」