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Act2. The Girl

 

エル。これが僕の名前だ。


「エル。君は今までどこに行っていたんだ?」


 僕達が暮らしているB地区南部に建設された『コクーン』と呼ばれる養育施設で、門限まで帰ってこない僕をスタッフの人が説教する。僕はあまりルールに縛られるのが元から好きじゃなくて、よくいつもマイペースに外に出歩いたり、時々だけど丸一日帰ってこない時もある。そんな僕をスタッフの人は最初は叱りこそしたものの回数を重ねていくに連れて呆れさせてしまう程だ。


「お前またどっか出歩いてたのか?」


 僕より少し身長が高くてがたいも良いタケルは笑いながら僕の背中を叩いて言う。彼は数少ない友人の中でも特に親しい仲で、初めて友人になったのも彼だった。


「あんまり施設の人を心配させんなよ?」


「……分かってるよ」


 その言葉を何度言われたことか。僕は一人でいることを好んでいて、この施設にいると騒がしいし施設の人も口うるさい。だから僕はここにいたくない、ただそれだけなのに。



「ねぇタケル。僕ってどう見える?」


「は? どう見えるかだって? そんなの別にただの人間だろ」


 何言ってんだコイツはという顔で僕にそう言う。


「いや、そうじゃなくてさ。タケルから見て僕はどんな人に見えるかってこと」


 意味が分からない、と?マークを頭に浮かべつつ、そうだなぁと唸っている。


「一見頭が良さそうで美少年系だけど本当は腹黒いマイペースで怠惰なやんちゃ坊主、とか?」


 そして言い終わった時にタケルは吹き出して、必死に抑えようとしてるがかえってそれがダメらしく止めるに止められていない。


「タケル。今日提出のタスクは終わったんだよね、勿論」


 僕はニコッと笑ってそう訊く。するとさっきまで腹を抱えて笑っていたタケルが急に態度を変えて神妙な面持ちで見つめてくる。


「……エル様。天使のような美少年の心優しい聖人のような方よ。どうか、どうか──」


 続きを遮って僕は耳を塞いで歩き出す。タケルは下を向いて拝み倒しているので気付かない。暫く歩いて僕が自室に戻り部屋で本を読んでいるとタケルがドアをバーンと開けて今にも泣きそうな顔で「エルぅぅぅ……お前しか頼める奴いないんだよぉぉぉ」と訴えてきた。僕はそんなタケルを見ていつも可哀相に思ってしまう。そんな甘い自分を戒めつつ机の引き出しから今朝川の辺に行く前に終わらせておいたタスクを取り出す。


「エ、エ、エル様ぁぁぁ!! 本当にありがとうございます!!」


 タスクを受け取ったタケルは上機嫌で気持ち悪くスキップをしながら部屋を出ていった。調子のいい奴だと思いながらもいい友人を持てて良かったと心の隅では感謝している自分がいる。


 ビーッ。全館にけたたましくベルが鳴る。これはセンターホールに集まれという指示のベルで他にも幾つか別の種類のベルが鳴る。起床の時やご飯の時、始業時間を知らせる時がそうだ。


 10分くらい経ってからセントラルホールには約1000人の子供達が集められた。皆ほぼ同い年だ。少しして施設長のゲンロクさんがステージに現れた。


「こんにちわ。今日も皆元気なようで何よりです。ところで近々皆の待ちに焦がれた夏期休暇が来ますね」


 そこまで言うと子供達がどっと沸いた。皆本当に楽しみにしているようで、何故ならその間はタスクや勉強などをやらされることなく完全な自学制になり、そしてこの施設から自由に出ることができ娯楽を楽しめるからだ。本来は外に出るにも遊ぶにも施設の人から許しを得なければならない。……僕は黙って出ちゃうけど。


 ゲンロクさんがそれから5分ちょっと話してお話が終わり、タスクの確認などをしてその日は解散となった。皆ウキウキしているらしく、各部屋に戻る時に耳に入ってくることの殆どが夏期休暇のこと。どこにいくか、何をするか、などと友達と和気あいあいで話している。それは男女関係なしでも話していることで本当にただの『気の合う』友達として、だ。


 集会が終わってからはその後することは明日のタスク以外に無かったので、僕は一人になりたくて、施設の地下にある少し肌寒いシアタールームに来た。映画は夏期休暇の時やそういう何かイベントのある日以外やっていない。だから人が居るなんてことはなく、僕は一番後ろの座席に座った。


 真っ黒な大きい画面を、僕は殆ど無音の中じっと見ていた。考えることもやめてじっと。そうしていると心が落ち着いて、「僕は一人なんだ」と安らぎを得ることが出来る。何の気兼ねもなく誰かに気を遣うこともなくただ一人だけ。それがどれだけ素晴らしいことか。早くここから出たい。それが僕の願いだった。


「君、エルって言うんだね」


 画面を見ていて気づかなかったが、画面下の少し盛り上がったステージの上に彼女は立っていた。右足首には治療を受けた跡である湿布のようなものが包帯とともに巻かれていた。


「君はいつからそこに?」


「さっきからいたよ? っていうか折角名前も知れたんだし君じゃなくて名前で呼んでよ」


 僕の名前は君が一方的に知っただけなんだけどね、なんて言えないので僕は仕方なく名前で呼ぶことにする。


「じゃあユラ、どうしてここにいるの?」


 一番聞きたかった質問だ。彼女は前の時と同じ笑顔で僕の方に歩いて近付いてくる。


「エルはどうして?」


「質問を質問で返さないでよ。先に僕の質問に答えて」


 むぅ~っと唸って彼女は僕の座席の右横に座る。僕は右を見て、それから左に一つズレた。そしたら彼女もそれに合わせて左にズレてくる。それを何度か繰り返して僕は壁にぶつかった。右を見ると彼女はニコニコと笑って「私の勝ちだね」なんて言う。


「……邪魔」


 彼女はハッとなって「酷い!」なんて顔するもんだから僕は立ち上がって前の座席を跨ぎ急いで走って部屋から出ようと試みる。が、何故か足首を怪我している彼女に捕まってしまった。


「足首怪我してるんじゃなかったの?」


「エルが遅いだけだよ」


 僕はむっとして強引に彼女の腕を振りほどく。彼女の右手首に赤い何か文様みたいなものを見てしまった。彼女はそれに気付いたのか咄嗟にそれを隠して後ろを向く。


「それ、何?」


 そう訊くと「何でもないの。気にしないで」と答えた。僕は知っている。それが何かを。


「君、まさか──」


 その先を言おうとしたら彼女が急に僕の口を手で塞いだ。


「その先は言わないで。──それとちゃんと名前で呼んで」


 それだけ言って彼女は部屋から出ていった。僕は何だったんだろうと不思議に思いながら、そしてあの腕の赤い文様が妙に脳裏に焼き付いてしまっていた。


「『欠陥品』、か」


 僕達NLCは生まれてきてすぐに特殊な施術を受ける。が、その過程で何らかの問題が生じ遺伝子操作で本来作られるべき脳が変わってしまうのだ。そしてそんな子達を施設の人は皆口を揃えて『欠陥品』だと言う。そして正常に作られた遺伝子を持つ僕達を『選ばれた子供』だと言うのだ。僕はそれがとても嫌いだった。


 でも、そういう迫害を受けた子達は確かコクーンの上層部にある『セクタールーム』にいるはずだ。それが何故彼女は外に出たりここに来れていたのだろうか……。


 その日は疑問だけが多い、一日だった。




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