5 本音をぶつけあって
「じゃあ、鷹野さんも無理矢理!?」
どおりで、車を綺麗にして来ないわけだ。
服装といい、向こうも、そういうところで地味にマイナスポイントを稼ごうとしてたわけか。
「ええ、まあ。
北野さんは父の友人で、昔からお世話になってまして。
俺も、うちの父に、いい加減彼女の1人も連れてこいとか言われ続けてたもんですから、断り切れなかったんですよ。
まあ、会うだけ会えば、後で断っても大丈夫だろうし、うまくすればあなたの方から断ってくれるかなとも思いまして。
父も北野さんも、言い出したら聞きませんから。
適当にお茶濁して終わりにしようと思ったら、美波さん、すっごいアグレッシブなんだもの、驚きましたよ。
で、あれ、どこまで地ですか?」
「嫌われようとは思ってましたが、特に作ってるわけじゃありません」
「え~っ? あの蘊蓄って、ごく自然に出てくるんですか?」
「蘊蓄って…。あのくらいは一般教養の範囲ですよ」
「一般教養…。どうも俺とは使ってる辞書が違うみたいだなぁ。
今度見せてもらえます?」
「もしかしたら、本当に住んでる世界が違うんじゃないですか?」
なんだか急に口調が砕けてきたような…。
一人称が「俺」になってるし。
それからあたし達は、この場をセッティングした叔父と鷹野さんのお父さんの悪口で盛り上がった。
そして、鷹野さんも遠距離恋愛の恋人と別れてから数年経っていることを知った。といっても、別に浮気したとかされたとかではなくて、単に仕事が忙しくて会えないうちに自然消滅したらしい。
「ですよね~、遠距離って、会うのも一苦労ですもん。
え~、でも、学校の先生って、そんなに忙しいんですか? 夏休みとかたっぷり取れて羨ましいとか思ってました」
「いや、生徒は夏休みだけど、教師はそうはいかないんですよ。
今は、俺達みたいな若いのは、部活の顧問やらなきゃいけないことになってるから、夏休み中だって練習とかで出勤しますし。
ちなみに、中学校の教師って、残業手当とかないんですよ」
「若いのって、鷹野さん、おいくつなんですか?」
「はぁ。本当に興味なかったんですね。
今年31になりました」
「31で若手なんですか?」
「まだ10年経たない若造ですよ。逆に、若いから体力あるだろう? って面倒を押しつけられます」
なんだか先生も大変そうだ。
数年おきに転勤で、引っ越しも結構多いらしい。
今も一人暮らしなんだとか。
ちゃんと自炊してるとか、偉いわ。あたしなんか実家暮らしだからお母さんに任せっぱなしだし。別に、自分で料理するのが嫌だから結婚しないわけじゃないよ。ただときめかないだけ。
なんだかんだで、CDは止めたけど、ドライブは続いた。
笹川流れの浜辺、一面の海が広がる場所で、鷹野さんは車を止めた。
「海に沈む夕日って、いいと思いません? 今からなら、ちょうど見られると思うんだけど」
海に沈む夕日なら、あたしも好きだ。
小さい頃、海に遊びに行くたびに見ていた気がする。
一緒になって海を見ていたけど、海面のすぐ上辺りに雲ができて、夕日を隠してしまった。
「あ~~~っ! 雲が…」
車の中なのに、地団駄踏みかねないくらい残念がって騒ぐ鷹野さんが、ちょっと可愛く見えた。
待ち合わせした駐車場に戻ったのは、もう真っ暗になってからだった。
それはそうだ、日暮れの後で帰ってきたんだから。
車を降りるあたしに、鷹野さんは言った。
「俺、明明後日の日曜日も空いてるんだけど、もう一度どこか行きませんか?
今度はドライブじゃなくて、目的地を決めて」
「…福島のガラス館だったら」
鷹野さんの車が走り去った後、あたしは了承した自分に呆然として、暫く動けなかった。