3 それを紹介とは言わない
まだまだ暑い10月のある日、うちに遊びに来た叔父にいきなりケンカを売られた。
「梓、相変わらず男っ気ないらしいなあ」
余計なお世話だよ。と思ったけど、買っても得のないケンカは買わないが吉だ。無視するに限る。
なのに、母まで敵に回った。
「そうなのよ、どこかにいい人いないかしらねぇ」
お母さん、余計なこと言わないでよ。ほら、叔父さんがなんか嫌な笑いを浮かべてる。
「あ~、実はな、ちょっと梓に会ってみたいって人がいてな」
そんなのいらないよ。見合いとか、あたし興味ないから。
「鷹野君っていって、俺の知り合いの息子なんだけどな、なかなかいい男だぞ」
叔父は、固そうな厚い冊子みたいなのを渡そうとする。これは、あれだ。見合い写真。渡されたら終わりだ。逃げねば。
「あ、そう。そんなにいい男なら、よそでいい人探してもらってよ」
「先生ってのも忙しいらしくてなあ、なかなか探す暇がないんだわ。だから、ちょっと会ってこい」
「ちょっと、叔父さん。あたしをなんだと思ってるの!? 出会いがない寂しい男の暇つぶし!?」
「暇つぶしってこた、ないだろう。
まあ、向こうは中学校の先生で、子供を相手にしてるから、お前の子供っぽい趣味も大丈夫だろう。収入だって安定してるぞ」
「あたしだって、お金には困ってないわよ!」
悪かったわね、子供っぽい趣味で! 変わり者なのは自覚してんのよ!
「いいから、今度の祝日、空いてるんだろ? 半日でいいから、1時にそこの本屋の駐車場で待ってろ。
白いプリウスに乗ってるそうだから。
言っとくけど、絶対すっぽかすなよ? 俺の顔潰したら、わかってるよな?」
「…顔も見たことない人とどうやって待ち合わせるって?」
「だから、顔、ほれ!」
仕方なく見合い写真を受け取ると、なんだかいかにも公務員な感じのスーツに黒縁眼鏡の兄ちゃんだった。
「まさか、こんなカッコで来るんじゃないよね」
「ああ、普段着で来いって言ってある。
あと、お前の写真も渡してあるから、向こうもお前のことわかるから」
「ちょっと、あたし、見合い写真なんて撮った覚えは…」
「ああ、お前の母さんに借りた」
お母さんに? ギョッとして母を見ると、笑っている。まさか、この前あたしのイベント打ち上げ写真を持って行ったのって…。
「お母さん!? まさか、この前の写真…」
「ちょっと借りたわよ。大丈夫、ちゃんと返すから」
なんてことを。
どこの世界に、娘を紹介するのにイベント後のカラオケボックスの写真を使う親がいるのよ。
まあ、いいわ。そんな写真見たんなら、向こうから断ってくるでしょ。
無駄に終われば次から断りやすいし、今回は叔父さんの顔を立ててあげるとしようか。
いつか仇は取ってやるけど。
こうして、あたしは紹介された男に会うことになった。
あれを紹介というなら、だけど。
ようやくお相手の登場です(名前だけ)。