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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第六巻 日の沈まぬ国の四季皇と外法の歌
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第六章 闇のオークション

夜の食事はサンドイッチと紅茶。荷物は座席の後ろに収納出来るのだが、そこには他にもワインやらのお酒が沢山あって、エドガーや蓮さんはそれを口にしていた。彼女が選んだものだからか、お高い味。素材の味がしっかりしていて、かめばかむほど旨みが口の中に広がって行く。


 お腹がふくれると、睡魔がやってくる。それにしてもこの馬車は止まらずに動き続けているんだなあ。彼女に尋ねてみると、燃料が切れるまで半自動で動き続けることができるようだ。すごいな。その燃料と言うのが、彼女の家で今走っているソンとタグを魔力の満ちた櫃で休ませることらしい。どういう原理なのかは分からないが、とにかくすごい物だと言うことは分かる。


「君の家には他にも色んな物があるの?」俺がそう尋ねると、意外にも彼女はあっさり応えてくれた。


「ありますよ。うちは貿易商の一族なので。その中のある物のおかげで、うちの一族はアーティファクトの一部の力を使えるようになっています」


「ある物?」と思わず口に出してしまったが、彼女の顔がまた変わったから急いで「ああ、初めて自分以外にアーティファクトを使える人に会えたから、興奮してしまって」とつけたした。しかし彼女の表情は変わらずに、


「あなた神族なんですよね。自分以外に、本当にいなかったんですか?」


まずい! 蓮さんがあんな嘘つくから! と何を言おうか考えていると、彼女は「でも、色々事情があるのは分かりますから。別に言わなくてもいいですよ」と何故か一人納得してくれた。うーん。つかみどころがない人だな。でも、やっぱりアーティファクトを使える人に会える機会なんてそうそうないだろうし、色々話してみたいな。


でも、彼女がアーティファクトの力を使えるのは、家に伝わる? アーティファクトの効力によるものなのかなあ。そこをぐちぐち聞くのは申し訳ないし、そもそも教えてくれないだろう。


 あ。でも、一つ聞きたいことが頭に浮かんでしまった。貿易商の一族ならば知っているかもしれないこと。


「あのさ、アーティファクトの天使って、それか機械の天使って知ってますか?」


 彼女はじっと、俺を見た。とたんに緊張してきた。俺の心臓の鼓動が、アイシャの胸に触れた感覚を思い出す。近くには蓮さんがいる。でも、どうしても聞いてみたかったのだ。彼女は俺と視線を合わせた後で目を伏せ、


「ごめんなさい。その質問には答えられない」


「そう、ですか。じゃあ、忘れて下さい」


 会話が止まった。それから、ぽつぽつと会話が始まるが俺はアイシャのことが頭から離れなかった。そして本格的に夜になり、ゆっくりと、眠りに落ちて行く。


 朝起きると、窓の外は青。魔道馬車の振動にもすっかり慣れていた。今の時間はどの位だろう。順調にいけば、今日の夕方頃には到着すると言う話らしいけれど。


 ぼやけた頭で水筒の水を一口飲む。エドガーと蓮さんは寝ているのか、瞳を閉じている。俺はすっかり目が覚めてしまったが、かといってできることもない。ジパングってどんな所なのかな。


 そういえばロアーヌさんの故郷でもあるんだよな。ロアーヌさんの料理すごくおいしかったな。お金持ちのお家だから、いい素材を使っているのかもしれない。だけど俺もライスボールとか気軽に作れるようになりたいなー。オコメがメサイア大陸に普及しないと難しいかな。


ぼんやりとりとめのないことを考えていると「はい、これ」とフューシャがクッキーを渡してくれた。ありがとうと礼を言ってそれを口にする。とても甘くてアーモンドの風味もする。冒険者の腹を満たすだけの保存性の高いクッキーではない、高いお店のクッキーって感じだ。


「すごくおいしい! ありがとう」と俺口にすると、彼女は小さな声で言った。


「ちょっとだけ知ってるんだ。そのアーティファクトの天使って存在について」


 俺は、口の中の物を飲み込めずに、彼女の言葉を待つ。フューシャは俺の方を見ないで、独り言のように喋り出した。


「詳しくは分からない。でも、話しだけ聞いたことがある。そもそも、アンドロイドとか生きているアーティファクトは、普通のオークションや売買にはでない。うちにいる、この魔道馬車のソンとタグは、昔からうちに仕えているから、家族みたいなものなの。でも、アンドロイドやアーティファクトの力を持つ存在は闇のオークションに出ることがある」


「闇のオークション?」


「そう。権力者やお金持ちが行っているオークション。アンドロイド以外にも人身売買だってされる、珍しい物なら何でも売り物になるアンダーグラウンドな場所。余計なお世話だけど、そういうことをあまり人に言わない方がいいわ。普通の人はまず知らないし、知っている人には警戒されるから」


「そう、なんだ。教えてくれてありがとう」俺は少し気落ちしながらも、そう返した。そうだよな。アイシャが自分に関わってはいけないと口にしていたことが、痛ましくも美しい彼女の姿が脳裏に浮かんだ。気軽に口にしてはいけないことなんだ。でも、旅をしていくうちに、俺が力をつけていくうちに、近づいていけたらいいな。


 それから数時間経っただろうか? はるか向こうに大陸が見えたような気がする。俺が呑気にそれを口にすると、蓮さんが「もしかしたら、そろそろ来るか。一応気をつけてくれ」と呟いた。ん? 何が?


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