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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第六巻 日の沈まぬ国の四季皇と外法の歌
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第五章 美しい国

「おーおーさすが最強のお侍さんだ。俺が恐れる男だけある」


「馬鹿。茶化すな」


 蓮さんがエドガーの軽口をさらりとかわす。声色は低かったが、表情はそうでもないようだった。気心が知れた二人だからこそできるのかもしれない。


「それでよ、裏・村正って、前は受け継いだみたいなこと言ってなかったか? 国の大切な神器みたいなものなんだろ? どういう経緯が……」「また話す。必ず」蓮さんはそう無理に話を遮った。ここまでされるとさすがのエドガーも黙る。


「随分楽しそうなのね」


 静まる車内でそう口にしたのは、フューシャ。蚊帳の外の彼女に、エドガーがわざとらしく優し声をかける「そうだそうだ、フューシャはどうしたんだよ。メサイア大陸に来たんだ、何か用事があったんだろ」


「用事ってほどではないけど。でも、エドガー達の方がずっと大変そうですし」


「そりゃ俺は大変だけど、フューシャの話も聞きたいな」


 エドガーは、女の子のことになるとほんとすらすら言葉がでるなあ。ほんと尊敬します、エドガー坊ちゃま! 彼女も機嫌が治ったようで、自分のことを話し出す。話を聞いていると、彼女はどこかの国のお金持ちのお嬢様らしく、旅行だか見分を広めるためだかで色々飛び回っているらしい。


 そういえば、こうやって話している際も魔道馬車は変わらぬ様子で走り続けている。制御しているのはあの二人? の力も働いているのだろうか。やっぱりアーティファクトを操れる能力がある人だし、話しをしてみたい気持ちがある。でも、俺が話しかけたらヘソをまげちゃうしな。動いているから瞑想だってできないし。


「そういえばよ、最初はその東京ってとこに行けばいいのか?」 彼女との会話が済んだエドガーがそう口にする。


「そう。一応入国検査があるはずだから、魔道馬車とはいえども東京湾辺りで停泊するのが良さそうだ」

「東京、わん?」と俺が尋ねる。


「ああ。海岸や入り江みたいなものだ。そうか。そういえば湾という言葉を使うのは久しいな」


「そうね。私も使わない」とフューシャ。そっか、彼女はこの魔道馬車で色んな国を回って来たんだな。


「でもよ、その、鎖国ってのも珍しいよな。ドゥルーズ大陸で昔あったとか聞いたけど。あ、そっか。そこもジパングも戦乱の多い国だから仕方ねーのか」と口に出して一人納得するエドガー。


そっか。何だかんだ言って、俺の育ったメサイア大陸は気候が温暖だし、戦争とかはないし、それなりに平和な所なのかな。よその大陸や国についてはまだまだ知らないことばかりだ。


「悪いことばかり話してしまったが、ジパングには美しい自然がある。一年中気候が変わらない国と違い、暦の中で四つの季節が生まれ、それぞれの自然と共に育まれた文化もあるんだ。その点は他の国には見られない美点かもしれない。丁度今は桜の季節だ。日本の国花である、多くは薄桃色をした美しい花」


「それなら知ってる。蓮が力を解放したときに生まれた花だろ」とエドガー。そうだ、アイシャの力によって再生した蓮さんの腕が、力を使う時にも花が生まれていた。植物図鑑で見たことはあるし、美しくて有名らしい花。実物を見たのは蓮さんのだけれども。


「美しい桜の下には山ほどの死体が埋まっているって、ジパングの歌になかったかしら」とフューシャ。それに蓮さんが「ああ、有名な歌だ。それにそれもあながち間違ってはいない。戦がとても多い国なんだ。平時の観光には良い国だと思うがな」


 その言葉でみんな黙ってしまう。今はその平時、表立った戦乱はないみたいだけれど、これから俺らは戦乱の火種を持っていくのかもしれない。でも、なんとしても鏡が必要なんだよな。皆はそのまま黙り込んでいる。俺もこれからのことを思ってとりあえず瞳を閉じた。


 車は相変わらず、すごいスピードで進んでいるはずだ。ふと窓を見ると、景色は一面の海になっていた。今更少しうろたえてしまうけれど、俺の戸惑いを無視して馬車は走る。船より早い速度のはずなのに振動はそんなに強くない。


 そして、景色はやがて夜になろうとしている。海の色が変わり、夕焼けが海に溶けていく。思わず「綺麗だ」と声に出してしまった。自分が海の上を走っていることが不思議な気分になる。ああ、船旅の時もこの景色を見ておけばよかったな。


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