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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第六巻 日の沈まぬ国の四季皇と外法の歌
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第四章 京の皇子

言う通りにそれにしたがう。入ると中は十分な広さがあって、俺ら男三人が入っても十分な広さがある。しかもふかふかのソファが並んでいて、窓枠は銀と青色で輝いている。外観は緑なのに、内部の壁は真っ白で、お高い喫茶店みたいな雰囲気すらある。


「じゃあ出発しますね」そう彼女が言うと、馬車は急に猛スピードで発進し、窓の外の景色が目まぐるしく変わる。というか、え? このまま進むと確実に壁にぶつかる!


 そう思ったが、馬車は動いている。揺れを身体で感じながら、半信半疑で窓枠に手をかけると、


「大けがするよ。黙って座っていて」と鋭いフューシャの声。俺は小声で「今、景色をすり抜けたよな……」と呟いた。すると彼女は俺の方を向かずに言う。


「あなた、アーティファクトを解放できる神族なのに知らないの? セイクレッド・プレイスが働いているからでしょ」


「え? 何それ?」すると彼女は芝居がかったため息をつき、


「呆れた。知らないだなんて。不可侵領域の魔法が魔道馬車には備わっていることも知らないの? 外敵から身を守るし、普通の素材なら壁もすり抜けるし海の上だって平気。その代わりこちらからも攻撃や外部への干渉も、乗車中は行えない。どう、勉強になった?」


 やっぱり俺、この子苦手だ! でも、不思議なのは「君は随分物知りだし、この馬車を起動できるような魔術師らしいけれど、なんであんな簡単な小箱の封印が解けなかったの?」


 車内に訪れる沈黙。これは、まずいことをいったか。でも、時すでに遅し。彼女は不機嫌そうな声で、


「そうですね。私はしょせんただの金持ちの娘ですから、知識はあっても神族の方とは才能の差があるようですね」


 なんなんだ……この子は、難しいと言うか俺を敵視しているというか。でも、ここでこれ以上機嫌を損ねるわけにはいかない。でも、俺が彼女の機嫌を良くすることはできなさそう。

なんて心配が頭をよぎるが、そこはパーティのお調子者エドガー様が甘いフォローをすかさず入れている。彼女は満更でもない様子。というか、エドガーに構われたくて俺を敵視しているのか? そうだとしたら面倒だけれど、とりあえずエドガーのおかげでどうにかなりそうだからまあ、いいか。


 小さな疑問、こんな高性能なアーティファクトを起動できるのに、あの小箱を使えないことについてまた考えてしまったけど、そういえば俺は自分が片っ端から目の前のアーティファクトを使えたのだ。自分がどういう存在なのかも分からない、誰も教えてくれない。


 ただ、俺にはその力がある。もう、力を持たないひとりぼっちは嫌なんだ。


 俺は気持ちを切り替えようと、蓮さんにジパングについて質問をする。伝説の黄金の国、ではないことは分かっているのだけれど。すると意外なことにエドガーも乗り気だった。


「そういえばよ、蓮は自分のことについて喋りたがらねえだろ。いい機会だし話してみろよ」


 蓮さんは少し、考えるようなそぶりをした。でも、いつも通り落ち着いた優しい声で喋り出す。


「先ず、共通語コモンは公用語ではあるが、一部の一族はそれを使う者を見下し和語を使う傾向にある。また、ジパングは争いが絶えない国だということ。そして今はどうにか二大皇政で落ち着いている。東を治めるのが、東京の四式朱華よんしき はねず。僕は一応彼と血縁関係がある。ただ、目的の八咫鏡やたのかがみがある西京は悟道閻慶ごどう えんけいが治めている。その彼とも遠いが血縁関係にあり、その二人ともから僕は忌み児として疎まれている」


「は? お前、たしか東京の皇子って話は聞いたことがあるけれど、西京とも繋がりがあるってどういうことだ?」


 エドガーの質問に、蓮さんは言い淀まず、


「僕は敵国の皇族との逢引で生まれた子だということだ。東京の四式朱華と西京の悟道家の女性との子だ。だから正式な継承権ではない。悟道家の女性が僕を引き取った。悟道家は魔道を極めた一族だが、僕は全く魔法を使えなかった。そのことから僕の母も迫害されて、命を奪われることになったらしい。僕は両家に面倒な感情を抱いているが、今はそうも言っていられない。二度と戻る気はなかったが、世界の為に、いや、違うな。僕自身、けじめをつけるために」


 これは、かなり重い内容だ。思わず俺は、黙ったまま口に手をやってしまった。勿論、スラム育ちの俺だから、悲惨な境遇の子は多く目にしてきた。満足な暮らしが出来ずに倒れていった子を沢山知っている。でも、やはり仲間の告白には言葉がつまった。何か言いたいのに、それはうまく言葉にはならない。



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