第三章 魔道馬車に乗って
そう言うと、背負っている大きなデイバッグから小さな小箱を取り出し、彼女にプレゼントした。あ、これは前に俺が鑑定した音楽がなるアーティファクトかな。
「プレゼントだ。フューシャが喜ぶと思って大切にしてきたんだ」
エ、エドガー……それ、そんな大切にしてなかったはずだが……口が回るなあ。まあ、彼女が魔道馬車の持ち主ならこういう交渉もありなのかもしれないけども。
と、彼女は手にした箱を色々いじってみるのだが、音が出る気配がない。一応魔力感知をしてみると、彼女の手の平の中にあるのは紛れもなくアーティファクトだ。俺は「かして」とそれを手に取って開けてみせると、中から落ち着いた音色の弦楽器のメロディーが流れる。
すると彼女は俺をにらみつけ声高に「なんで! あんた誰!! 何なの! エドガーの相棒気取り? ふざけないで!!」
は? こいつ、何言ってるんだ? アーティファクトの力を使えるんじゃないのか? 俺に八つ当たりをするにしても、最初から酷い態度で何なんだよ。ここは堪えなきゃいけない場面だとは思うけど、どうしても一言言わないと気がすまな……
「フューシャ。彼は神族なんだ。それを隠す為、冒険者のふりをしてもらっている。これ以上は申し訳ないが話せない。しかし、君が解放できないアーティファクトの力を使えるというだけでも気づくはずだ。不躾な態度をとるなら、僕から手を出さねばならない。分かってくれ」
蓮さんの発言で瞳を見開いて俺を見る、彼女の驚いた顔。って! 俺だって驚いたよ! 蓮さんも咄嗟によくそんなことを言えるな……
俺がどぎまぎしていると、彼女は俺の前で大きく頭を下げ、それからきっと、俺を見て、
「ごめんなさい。私、エドガーのことになったら夢中になってしまって。ジパングへの移動、協力させていただきます。ソン、タグ。荷物を持って先に出ていて。私も後から行く」
彼女がはっきりした声でそう言うと、後ろにいた二人の男が涼し気な声で「かしこまりました」と同時に口にする。そして彼らは同じ足取りで階段を上る。ぼーっとその光景を見つめていると、エドガーに小突かれる。いつものことなのに、蓮さんが「おい、エドガー。失礼な真似をするな」と制する。蓮さん意外と芸が細かいな……
俺は彼女に向き合う。こうしてみると、当たり前だけれど、育ちの良いお嬢様って感じだ。生意気なのも、まあ、そういう生活をしていたならしょうがない、のかな。もう、ごちゃごちゃ言う気は失せていたから、とりあえず怒っていないことを伝える。
彼女はまだ俺に対しては固い表情をしていたが、とりあえずこれでいいのかな? あ、そういえば彼女も古代魔術師? アーティファクトの力を使えるはずなのに、俺が簡単に封印を解けたあの小箱が使えなかったのはなんでだろう?
まだ魔力が低いとか? それともアーティファクトによって封印を解く、力を使える人の適正があるのかな? 聞きたいけど、聞きにくい。それに彼女だってそれを知っている感じでもないしなあ。
結局俺は無言で、談笑しながら外に出る彼女とエドガーの後を追う。ホテルから出て、入り口近くでたたずんでいると、彼女の従者らしき二人の男が大きなトランクを持ってやってきた。彼らはそのまま俺らから少し離れた場所に歩き出すと、彼女は右手を高々と掲げる。魔力を感じる。そう、音も無く一瞬で、目の前には二頭の馬に引かれる巨大な馬車が出現していた。
その馬は黒色の馬で、魔力の反応がある。多分、あの二人の男が馬に変身したらしい。馬車の車体は緑。植物の葉っぱらしき模様があり、胸がすーっとする香りがする。ここにもアーティファクト反応がある。
フューシャは車体の乗車台に足をかけ、金色に光るノブに手をかけ扉を開くと、
「ジパングなら急げば二日程度で着くはずです。丁度帰路の途中だし、食べ物も十分にあるから、食事には困らないはず。さあ、みんな乗って」




