第二章 お嬢様はアーティファクト使い?
幸い他の客は近くにはいなかったが、受付の人の笑顔がこわばる。対してニコニコ顔のエドガーは「それじゃあ一部屋ずつ確かめてみてもいいんだぜ。言えよ。それか、うちにはアーティファクト反応が分かるガキもいるんだぜ、早いとこ言えよ」
「ちょっと! エドガーさすがにこんな脅迫めいたのはよくないよ。それに蓮さんどうしたの? いつもは貴方が止めてくれるのに……」と蓮さんを見ると、蓮さんは俺の方ではなくどこかを見つめながら、
「アポロ。アーティファクト反応はあるか?」
ん? その声で我に返ると、蓮さんの視線の先を追う。割と大きな階段の中央で立ち止まり、こちらを見つめる三人。桃色のひらひらしたフリルの多い服を着た、栗色の髪のお嬢様みたいな子。その両脇には黒スーツを着て褐色の肌をした、背が高くこちらも身なりの良い男。そして、
「あ、アーティファクト反応が!」俺が思わずそう言うと、お嬢様がスカートのすそをつまんで、こちらに近寄って来る。そして間近で俺の顔を品定めするかのように見ると、
「貴方、レベルは幾つ?」「は?」「いいから早く。ねえ、エドガー。この少年いじわるするの」
「は? 何言ってるんだこいつ?」という言葉を飲み込みエドガーを見ると、エドガーは真顔でしかも甘い声を出して「フューシャ。どうしたんだよ。俺のレベルには興味がないのか」
すると相手の子も首をかしげて「だって、エドガーが強いのは分かり切っていることだから」は? 何だこれ? この茶番はどこかで見たような気が……
ぼんやりしていた俺の頭をこづき、エドガーは「ほら、嬢ちゃんに見せてみ」
何だか気持ち悪いぞエドガー、とは思ったが黙ってギルドリングをその場に照射する、と、
お! 俺レベル15なんだ! 色々あり過ぎてなんか実感ないけれど、旅立って一年もたってないのに一人前の冒険者ってすごくないですかね? まあ、エドガーと蓮さん達と一緒だったとかあるにしても、俺だって中々のもの……
「えー、やっぱりあんま高くないじゃん。ねえ、なんでエドガーはこんなちびっ子と旅してるの? 私だってアーティファクトの力を引き出せるのに」
このガキ! 黙ってればいい気になりやがって、って!
「君! アーティファクトの力を引き出せるって? 君、何者?」
自分以外で初めて出会った、アーティファクトの力を使える人物。しかし、彼女が同族の人物ではないらしいことは感じる。翼もないし、あの人に会った時の感じは全くない。飛陽族ではなく、おそらく人間だ。でも、古代魔術師なのかな? きっとそうだよね?
そんな俺の期待と不安が入り混じった好奇の目を彼女は気にせず、甘い声を上げて
「それにしてもエドガーに会えるなんて良かったあ。わざわざつまらない用事を済ませてきた意味があった。ねえ、エドガーまた忙しいんでしょ。でもここのホテルって見た目は地味だけど、料理がとても美味しくて、私の所のグルメブックにも載っている位で……」
と話す彼女にエドガーは手の平を向け、ぴたり、と口を閉じた彼女に近寄ると、その大きな手で彼女の手の平を包み、
「フューシャ。頼みがある。お前にしかできないことだ」
「いきなりどうしたの? エドガー。でも、いい。言ってみて」
「俺達は、そう、極秘の任務の最中で、これからジパングに行かねばならない。これは世界の存亡と俺のプライドがかかった、とても重要なことなんだ。協力してくれるか?」




