第十八章 小さな仕事 形のない使命
「おい、エリザベート。俺達が力になれることはあるか?」とエドガーが言葉にした。エリザベートは表情を崩さずに返す。
「すまない。この件に関しては、すぐに私が単独で別の神殿に行って報告しようと思う。出発は早い方がいいだろう。お前たちも、そうなんだろう? 重大な任務が発生したらしいことは察する。約束した物もすぐに用意することは難しい。迷惑ばかりかけて申し訳ない」
そう言って彼女は、頭を深々と下げた。俺は驚いて思わず彼女のフォローをしようと、思ったままの言葉をぽろぽろ口に出すが、彼女の頭は深く下げられたままで、
「僕たちにも旅に出る理由が出来た。お互いのやるべきことを優先しよう。顔を上げてくれないか、エリザベート」
「ま、蓮の言うとおりだな。一区切りついたら神殿にも顔をだしてやるから、無理すんなよ」
蓮さんとエドガーの言葉でゆっくりと、エリザベートは顔を上げると、困ったように笑って「三人共、感謝する……どうも、ありがとう」と口にした。
そうだ。彼女はそんなに弱い人ではない。でも、こんな状況で心の中は様々な感情で荒れているのは容易に察しがつく。それを押し殺しても、自分の為すべきことに突き進む彼女を目にすると、俺の身も引きしまる。
「エリザベート……」と俺が声をかけると、彼女は俺の手をとり、
「アポロ。食事の準備をするのを手伝ってくれないか。幾らなんでも今すぐ出発するのは、強行軍だ」
「あ、うん! 俺料理作るの得意だから! 蓮さんとエドガーはちょっと休んでいてよ!」
「そうだな。じゃあ、そうするか。働き者の俺も、さすがにくたくただぜ」
「ああ、休んでいてくれ。豪華な料理はできないが、作らせていただく。アポロ、いいかな」
俺は首を縦にふると、エリザベートについて行き、簡素で綺麗に整頓されたキッチンの前に立つ。そしてエリザベートと一緒に、玉ねぎやじゃがいも、ニンジンの皮をむいて、適当な大きさに切り分ける。
包丁を小気味よく下ろす音がキッチンを満たす。野菜をフライパンで炒めると、たちのぼるいい香り。ふと、自分が緊張感から解放されていることに気が付いた。美味しい料理を作ることは、なんて幸福なことなのだろう。




