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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第五巻 存在してはならない帝國
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第十七章 不可解な景色

 リッチに身体を操られていたはずだったけれど、意識があるのは彼女の力の強さのおかげなのか。とにかく、エリザベートが回復してくれて胸をなでおろす。彼女は続けて同じように静かに話す。


「しかし、私が任務を遂げられなかったことは間違いないだろう。ポータルが近くにあるのだけがせめてもの救いだが。アポロ。すまないが、すぐにポータルを起動してみたい。」


 彼女がすぐにそう口にしたから、俺は気が緩んで、二人に急いで報告をしたが、なぜか二人の表情は厳しい。改めて、エリザベートの表情をみても硬かい、はっと、した。そうだ。彼女は任務を失敗したんだ。能天気でいられるわけではない。でも、この場所に居続けるわけにもいかない、帰れるならば早く帰らねばならない。


「そうだ、アポロ。ここにはもう何もアーティファクト反応はないのか? 私には今のこの場所に何も感知ができない。リッチや強大な力を持つ者が現れた時は、何かを感じた気がした。しかしそれは、私がヴァルキリーであることと関係あるのかが分からない」


「そ、そうだ。俺も、色々あって混乱していた。でも、エリザベートが言うように、もうこの場所に何も感じない。ただ、リッチがしたように、正しい手順を踏めば、この場所で何かが起こるはず……でも、今はそれが無理だと思う」


「分かった。すまない。ポータルを探そう」


 そう言うとエリザベートは颯爽と歩きだしていった。俺も慌ててその後を追う。ほどなくしてポータルは発見できたのだが、何か様子がおかしい気がした。今まで利用したポータルとは違う、気がする。この場所にあるからなのか、それともリッチの罠なのだろうか?


 俺がそれを口にすると、エリザベートが答えてくれた。曰く、おそらくだが、これは一方通行のポータルらしい。ポータルとしての機能が制限されているのか、またはポータルを作り出した存在が故意にそう設定をしたらしい。でも、とにかく今は起動してみるしかないと思う。俺の意見にエリザベートも同意してくれた。エドガーと蓮さんにも意見を求める。二人もそれに従ってくれた。


 エリザベートはポータルの中心に立ち、光の波動で俺達を包み込むと、俺の手を握り合図をする。それに呼応して、俺も門を開く、と、一瞬で俺達は見知らぬ森の中にいた。不思議な赤黒い葉っぱが生い茂る、見たこともない場所だ。失敗、した? 何がまずかったのかと俺は動揺してしまいながら辺りをきょろきょろ見回していると、


「ここは、神殿の近くにあるオルモルドの林。運がいいのか……しかしこのポータルは一方通行のようだ。いや、そんなこと今は些細なことだ。とにかく無事に帰れて良かった。コンパスを起動しなくても分かる。ここから徒歩で神殿まで一時間もかからない。すぐに出発しよう」


 と言うが早いが、エリザベートは先頭になり進みだす。ぼさっとしていると、エドガーに肩を叩かれ我に返る。そうだ、俺もぼんやりしてはいられないし、先ずは彼女の報告を待ってから、エドガーや蓮さんにこれからの話をしなければならない。


 そう思っていた。しかし、林を抜けた先の神殿につくと、そこには、誰もいなかった。神殿の人も、一般人らしき人も、そして、ヘラも。誰も。一斉に皆がどこかに雲隠れをしたのか、それとも……。


 怖い考えが頭に浮かんだが、戦いが起こった痕跡は全くない。エリザベートの後を追って神殿中を回ったのだが、神殿に傷の痕跡はなく、ついさっきまで誰かがいたような気がする。全員が、消された? 俺はその考えを飲み込み、無言で神殿内の人々に呼びかけるエリザベートの後を追う。


 彼女はある扉の前で立ち止まった。突然立ち止まったから、俺までどきりとしてしまった。しかし自らその扉を開く。言われなくても感づいた。ここはおそらくヘラの部屋か、普段は立ち入れない場所なのだろう。扉の向こうの部屋は、粗末で質素な寝室らしき場所だった。そこには誰もおらず、眼を引くような物は何もない。


「ヘラ様。お許しください」と小声でエリザベートは呟くと、部屋の棚やたんすの戸を開く。しかしそこには何もないようだった。そのまま、エリザベートは部屋の中心で固まっていた。



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