第十六章 どうにかなるはずだって
「世界の終わり」という言葉を飲み込んだ。いつの間にこんな話が大ごとになっていたんだ? いや、俺は自分自身のことすら満足に知らない。それに、ゼロのことも。おまけにあのエドガーと蓮さんとリッチさえまともに戦えない相手って、何なんだ?
エドガーはゆっくりと俺に近づくと、口の端を少し上げ、
「何にせよだ、俺らの特殊能力を無効化するとか舐めてるじゃねえか。そのヤタノなんちゃらってのが世界に色や光を与えるとかなんとか、とにかくすごいもんだってよ。正義の勇者様としては悪人をのさばらせておくわけにはいかねーからな、蓮。俺達を殺さなかったこと、後悔させてやる」
蓮さんはまた苦笑いをする。それを見て俺も思わず小さく笑った。久しぶりに、緊張がほどけた気がする。ただ、王子が縁を切って元の国に戻るなんて、どんな状況になるのか。蓮さんの胸中はどうなのか。俺に余計な言葉はかけられない。
きっと、簡単にはいかないんだって、先は謎だらけで困難だらけなんだって、その位分かる。でも、こうして話しているとなんとかなるような勇気がわいてくる。だって、俺にはこんなにも頼りになる仲間がいるんだから。
胸にあるエメラルドグリーンの鍵。ゼロ。必ず元の姿に戻してあげるからね。俺はエリザベートの様態を改めて聞く。彼女のいるテントに移動して、低レベルだけれどもヒールの呪文をかける。あまり効き目はないだろうけれど、彼女の状態がそこまで悪くないことはなんとなくだが分かる。
俺は自然回復が一番かなあと思いテントを出る。すると、エドガーと蓮さんが何やら話をしていて、それはジェーンとどうにかして合流するかについて話していて、俺はジェーンがいると百人力だねと言うと、エドガーは悪い笑みを浮かべ、
「いざとなれば、俺らの力技でどうにかしてやるよ! こいつだって、故郷に未練はねーだろう」
冗談にしてもそんな無茶な! と俺があぜんとしていると、蓮さんが静かに返す。
「当然というか、僕よりも僕の父は強いはずだ。それに西の都に交渉もしなければならないし、国を敵に回すなんて愚かだな」
「うるせー! 冗談に決まってるだろ。ったく! 景気づけに言っただけなのによ。あーあ。俺もいい加減、うだうだ考えるのは嫌になった。とにかくぶっ潰さなきゃ腹の虫がおさまらねえんだよ」
「とにかく、エリザベートの回復を待とう。それでここのポータルが使えるなら、それで帰還する。彼女だって混乱しているだろうから、配慮しなければな」
「それはそうとよ、おい、アポロ。お前は平気なのか?」
突然エドガーにそう言われて、俺は反射的に「ああ、大丈夫!」と返してしまったが、自分でその声が震えているのに気づいてしまった。そうだ、大丈夫ではない。でも、クヨクヨしている暇なんてない。前だけ向いてないと、多分、つぶれてしまうようなそんな気がする。
エドガーや蓮さんにはバレバレだったはずだ。でも、それ以上何も言わなかった。俺も余計なことは言わず、二人が話し合いを始める。そっとテントに戻ると、エリザベートが寝たまま首をこちらに向けた。
「エリザベート!! 大丈夫? 気が付いた?」
彼女はゆっくりと上半身を起こすと、その場に座り込んだ。そしてゆっくりとした口調で喋り出す。
「そうだな。大分回復させてもらった。申し訳ない。ただ、私の身体は自由にならなかったが、意識はかなりはっきりとしていたし、声は聞こえていた。視界は遮られていたが、なんとなくだが状況は把握しているつもりだ」




