第九章 君のための場所
「え、ごめん、話が急すぎて、ここはアーティファクトの為の遺跡なんじゃ」
「ここは飛揚族の為の遺跡。私は最下層に連れて行きます」
微妙に話がかみ合っていない。飛陽族って、何だ? 俺はそれを質問してみるが、答えは返ってこない。
でも、以前に見た、太陽や地面、大空を信仰する一族、ということなのだろうか。え? でも、そうしたら俺の古代魔術師というのはどうなるの? ギルドの年配の人が、職業を間違えたりするのかな。あ、飛陽族は職業じゃなくて、種族ってことか。
そういえば俺は自分の出生のことなんて考えてもみなかったな、だって捨て子なんだよ。考えたくもないよ。
今、俺はその飛陽族とか急に言われて、不安と期待が入り混じっている。でも、やっぱり、なんかしっくりこない。俺は今までずっとガラクタ拾いのアポロとして生きてきて、冒険者になって、いきなりお前は飛陽族だとか言われてもねえ。
「このまま地下に下がります」
と、いう言葉通り、円形の床はずーっと地下へと落下していく。どこまで降りるんだ? これ。でもさすがに、この機械が嘘をつくとは、思えないのだけれど……
やがて落下は止まった。機械について行くと、そこもまた円形の広い部屋で、違うのは、天井から明るい光が降り注いでいること。この光は、なんだろう。地下にあるはずなのに、真夏の陽光のような。
俺はダメもとで機械に質問をしてみた、のだが、瞳の赤い色は消え、反応がない。
「彼は役目を終えたのだ、アポロ」
そう言って天井から光をまとい降りてきた男。上半身裸の褐色の肌、赤髪に青い瞳。胸騒ぎがする。知らない人なのに、どこかで会ったような。
そして彼は、背中に翼を生やしていた。俺は独り言のように「飛陽族……?」とつぶやいていると、彼は「そうだ」と告げた。
「そして数千年後の同士よ。お前に会えたことを心から感謝し、祝福しよう」
男はそう言うと、俺の手に触れる、と、俺の背中に一対の翼が生えた。しばし呆然としてしまったが、腕や足を動かすように、翼も俺の身体の自由に動く。なんと、というか、当たり前だが、自由に飛ぶことができた。
風を切る、風に乗る、風を感じる感覚。翼で、身体で、空を感じる。それはとてつもない快さと、懐かしさを感じるものだった。気持ちいい!! すごい! た、楽しい。まるで、自分が前から翼を持っていたかのようだ。
「あ、ありがとうございます! あの、俺は、天使や、飛天族(翼をもった戦士の種族)とかと同じ、ってことなのでしょうか。俺、捨て子で、自分のことはあんま分からなくて」
「いや、違う。他の翼を持つ者はアーティファクトを扱えない。アポロ、飛揚族のみが、古代魔術師でなくとも、それを使えるのだ。少し、テストをしてみよう」
男はそう言うと、空中に光の玉を三つ浮かせて見せる。
「お前の翼で、つかんでみろ」
俺は飛翔し、光に手を伸ばすと、当然光は逃げ、俺はスピードを上げて追いかけるのだが、なかなかつかまらない。
でも、ふと、あの壁画の光景が頭に浮かんだ。鷹だ。自分が鷹となり、獲物を捕らえるようなイメージをして飛び掛かる、よし! 捕まえた!! あ、その上、ギルドリングが光を放ち、俺の身体にほんのりと力がみなぎる。よし、俺の中の鷹が目覚める。なんちゃって。
俺は簡単に試験をクリアした。すると男は先程と変わらず、淡々とした口調で、
「ならばかの地にて、お前が我々の遠い子孫だと証明してみろ」