第十五章 ジパングの皇子と世界の終わり
俺は首に下げていたブラッドスターをつけていた紐に、その鍵もぺンダントのようにしてつけた。これで、俺はゼロと一緒にいるような、いつか俺がもっと強くなったら、ゼロをまた前の姿に戻せるようなそんな気がしていた。
いや、そうでも思わなければ、気持ちに押しつぶされてしまうからかもしれない。それに、俺は聞きたいことが、いや、しなければならないことがあるはずだ。俺はリッチの瞳を見て向き合う。
「教えてくれ。お前の目的は何だ。それと、奴は何者だ」
リッチは少し皮肉そうな笑みを浮かべ、言った。
「それよりもいいことを教えてやるよ。二人にはもう話したけど、奴を殺す、いや、傷をつけられる方法がある」
その言葉に最初は変な希望のような火が灯ったが、それがすぐに大きな炎になり俺の焦燥となる。それはつまり、俺達の手で「とうさん」を殺す、ということ?
寒気がしてその考えを振り払う。あの人が父さんだと、俺と同じ種族と決まったわけではない。でも、あの感覚は、間違えるわけがない、はずだ。そんな揺れる気持ちを誤魔化すように、俺は冷静なふりをしてリッチに再度尋ねた。
「もう一度聞く。お前の目的は何だ。それとあの強大な力を持った存在について教えて欲しい」
「ふふ。まあまあガキが粋がっちゃって。でも最初に出会った時にも言ったかな。お互いの利害が一致してるんだ。少しくらいは教えてあげよう。彼は世界創生に関わる存在。不死者としては、その謎に興味を持ったって不思議じゃないだろ。それに、僕はお前たちがここに来ることを知っていた。というか、来させたんだけどね」
「来させたって? これは依頼で……あ! ヘラって神官とグルだってこと? オーディンっていう神がどうこうとか……その、この問題はオーディンも関わっている? そもそもオーディンって? エリザベートすら知らない神って、どういうこと?」
矢継ぎ早にする俺の質問に、リッチは苦笑いをして手の平をひらひらと振る。自分の余裕のなさと混乱っぷりが今更恥ずかしくなるが、どうしようもない。でも、知らなければならないんだ、知らなければ、ゼロを助けることも、あの存在に会う道も閉ざされるような気がして……。
「おおっと、それ以上はお前らでどうにかしなよ。楽しみがなくなる。でも、流石の冒険者様は、次に行くべき道に自分で気づいたようだよ。それじゃあ、また会う時まで、お互い死ななければね! ははははは!!」
高笑いと共に、黒い霧が発生し、あっという間に霧散する。ぼんやりと俺はリッチがいた場所を眺めていたが、はっと我に返り、二人を見た。落ち着いている、かのように見えるエドガーと蓮さん。そして蓮さんが口を開いた。
「奴にこの場所にもポータルがあることを教えてもらった。エリザベートが回復したら、アポロと二人で起動できるかもしれない。とにかく戻ろう。そして、できればジェーンと共に、ジパングに向かう。無謀なのは承知だが、我が国の神器の一つ、八咫鏡を手に入れようと思う」
「ジンギの、ヤタノカガミ?」
「そう。神器は属性としては強力なアーティファクトに近い物かもしれない。しかし、僕にでも使えたから、古代魔術師の力を借りて起動するアーティファクトではなく、別の存在と言った方がいいのかな」
「え! ちょっと待ってください。国の神器を使えたって、どういうことですか? 普通は宝物庫とかで厳重に保管されているような気がするのですが……蓮さん、あなた……」と口ごもった俺に、蓮さんはさらりと返した。
「隠すつもりはなかったが、ジパングの皇族の血を引いているんだ、僕は。そして、ジパングは一応戦国の世が終わったことになっており、東と西の王が治める二大王政。僕の父親は東の都を治める。そして、現在の八咫鏡の所有者は西の都。必要ならば、細かいことはおいおい説明するよ」
皇族? 王子? え? 王子が冒険者って、どういうこと? ありえないだろ! なんでギルドが許したんだ? と様々な疑問がわいてきたが、リッチと違って失礼な質問はできないし……と、俺がちらりとエドガーに視線で助けを求めると、
「こいつは話したがらないけど、前に聞いたことがある。こいつは優れた王族の血を継ぎながらも、災厄の印があるとして、王国から煙たがられていて、自ら縁を切ったらしい。そうだよな」
すると蓮さんは困ったように微笑み、
「まあ、そうだな。この前のエドガーの里帰りを放蕩息子の帰郷と茶化すことができないな。僕自身も同じような身だ。もっとたちが悪いかもしれない。しかし、どんな手段をとっても、あの神器が必要なんだ」
その静かな気迫に押されるように、俺は小声で呟いた「どうしても、その鏡が必要で、それで、あの、彼を倒さねばならないのですね……」
「そうか。リッチが詳しい話をしていた時は倒れていたんだな。リッチの言葉をそのまま信じることはできないが、奴は言った。あの神を野放しにすると、やがて世界が終ると」




