第十一章 アポロが奏でる記憶、夢現
そのまま、たまにする会話が途切れがちになり、でもとにかく俺達は歩みを止まずに進んで行く。何時間たったか分からないが一度休憩を挟むのはどうかなあと思っていると、コンパスの反応が、消えた。しかし目の前には何も無い。魔力反応も、アーティファクト反応だってない。
「エリザベート、ゼロ。何か感じるものはある?」俺は二人に尋ねるが、二人とも反応は薄い。しかし、コンパスはここで消えている。ということは。俺はベルさんを見る。きっと、彼に皆の視線が集まっていたはずだ。
「愚かさは、まあ、美徳と言ってもいいのかもしれないと、考えを改めなければならない、か」
「おいどういう意味だ」とエドガーが突っかかろうとすると、ベル、さんは身体中に亡者のようなおぞましい死人のオーラらしき物をまとい、そのドクロと半壊した人々の中で何かを詠唱している。すると、何もないはずの空間に、何かの気配が感じられる。
そしてそこにエリザベートの強力ないかづちが落ちる。のだが、俺は気づいてしまった。エリザベートの様子がいつもとは違うのを。彼女がまとう光の神々しさは失われていない、だけれど、その眼はどこか虚ろで、まるで操られているかのよう、まるで?
「エリザベート!! 返事をして!!」
いかづちを放ち続ける彼女に俺は無理な注文をする。当然その声は届かずに、彼女は全身の力を放ち続けるかのように、雷神の化身のように、身体まで発光し始め、辺りにもまばゆい光が発生し、前が、見えない。
「エリザベート!!!」
この声は、エドガー? 眼が見えない。かといって、何か自分の身体が危険にさらされているとも思えない。俺はゼロの名前を呼ぶ。しかし、彼はいつものように応えたりしない。とにかく、前が光で見えない。これさえ消えてくれたら!!
その願いはすぐに叶った。慌てて周囲を見回すと、その場に倒れ込んだエリザベート。それをエドガーが介抱している。俺が急いで近寄ると、
「大丈夫だ、魔力を使い切って一時的に昏睡状態になっているだけだろう」とはっきりとした口調でエドガーが言う。その声の確かさに胸をなでおろし、そして、見た。というか、見えた。俺の眼の前に会った、現れたあまりにも巨大な一本の樹木を。
それを樹木といっていいのか、俺は分からなかった。あまりにも巨大な山脈のような、建造物ような。しかしそこから感じるものは自然の、樹木の魔力であり、それはあまりにも豊潤で、身体中が癒され満たされていくような気がしてくる。
記憶が流れ込んでくる。記憶? 夢? そう、目覚めたまま見る夢のよう。その世界の中で俺は、大樹に背をもたれかかりながら、ハープを奏でていた。俺は楽器なんて一つも演奏できないはずなのに、そこからは豊かで美しい旋律が流れ出している。
そしてそれを聞いているのは、機械? そう、アーティファクトなのか、アーティファクトの出来損ない、残骸、破片、そういったモノたちが俺の音に耳をすませている。耳、聴覚がかれらにあるのか? でも、「彼ら」は俺の音楽を求めている、気がした。
しかし、その樹木は、また幻のように消え去ってしまった。俺の手には楽器はない。機械もアーティファクトも何もない。混乱しながらも俺はベルに詰め寄ろうとすると、彼は落ち着き払った様子で、独り言のように呟く。
「やはり一人の神官で出来ることには限界がある。それとも、機は熟してないということか……」
「どういうことだ、おい!」




