第十章 終わりの見えない道
そう言うとエドガーは瞳を閉じる。任務、任務かあ。エリザベートにとってはそれが何よりも大切なんだもんなあ。俺も黙ってそれに倣い、やがて夜が来る。
代り映えのない景色。しかしコンパスは先を示し、ベルさんは何故か俺にちょこちょこ話しかけてくる。とはいえ、その内容は本当にたわいのないことなのだけれど。
でもその内容が俺の小さい頃にまで及ぶと、最初は濁していたんだけれど、やけにつっこんで聞いてくるから、逆に俺はベルさんの小さい頃のことを聞いてみた。そうだ、こんな不思議な人の小さい頃、俺だって興味があるよ。すると、彼は少し首をかしげ、
「それがね、信じてもらえないかもしれないけれど、僕、記憶喪失でね。十歳くらいまでの記憶が無いんだ。それで気づいたら師匠の元で魔法使いをしてたってわけ」
少しだけ微笑んで口にするその告白を疑う気持ちはないのだが、もっとそれが気になってしまって、
「え! だったらベルさんは望んでネクロマンサーになったんですか?」
「どうかな? でも君だって望んで古代魔術師になったのかな? 多分違うよね。僕は運命論者ではないけれど、その人の業のような物は少し信じてるんだ。自分にはやるべきことがあるような気がする、なんてね」
俺は黙り込んでしまった。彼に心の中を見透かされている気になる。本当に、彼の言葉の何が本当なのか、彼が俺達に何をもたらすのか。
でも、この赤銅色の光が射し示すように、彼の力が必要らしいのは分かる。それにいざとなれば俺には仲間がいる。変に委縮することは無い。俺だって、それなりに戦えるようになってきた。俺は手の甲の太陽の紋章に軽く触れる。
「まったくよー一日二日で着くんじゃねーのか? 残りの水はどうだ?十分な量はあるのか?」
エドガーが大声で愚痴った。確かに、ベルさんは一日二日と言ったはずだが、もう三日四日以上、コンパスの先の光を追ってを進んでいる。幸い他の魔物に会うことはないのだが、苛立ちは不信感を生む。かといって、今更引き返すわけにもいかない。
いや、この聖別された水がなくなる前に帰還しなければならないのだ。そうでなければこの砂漠の中で野垂れ死にだ。ベルさんは「もうすぐだと思いますよ」とエドガーの言葉をへらへらとかわす。
エリザベートに意見を求めると、まだ数日なら十分余裕があるという。数日なら。それに神官からもらったコンパスに干渉できる程の力を持った人間なんだ。彼を今更疑ったとしても、それはもう彼の術中にはまったということだ。
ただ、何でだろう。俺は彼がそんな人には思えなかった。というか、街中で罠にかけるならともかく、こんな場所で俺達を全滅させるという計画が不確かすぎる。それに誰かが口にしていたと思うけれど、俺達全員を倒せるなんて、想像がつかない。
ああ、もう考えても仕方がないんだよなあ、でも、同じ景色を繰り返し歩いて、食料だけが減って行くのは、恐怖だ。俺は嫌な考えを振り払う。とにかく、進むしかないんだ。




