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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第五巻 存在してはならない帝國
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第八章 向こう見ずは若者の特権

「とにかく、歌って危険地帯で冒険なんてできるか、アホ。俺は吟遊詩人じゃねーんだ」


「でも、それにしても美しい歌声だ。普段の粗野なエドガーとはにつかわない。一瞬聖歌の時間を想起した程だ」とエリザベートが感心した声を出す。


「ケッ、俺のどこが粗野だってんだよ。お嬢様」とか言いながら、エドガーもまんざらではないらしい。ベルさんもにやにやしながら、


「なによりも 君が素敵な恋と巡り会えますように すごく素敵な歌詞じゃないですか」と口にする。と、エドガーが顔を少し赤くしながら彼に詰め寄り、


「お前何で歌詞を……って、金持ちか魔導士なら古代の言葉の知識があっても不思議じゃねーか。でも俺はそういうんじゃねーよ。ただ、ぱっと頭に浮かんだのを口にしただけなんだよボケ」と言いながら、先程の俺みたいに、エリザベートからコンパスを受け取ると、大股で先頭に立って進んで行く。


「大陸一のおぼっちゃまは、大層育ちが良いから恥ずかしがり屋なんですね」とベルさんが小声で俺に耳打ちする。俺も小声でエドガーを知っているのと尋ねると、


「知っているも何も、有名人じゃないですか。高レベルの冒険者で彼を知らない人なんて、もぐりですよ」ああ、そういう意味かと納得する。


「というか、ベルさんは冒険者なんですか?」すると、少し、間が空いて彼は答えた。


「違いますよ。でもギルドに所属している方が便利なので、一応冒険者にはなっているという所でしょうか」


 何か事情がありそうだからそれ以上は聞けないなあ、というかギルドの適正職業診断で死霊使いなんていきなり言われたら驚くよなあ……それとも、何かのきっかけで転職したのだろうか? 


 でも、それこそ聞けないもんな。今は彼がとりあえずでも味方らしいことに感謝した方がいいだろう。


 でも、彼が加わったことで、当然と言えば当然だが、妙な緊張感に包まれている。たまに俺らの軽口にも加わってくれるようになったエリザーベトは、ずっと黙ったままだ。皆ほとんどしゃべらずに、ただ歩き続ける。


 そして日が昇って来て、体力回復と温存の為にテントを張る。なんと、というか当たり前と言うか、ベルさんは自分一人用のテントを用意していた。それは、テントと言うよりもカプセル、いや、棺桶に近いもので、少しぎょっとしてしまったが、利便性は高そうだ……でも、これ、魔族の寝床って感じだよなあ……。


 そこに器用に身体を収め「時間になったら起こしてください」と言うベルさんへ、蓮さんが「ああ」と声をかける。そして俺らは組み立て聖水のバリアーを張ったテントの中で、早速エドガーが「おい、あいつ本当に信用できるのか? さすがの俺でも、理由もない人殺しなんて嫌だぜ」


 聞こえているかもしれないのに、なんて物騒なことを! と思うがエリザベートは相変わらず否定も肯定もせず厳しい顔。そんな時ゼロがオリーブオイルを口にしながら呑気に「でしたら処分するのは僕がすればいいでしょうか、エドガー」

「バカ! そう言うこと言うんじゃないよ、ゼロ!」と俺が叱ったが、ゼロは叱られた理由が分からないらしい。ああ、どう説明したらいいのだろう。


「マスターたちが危険にさらされるならば、早期に対処すべきです。実際、彼はとても怪しい。皆の安全を守る為、同行は阻止すべきだったと、今悔やんでいます」


「それでも、私は彼の力が必要になる時が来ると思っている。実際、このコンパスの光を曲げる力を彼は持っていた。なにより、私は、何度も言うが任務を成し遂げねばならない」


 エリザーベトがきっぱりと言った。するとエドガーも真面目な調子で、


「まあ、いいさ、奴も言っていたが俺ら全員を相手にして勝てる見込みがあるなら、それはそれで腕が鳴るってもんだ。いい加減歩くだけで身体がなまってきているからな。いい暇つぶしになる、なあ、蓮」


「僕の裏・村正では彼を完全に絶命させることができないかもしれない。でも、僕は個人的には、彼は悪い人ではないと思う」「何を根拠に」と突っかかるエドガーに俺も、


「俺らには無い能力を持っているだけで、後はちょっと曲者な感じなだけかもしれないよ。皆が警戒するのは当たり前だけど、変にピリピリするのも体力使うし、もうこの話は終わりにしない?」と提案すると、エドガーは半笑いで、


「まったくよー。あの得体のしれない男にもフレンドリーだし、この俺様にもタメ口きくしよー。お前ってバカなのかアホなのか命知らずなのかわかんねーなあ」


「それって、褒めてないでしょ!」と俺が突っ込んでもエドガーはにやついたまま。


「気が付いたら、奴のネクロマンサーの秘術で、死人で俺らを襲うなんてことがないようにしてくれよ。防御力が一番ないおぼっちゃま」


 う、そう言われると口答えできない! と羞恥と悔しさで顔を赤くしていると、ゼロがさらりと「マスターアポロは僕が守ります。安心していてください」


 その言葉は頼もしい以上に何だか嬉しくって、俺はゼロの肩に軽く触れると「大丈夫。俺、強くなってきてるから」とにっこり笑う。そうだ、笑うのが、前向きなのが一番だ。それでどうにかこうにか、俺だってこのパーティで戦いをくぐり抜けてきたんだ。


 ゼロは不思議そうな顔をして、こくんと無言でうなずいた。


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