第七章 I wish you love
と、皆の視線が俺に集まるのが分かった。ちょっとたじろいでしまって、
「それって、かなり危険な場所というか、自己防衛システムが未だ生きているってこと? え。俺の力でその帝国というか、あ! あの、もしかしたら帝国、都市か軍隊自体が巨大なアーティファクトってことなのかな」
「その可能性は高いですね、マスター」とゼロ。
「帝国ってことは、普通は軍隊とかの部隊がいるはずで、それを考えると、機械の部隊だけでも十分脅威なのに、アーティファクト製の部隊なんていたら、幾ら俺達のパーティでも、かなりヤバいんじゃないか?」
「だとしても、私は向かう」と決意に満ちた瞳で、エリザーベトは口にした。エドガーも苦笑いをして「まあここまで来て戻れるかよ」と言う。
「まあまあ、僕が生きて帰れたらしいんですよ。つまり、危険だけれども、貴方たちがいるならば大丈夫じゃないですかね」
うーん、そうだなあ。憶測でしか考えられない今、必要以上に弱気になるのは、良くない。ベルが戻って来たという報告だってあるから、少なくともアーティファクトの兵隊が大勢いるなんてことはないはずだ。
それに俺もエリザーベトじゃないけれど、任務のような物があるんだ。俺の肉親が、仲間があの地にいるのかもしれないのだろうから……でも、それを深く掘り下げて考えないようにはしていた。考えれば考えるほど、嫌な連想ばかりが浮かぶのが目に見えていた。
そっと俺の肩に蓮さんが手を置く。
「大丈夫。頼りにしてるぞ」
この人はなんで人の心が分かるんだろう。というか、俺が不安を見透かされるような顔をしていたのかな。俺は変な笑顔を作って蓮さんに返した。蓮さんは微かにうなずく。
その仕草で、俺はぱっとやる気が起きてきた。そうだ、あともう少しで目的地に着くんだ。俺が力を出さないでどうする! そう思うと「じゃあ、とにかく話はあるかもだけど、歩きながらで行きましょうか!」と先頭に立つ。
「おーおー若いのは元気でいいなー。俺の分の荷物も持つか」とエドガー。俺は仕返しのつもりで「だったらエドガー自慢の歌でも披露してよ。丁度こんなきれいな景色なんだしさあ」と軽口を叩く。叩かれるのを覚悟していたのに、俺の耳に入って来たのは、あの、甘い声だった。
「I wish you bluebirds in the spring
To give your heart a song to sing
And then a kiss, but more than this
I wish you love」
いつもの甘い声がこの幻想的な景色に交じって、思わず足を止めてしまうと、歌も止んでしまった。そして立ち止まった俺の頭をエドガーがポカリ。
「アホ。何立ち止まってんだ!」「いや、だって聞きほれちゃって。エドガー続き歌ってよー」「バカ、金でも払え。それに綺麗なねーちゃんもいないとこでこんな甘い歌……」
と、ここでエリザーベトが冷たい眼差しをエドガーに向ける。俺と蓮さんはちらと顔を見合わせ小さく笑う。