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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第四巻 ジュエル・アンドロイドと憂いの戦乙女
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第二十一章 存在してはならない、朱金の……


「へーへー。お宝もらえるんだから、大人しくついて行きますよ」とエドガー。俺は単純に、この神殿の内部がどうなっているのか気になった。そしてエリザベートを先頭に、神殿内に入ると、そこにはいくつもの長椅子が並べられ、そして奥には、空中に浮いている、豊かなひげをたくわえた白いローブを着た老人、トールの石像? らしきものがあった。いや、石像にしては魔力や威圧感を感じるし、でも、本物のわけが無いのはわかるし、と俺が混乱していると、みんなが右に曲がり別の部屋に向かっているので、慌ててそのあとを追う。


 聖堂でお祈りしている人がいた。それはおそらく市民、一般の人と信者がまざっているように思えた。火、水、風、雷、といった自然をエネルギーの源にする魔法は、習わなくても使えるようになる場合がある。でも、暗黒魔法、神聖魔法はこういった所で修行して習得せねばならないらしい。そして、何より信仰心が大切だ。


 神様を心から信じるって、どういうことなんだろう。神様、か。神様がいるんだったら、何でガラクタウンみたいな所で子供が捨てられ続けているのかな。神様が人間にとって都合のよい存在ではないこと位は分かる。信仰心がある人の魔法、奇跡の力だって、先程までお世話になったばかりだ。でも、神様について、それを信じることについて、今の俺にはよく分からなかった。


 緑と花々が溢れる庭園を横切り、円形の建物の中に入る。そして、エリザベートは扉をノックして「失礼します」と扉を開くと、一礼してから少し歩き、


「アイゼント・エリザベート、ナイトホルム、魔物の巣を鎮圧し、ただいま帰還いたしました。その際、数名の冒険者の協力を得て、封印に成功いたしました」


「そうか、ごくろう。さがっていいぞ」そう、年老いた女性の声がして、なんと、エドガーがいつもの調子で、


「そんで、助けた冒険者が俺らってわけ。冒険者は報酬の為に戦ってるって、偉い神官様だかなんだかの、あんただって分かるだろ?」


「エドガー!! 言葉を慎めと言っておいたはずだ!! 大変申し訳ございません、ヘラ様!!」


 狭い室内にエリザベートの声が響き渡る。ここは広々とした、貴族の部屋のよう。壁には何かの紋章や、絵画などが飾られており、部屋の奥にいるヘラと呼ばれた女性は白いローブを全身にまとい、被った帽子からはキラキラと光る光のカーテンが広がっていて、口元しか見ることができない。彼女は椅子に座ったまま、ゆっくりとした声で、


「お前たちの望みはもう叶っています。冒険者風に言うと、ミッション、とでも言えばいいのでしょうか?」


「それは、どういう意味でしょうか、ヘラ殿」エドガーに任しておくとこじれると思ったのか、蓮さんが前に出て尋ねる。


「皆殺しの天使。お前たちはその者を倒しなさい。それは、お前たちの中の誰かが、望んでいることです。エリザベート。お前は引き続き彼らについてサポートをしてあげなさい。ポータルで別の大陸に行くのにもお前の力が必要だからね」


 え、この人は次から次に何を言っているんだ。それに、ポータルって、古代魔術師以外にもヴァルキリー用のポータルがあるってこと? と、そんなことよりエドガーが抑えた口調で、


「あのさ、そちらの言うとおりに働いて、報酬をもらう代わりに新しい厄介ごとを押し付けられるとはどういうことだ。クソ、なめやがって。おい、お前ら行くぞ。誰が皆殺しの天使なんて、名前聞いただけで物騒な奴、タダ働きで退治しに行かなきゃならねえんだ」


 これは、エドガーが言う言葉に筋が通っているように思えた。この人が何を考えているのかは分からないですが、これは一方的過ぎて、俺達を道具か何かと勘違いしているのかと嫌な気分になる。エリザベートには悪いけど、俺もエドガーに従おうかと思っていると、ゼロが、


「皆殺しの天使。もしかして、それは、『存在してはならない帝国』の、遺物でしょうか?」


「存在してはならない帝国って! 何? ゼロ、記憶が戻ったの?」と思わず口に出すと、ゼロは落ち着いた口調で、


「マスターアポロ。私には断片的な記憶しかないのですが、そこは、アーティファクトで出来た、帝国。しかし、その存在は、失われているはず。皆殺しの天使は、そこにいた、金と赤の翼を持った天使だったと、それだけですが、記憶が残っています」


「金と、赤の翼の天使? それがいったいどうしたの?」


 嫌な考えが俺に浮かぶ。それを振り払いながら、俺がなおもゼロに問いかける。しかしゼロはそれ以上記憶にないようだ。その俺の背に、ヘラの声がする。


「飛陽族の少年よ」俺は思わず振り返る、すると、ヘラは俺に告げた。


「その美しくも血に満ちた皆殺しの天使は、お前と同じ飛陽族であるはず。それだけでも、お前が行く理由ができたのではないのか? そして、エリザベート、お前はかの地にて主神オーディン様へと通じる魔道具を得ることだろう。期待しているぞ」


「オーディン様? 主神、とは、どういうことでしょうかヘラ様! 我々が信仰しているのはトール神だけではないのですか! 主神オーディン様とはいったい?」


 エリザベートはうろたえて口にするが、ヘラは口にしない。しかし、俺はそれもあまり頭に入ってこない。


 頭が真っ白になるとはこのことだったのか。思考が停止する。間違ってほしいと願う。でも、彼女が嘘を言っているとは、どうしても思えなかった。勘、というか、金と赤の翼。それは、俺のお父さんと同じ翼。他に金と赤の色をした種族なんているだろうか?


俺が探していた、のが、本当に血まみれの、呪われた天使、飛陽族なのか、俺は確かめねばならない。無謀だとしても、一人でも行く。俺は、エドガーと蓮さん、そしてゼロにその説明をした。あの遺跡で父さんに会ったこと。そして、その皆殺しの天使は、きっと俺の仲間か、考えたくはないが、父さんかもしれないってことを。


蓮さんとエドガーは目配せをする。蓮さんは黙って俺の手を握った。そしてエドガーは舌打ちして、


「この借りは高くつくからな。アポロ、そしてヘラ」


 俺は二人の言葉に思わず目頭が熱くなる。ゼロは不思議そうに俺を見ている。涙をぐっとこらえる。泣いている場合ではない。分からないことは沢山ある。それでも俺は前に進むしかない。こんなに頼りがいのある仲間がいるんだ。絶対に、その正体を突き止める。


 でも、俺の心にはぬぐいきれない、美しい赤と金の翼の幻がちらついていた。


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