第十五章 連携と過去
この強固なバリアの中にいても、ものすごい雷鳴の音が鳴り響いて、止まない。このバリアはどの位の時間持つのだろうか? この雷を受けたら、俺やアンドロイドのゼロなんかはひとたまりもないかもしれない。でも、俺は何もできない、じれったい、
と、雷は、止んだ。それに応じて、バリアも解かれる。「運が良かったな」とぼそりとエリザベートが言う。どういうことだ、と思うと、彼女は続けて口にする。
「神話にある、天まで届くと言われたバベルの塔は、思いあがった人間への罰に、神が雷を落とした。この『逆さバベルの塔』でも雷撃があるとはな。私が雷のバリアを使えなかったら、全員消し炭だ」
「なんだ、自慢か? それ」とエドガーが茶々を入れる。
「違う。それだけ気の抜けない場所だと再確認しただけだ。ああ、念のためライジング・ブレスをかけなおしておこう」と、俺達がまた、温かい光に包まれている、と、ゼロがいきなり。
「エリザベート。魔力、精神力等の低下が懸念されます。動力を補給するべきだと思います。これでよろしいですか、マスターアポロ」
え! いきなり俺に話題を振るって! でも、甲冑を身にまとい、表情も分からない彼女。ゼロが言うことは正しいと思い、俺はマジック・ポーションを彼女に渡す。彼女はメットを一部外し、ゆっくりと飲み干した。
「失礼した」と歩き出そうとする彼女の肩をエドガーがつかむ。
「おいおい、ヴァルキリーさんよ。この場所で一番頼りになるのは、あんたなんだぜ。体力魔力が不十分な状態で、俺らまで犬死は御免だ。さすがに罠があった場所でまた、なんてないだろう。少しだけ進んだ場所で、また少し休んだ方がいいんじゃねえのか?」
エリザベートは、固まったまま、でも、ゆっくりと「そう、だな。分かった。回復させる」と言った。
彼女は、普段どういう生活をしているのだろうか。ヴァルキリーの生活ということの想像がつかない。個人的な興味、好奇心もあるけれど、人としての彼女のことをもっと知りたい気持ちもある。断られるのを覚悟で、壁に軽く背を持たれかけているエリザベートに尋ねてみた。彼女は少し間を置き、
「私達は、主神に仕える者。適性に応じて、布教に務める者、寺院を守り神託を聴く者、私のように、魔物を浄化する、そして、勇士をヴァルハラへと連れて行く者」
「エリザベート、ヴァルハラって、何? どこ? 死んだ時に行く場所?」
「そうだ。しかし、選ばれた勇士だけが赴くことができる、来るべき対戦の為の場所だ」
それって、死んだ後も、その選ばれた勇士は休むことも許されずに戦い続けることなのか? と疑問がわいたが、さすがに口に出来ずにいると、蓮さんが、冷静に、
「それでは、君が忌み嫌う修羅道に堕ちた者と同じではないか。死後も戦い続けるという枷をはめるのが、君のさだめか」
俺はびくり、としてしまったが、エリザベートは身動き一つせず、
「なんとでも言え。私は依頼をして、お前たちの力を借りる。それだけだ。過去の事を蒸し返すつもりはもうない」
過去の事? それにしても、蓮さんがここまでつっかかるのは、何があったんだ? でも、これこそ絶対に聞けないし、人には聞かない方がいいことがあること位、分かる。そんな俺の服の裾を、小さな子供のようにゼロが引っ張る。
「ん、どしたの?」
すると小声で「マスターアポロ。意見の相違が起きているようなのですが、僕に発言権をいただけますか?」
何でそんな変な言い方をしているんだ? あ! 彼なりに「空気を読んで」いるのか? ツッコミたいが、あ、後にしよう……
「ゼロ、自由に喋っていいよ、どうしたの?」
「ここから三十メートル程度先に、通過すると、先端が鋭い金属が発射される、それに加えて、金属片の詰まった爆弾が破裂する罠があります。今すぐ破壊すべきだともいますが、どうしましょうか?」
「さすがゼロ!! そうか、この場所でも金属や機械とかの情報なら感知できるんだね、ありがとう! で、どうしようか。破壊って、危険はないの?」
すると、エドガーが「ちょっと腕がなまってるし、そこで待ってろ」と先に行ってしまう。俺が彼を引き留めるのだが、聞くわけがないし、もう、勝手にしてくれと待っている、と、すさまじい音と、冷気。ここでも、分かる。ダイアモンドブレスだ。
戻って来たエドガーはゼロに「壁や床、全体に噴射したが、反応はどうなった?」
「起爆となる反応は収まりました。感謝します。リーダーエドガー」
「おう! こう見えて、中々チームワークいいんじゃないの、俺ら」とエドガーがギャグ? を口にしたので、俺もそれに乗って元気よく「そうだよ! 龍騎士に侍に戦乙女に、アンドロイドに、飛揚族とか、すごいよ! こんな強力なパーティなんて大陸中探しても中々ないよ!!」
そして、静かになった……いいですよ、僕がバカな役をすればいいんですよね……飛べるだけで今回も大して役に立ってないですし……
ダメだダメだ、卑屈になっちゃ。俺ができることを考えよう。それに今はゼロの力と命を預かっていると言ってもいい。緊張感をもって挑まなきゃな。うん。
って!
「蓮さん!! 後ろから悪霊みたいなのの反応が!!」




