第十三章 志半ばで
「ここにいるのは、高レベルの死者が多い。私達の団体の力とこのバリアの強さを理解しているのだろう。私たちが何らかの罠に引っかかる時を、狙っているのかもしれない」
エリザベートはそう言いながらも悠然と歩く。そうだな。慎重さは必要だけれど、弱気になっちゃだめだ。俺もゼロに「異常を感じたら、すぐに言ってね」と言う。すると、ゼロは右の前方を指さし、
「マスター。あそこに人体反応があります」
「え、ここに人? そんなわけないよね!」
すると、エリザベートとエドガーが同時に飛び出し、その、「何か」を消滅させる。そして、エリザベートが振り返り、
「レイスだ。未だ成仏しきれていないから、ゼロとやらが発見してくれたのだろう。人にとりつく悪霊だから、早めに処理出来て助かった。ゼロ」
「いえ、マスターアポロの指示に従ったまでです。ヴァルキリー、エリザベート」
「エリザベートでいい」と言うと、彼女はさっさと先を歩いて行く。エドガーは素朴な声で「こいつ何でもできるな」と口にする。そうだなあ、ゼロって何でもできるなあ、俺も、役に立ちたいけど、ここでは黙って「邪魔にならない」のが一番かなあ。
先に進んで悪霊やゾンビの類が出ても、後ろから怪物が襲い掛かって来ても、三人の力で流れるようにモンスターを始末してしまう。何だ、いつもの楽勝な感じかな?
なんて俺が油断と暇を持て余していると、少し広い場所に出た。ガレキの跡のようなものが沢山あり、モンスターの物でもない、なにか。近づいてみると、それはかつて冒険者だった者達だった。初めて目にした遺体に身体が固まる。これが、冒険ということなんだ。
ここまで降りてこられることからも、立派な装備からも、それなりに腕の立つ者だということが分かる。でも、彼らは死んだ。死んだんだ。果たして復活の呪文は効くのだろうか? 人間としての姿を成していない遺体を目にしてしまうと、それは絶望的に思えた。
俺が固まっていると、エリザベートは静かに彼らに近づき、そこに跪く。そして何か小声で唱えると、それが光の柱になり、彼らの姿は消えた。
「これが、ヴァルキリーの力って奴か?」と俺が聞きたいけど聞けない質問を、エドガーがしてくれた。すると彼女は祈りの姿勢のまま、
「ヴァルキリーが連れて行くのは、強き、穢れ無き勇士だ。彼は、志半ばで倒れた者だ。この場でせめて悪霊にならぬよう、その魂を浄化しただけだ」
ん? 何か変だぞ? あ、あれ? アーティファクト反応が、ここにもある? どこだ? 俺は岩肌を眺めるが、場所が定まらない。
「なあ、ゼロ。ここにもアーティファクト反応があるよね?」
「はい、マスター。こちらに、何かを起動するキーが」と、ゼロが勝手に何かのボタンを押すと、床が!! 開いた!!!
俺はすぐに翼を広げたが、何か重力がかかっているのか、上に飛ぶのは、難しい。何だ、これ、でも、そんなことは言ってられない!! エドガーはすでに龍人化して、翼を広げ、エリザベートとゼロを両手でつかんで、叫ぶ!
「蓮を頼む!! アポロ!!」
俺は言われた通り蓮さんを両手でつかむ、う、重力の関係か、お、重い……。でも、底がいつまであるのか分からないが、とにかく、墜落しないように、しなければならない。くそ、筋力のなさと鷹の紋章は使えても、風魔法は使えないのが今更悔やまれる……でもそんなこと言ってられない。とにかく、耐えるしかないのだ。
暗い、底が見えない闇の中。俺は蓮さんを支えながら飛びつつも落ちるだけで精いっぱいだけれど、蓮さんは桜吹雪を散らし、裏・村正で悪霊を払い、エリザベートも光やいかづちを放ち、俺達を襲う敵を払っていく。
それにしても、いつまで落ちればいいんだ。腕の力が緩みそうになり、はっとして力を入れる。それに気づいたのか蓮さんがぼそりと「いざとなれば、その手を離せ」と声がした。そんなこと、できるわけがない。俺は黙り、ひたすら耐える。それが、どこまでも続く闇の中だとしても。
それにしても、いつまで続くんだ? 腕の感覚がなくなりそうになっていて、俺一人でもきちんと飛べるか、怪しくなってきた。その時、閃いた。意味がないかもしれないし、事態を悪化させるかもしれないが、俺は、火事場の馬鹿力で、一瞬、片手で蓮さんを支えると、ポケットに入れていた、ウッディ・オパールに念を入れる。
「太古の樹木よ!! 悪しき重圧から我らを守り給え!!」




