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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第四巻 ジュエル・アンドロイドと憂いの戦乙女
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第十一章 因縁のヴァルキリー

 思わず小さな声で「え?」と口に出してしまった。部外者の俺が一番驚いてしまった。この人は一体何者だ? 一見美しい女騎士に見えるけれど、それが一人でこんな所に来るか? けれど蓮さん、特にエドガーも驚いたようで。


「はああ??? お前どうした? そりゃ、逆さバベルの塔なんて、よっぽどの物好きじゃねえと、誰も行きたがらねえだろうけどよ、お前が嫌ってる俺らを誘うのも、どうかしているんじゃねえのか?」


「そうだ。清らかな魂を集める者よ。僕のような穢れきった魂を持つ者とは、同じ空気も吸いたくないんじゃなかったのか?」と、珍しく蓮さんまで刺々しい言葉を口にする。


 過去に、二人と何かあったのか? それに、蓮さんにそんなことを言うなんて、相当だぞ。それに清らかな魂を集めるって、何?? 彼女は聖騎士じゃないの?


「その件については、私が未熟で礼を欠いていた。すまない」と、彼女は大きく頭を下げる。エドガーは口を半開きにして驚いているけれど、蓮さんは、なんか怖い顔してる……。


「そ、それはそうと、俺らを誘うってことは、相当ヤバイってことだろ。お前たちの仲間でどうにかならなかったのか?」とエドガーが尋ねる。すると彼女は、先程から変わらぬ事務的な口調で、


「そうだな。戦闘に適したヴァルキリーは、他の大陸に行ってしまって、今手薄なのだ。そこで、仲間を現地調達しようとした、ということだ。幸いナイトホルムの街だと、人員には困らないはずだ」


 エドガーは少し考え込んでいるようだ。でも、でも、ヴァアルキリー! すごいレアな人じゃん! 雷知神トールに仕える戦乙女。勿論冒険者ではないから、レベルはない。前、詩人さんが教えてくれた、たしか、


ヴァルキリーとしての務めは、死に行く穢れ無き、強き勇士の魂を天界へ送り届けること。トールが来るべき戦いの為に、勇士を集めているのだ。これについては死者蘇生が可能であるこの世界で、ヴァルキリーの存在が非難されることもある。そもそも他の人たちは、トールの唱える「来るべき戦い」なんて信じていないのだ。他の神の信者や肉親からは、死の天使と蔑まれることすらある。


まるで、神話みたいな話だ、とぼんやりと思っていると、彼女は何でか俺の前に立ち、俺の手を握った! 鎧は脱いでないのに、なぜかその手は暖かいし、口はきついが、こんな美人に手をにぎられると、どきどきしてしまう……


「未だ弱いが、魂はとても美しい。また、誰とも契りを交わしていないのもいい。良い勇士になる」


 え、これ、褒められてるのか……まあ、冒険者なりたてですし、エドガーや蓮さんに比べたらヒヨッコですけど……あ、でも契りを交わしてないって何だ? 何かの契約か? と俺は蓮さんに尋ねてみると、なぜかエドガーがにやついて、


「それはね、アポロおぼっちゃま、まだ誰ともやらしくて、とっても楽しいことをしてないってことですよ」


 か、顔が赤くなるのが自分でも分かる。た、確かに、詩人さんの歌や本で読んだ神話やら何かのいけにえでは、そういう男女をね、重視するみたいなのがあるらしいですよ。でもね、何も本人にそれを言う必要ってないでしょ、ないでしょ!! ないでしょ!! と俺が苦い顔をしていると、エドガーがまた茶化してきて、でも俺は何も言い返せない……クソ!! 俺の恋人は冒険だバーカバーカ!!


「マスターアポロ、リーダーエドガー。盛り上がっているところ失礼します。先に報酬を聞いてから、依頼を受けるか判断されてはいかがでしょうか?」


 あ、あのゼロに仕切られている……ごめん、ありがとうゼロ。エドガーはわざとらしい咳を一つして、


「俺達四人いるだろ。俺らってか、俺、金には困ってない。四人分のアーティファクトか、それに準じるような魔道具をくれ。そうじゃないと、俺らは動かないからな」


 え、そんなの可能なの? いつもは人助けだしと気楽に助けに乗る蓮さんも、今回は黙ってエドガーの対応を待っているようだ。四つもアーティファクトを用意だなんて、普通に考えて、無理だ。彼女も堅い顔をしていた、が、


「分かった。これが終わったら神殿に来てくれ。私ではなく、もっと高位の存在が、お前たちの働きに報いるような品々を渡してくれるだろう」


「はあ? そういう曖昧な言葉じゃなくて、はっきり言えよ」とエドガー。でも、彼女ばかりずっと責められているみたいで俺は、


「あのさ、過去に何があったかは知らないけど、冒険者として、助けを求められたら応じる。それに、巣を封印出来たら、あのお金持ちからも色々もらえるんじゃないの? 俺らの利害は一致しているから、協力するのは悪くないと思う。彼女は強いと思う。俺が逆さバベルの塔の恐ろしさを知らないから色々言えるのかもしれないけど……」と言う俺の言葉をさえぎり、エドガーが、


「どうする、蓮。リスクに見合うものだと思うか?」


 蓮さんは少しして、彼女の前へと向き合うと、


「アポロに感謝するんだな。行こう。陣形は、先頭にエリザベートとエドガー。しんがりは僕が務める。真ん中にアポロとゼロを挟む。それでいいか?」


 それに彼女は食い気味に返事をする、と。

「ああ、お願いする。最初に僕たちの能力について簡単に説明する。ゼロ、銀髪の彼は強いが記憶が曖昧なので、そこの所を了解して欲しい」と、蓮さんが事務的に、てきぱきと俺らの能力を要約して語る。


「次は君の番だ。一時的とはいえパーティを組むんだ。使える能力、そして戒律としてしてはいけないことがあるなら、教えて欲しい」


「分かった。私の名はエリザベート。雷知神トールに仕えるヴァルキリーだ。その名の通り、雷の魔法。そして回復や補助の魔法が使える。得意な武器は細剣だ。一応言っておくが、いくら私がヴァルキリーだとはいえ、瀕死のお前たちをヴァルハラに連れて行くことはない。安心してくれ。それと」


 と、彼女は一つのコンパスを取り出した。あ、前にレヴィンがくれたのと同じ、普通のとは違う魔力が込められたとか、魔石が入った、普通のとは違うコンパスだ。


「これがあれば、あの逆さバベルの塔でも、下層にいかねければ、迷わないはずだ」


「え、何で迷わないの? 何でそれを持ってるの?」と僕が考えなしに口にしてしまうと、


「私の仲間が探索して戻って来た時の遺品だ。だが、回数は限られている、というか、中の魔力が次第に弱くなっているのを感じる。なるべく早く済ませたいんだ」


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