第十章 稲妻の女騎士
エドガーの言葉に急いで巨大な黒い球体の方に向かうと、攻撃を行う様子は今の所ないらしい。しかしいつ、何をするのか分からない。この物体にあの二人が攻撃をしてきかないというのは、何かの強力なバリアか、物理攻撃自体が、きかない可能性もある。
「分かった。俺が炎の魔法を使ってみる」と言った俺の腕をゼロがつかんだ。
「マスター。進言をお許し下さい。この物体には見覚えがあります。核融合、或いは電気エネルギーを蓄電して、自爆し広範囲に爆発をするものです。リーダー・エドガー。僕の絶対零度とリーダーのダイアモンドブレスを同時に噴射すれば、安全に処理できると思います。よろしいでしょうか」
エドガーはちらり、と皆を見回してから、「すぐ、行くぞ」と位置について口元にエネルギーをため、ゼロも近くに並び、右手にまたエネルギーがたまる。俺と蓮さんは急いで後方へと下がる。
背中に感じる凄まじい力、そして振り返ると、重なる号砲と身を刺す寒さ。震え。目の前が真っ白になった。
視界が開けた時、立っている二人の前にはきらきらと輝く氷の球体があり、それが瞬く間にどろりと溶けて、光の粒になって消えて行った……。
「お前、やるな! 最初はうさんくせーと思ってたけど、とんだ拾い物だ」と龍の顔のエドガーが上機嫌で言う。するとゼロは、
「僕はマスターアポロと共に、リーダーエドガーの武器であり盾になります。僕は有用です」
するとエドガーは苦笑しながら「お前その話し方はなんとかなんねーのかよ。アポロにしっかり教育してもらいな」
と、一見和やかな雰囲気が漂う中、聞きなれない怒鳴り声が聞こえた。
「離れろ!! デスサイズの気配がする!!!」
え? これを口にしたのは、女性? そう言いながら、きらきらと光を反射する銀の甲冑でまとった彼女は、穴へと走って向かっている。エドガーがゼロに合図して、二人は穴から距離をとる。
そこに現れたのは、大きな翼を持った、全身黒の魔物で、両手には大きな鎌を持ち、さらには、そいつが霊体だった。黒い邪気を全身にまとい、離れていてもぞっとするような恐怖感を覚える。
そうだ。多分、普通の物理攻撃は効かない。俺が太陽の力のチャージをしようかとするのだが、俺の攻撃だとあの女騎士を巻き込んでしまう。騎士が霊体と知っていて……あ、彼女、多分普通の騎士じゃない。無策で飛び込むような馬鹿なんていない。
なにより、彼女の元に魔力が集まるのに気づく。今まで俺が感じたものとは少し違う感じの、まるで心地良い歌の調べが辺りに流れるかのような、戦場に場違いな空気。
騎士が細剣を抜き、相手に向けると光の矢が何本もデスサイズに降り注ぎ、デスサイズは醜い叫び声を上げながら、それを払いのけようとする。俺も加勢したいんだけど、俺のじゃあ騎士を巻き込むかもしれないしなあ。あ、そうだ、
「ゼロ、ああいう悪霊と言うか、霊体に効果的な攻撃で、騎士をサポートできない?」
「はい。可能ですが、マスター、決着がつきそうですよ」
僕は慌てて騎士の方向を見ると、騎士の目の前には大きな魔法陣が出現していて、デスサイズに、巨大な雷光が落ちていた。まるでそれは光の柱のようだった。それが消えると、敵も消えていた。
そして、騎士はマスクを外し、頭を軽く振る。風に流れる長い金髪、透きとおった青い瞳、彫りが深くて少しきつそうだが、美人な、やはり女性だった。
自然とパーティの四人が集まると、そこに彼女が来て、
「これだけいてターン・アンデッドの魔法を使える人間が一人もいないのも驚きだな。今までどうやって生き延びてきた?」
いきなりこの挨拶は、どうしたんだ? 彼女はエドガーに向けてそう言っているようだった。知り合いか? でも、和気あいあいとしているようにはとても見えないが……エドガーも少し、いや、かなり不機嫌そうに、
「霊体を殺す術位あるに決まってんだろ。お前がしゃしゃり出たから、花を持たせてやっただけだ。それでなんだ、わざわざ嫌みを言いに来たのか? もう魔物は出てこねーみたいだし、俺らは帰りてーんだよ」
「しかし、魔物の巣を叩かねば、この場に安息はない」
「そんなの知ってますけどねー。俺ら雇われた冒険者何で、契約に従うだけなんで、それじゃあ」とエドガーが俺らの背中を無理やり押し帰ろうとすると、
「待て。それならば私と契約しろ。そこの四人。私と共に逆さバベルの塔に赴き、魔物の巣を叩く」




