第六章 機械的処理
「俺もだ」「僕もそうだ」と二人が同意する。そしてすっと、蓮さんが前に出て、
「僕が鳳凰を召喚して、明り代わりにして先に行ってみる。この道が長いようなら、いったん戻り報告をする」
「鳳凰をカンテラ代わりとか、ぜいたくだなあ」とエドガーが苦笑い。
そんなことは素知らぬ顔で、蓮さんは集中すると、彼の周りに炎の円が生まれ、轟音と共に赤い光が蓮さんを包み込み、それが解けると、鳳凰が蓮さんの肩にとまっていた。
真っ赤な翼に虹色の尾をひらひらとなびかせ、光のかけらを身体にまとい、とても優雅で美しい。僕は思わず少し近寄ってみたい衝動にかられると、エドガーに無理に引き戻された。
「馬鹿野郎。お前、その耐炎装備でも、魔力が低い奴は焼け死ぬぞ」
「ご、ごめんなさい」と俺は謝る。たしかに、伝説の鳥にうかつに近づくなんて。しかし蓮さんは苦笑して、
「エドガーはおおげさだ。では入って来る」と、一番左の道へと蓮さんは進んで行く。鳳凰の熱で、道も明るくなっているらしかった。
「どうする?」とエドガー。
「待つしかないじゃん」とはジェーン。
「そうだよな。あいつが死ぬわけねーし。ただ、俺が待つの大嫌いなんだよ、ちょっくら、行ってくるわ」
そう言って、カンテラもなしに、あ、意味ないのか。剣のみで右の通路へ進むエドガーを僕が慌てて止める。でもエドガーは軽く俺を振り払うと、暗闇の中へと消えて行った。
俺がおろおろしながら言う、
「ジェーン! ばらばらに行動するとか一番よくないんじゃ? それに、あの暗闇で……」
「エドガーは夜目がきくから。多少は見えるのかもね。それにさ、あいつがいないから言うけど、レベル68って、本当に、勇者とか伝説になっていいレベルの強さよ。私みたいな、すごい大魔導士よりも何倍も死線を乗り越えてきたんだから。それに何より、アイツは自分が決めたら周りの言うことを聞かない!! もうほっとくしかないのよ。強すぎなんだから、罠があっても死にはしないわ」
た、たしかに、ジェーンの言うことには説得力があった。でも夜目とかって、真っ暗闇でもきくものなのかなあ。でも、待つしかないんだもんなあ。
そのまましばらくすると軽やかな足音がして、蓮さんが帰ってきた! 鳳凰はもうしまわれていて、その手には変な模様が書かれた小石が一つ乗っていた。
「道は行きどまりだった。だが、そこにはこれがあった。アポロ、何かの役に立つだろうか?」
僕は手に取ってみる。確かに、この遺跡の流れというか、気と言うか、何かを帯びている。僕は周囲を軽く歩きながら、はめこむ穴はないか調べるが、それらしきものはない。僕は二人に言う。
「下に降りるのに関係あるかはわかりませんが、ここのものです。でも、使い方が、分からない。すみません」
蓮さんが穏やかな声で言う。
「まあ、仕方がない。じきに分かるだろう。それにしても、あのエドガーはまた勝手に行動しているのか。しばらく、待つしかないか」
そう言って蓮さんは腰を下ろす。僕もなんとなく座ってみると、床が岩?のはずなのに、冷たくない。温かくもないけど。さすが遺跡、どこもかしこも不思議な素材だなあ。
すぐにエドガーは帰ってきた。蓮さんと同じで、小石を手にしている。俺はそれを受け取ると、それは一つになった!
でも、それだけ? 俺はそれを握りしめて集中してみる、と。
一気に空間が広くなった、ワープした? でも、壁の模様は同じ、はずで、壁が一気になくなったとか? わからない、が、
「嘘、これって……魔力感知に反応しない……」ジェーンの声が震えている。僕はふと、声の方向を見る、
モンスター、ではなかった。何と言えばいいのだろうか。足が四本に、手が四本。頭は二つ、身長はエドガーの3倍くらい。それは、機械だった。光を反射する素材で作られた機械。もう、絶滅してほとんど残っていないはずの、殺人兵器。
素早く蓮さんとエドガーが前に走り出ながら叫ぶ。
「お前ら二人絶対に動くなよ」
その言葉の通り、機械は俊敏な動きで、はさみうちにするエドガーとレンさんの攻撃を、互角にわたりあっている。というか、身長や手が四本という点で、二人が押されているようにも見えた。
その巨大な手をハンマーのように振り下ろす。しかも、それが四つ。ちらり、と、最悪な考えが頭をよぎる。
「ジェーン! 何か魔法を!遠距離のとか、何でもいいから!」
僕は必死で言うが、ジェーンは、冷静なのか、落ち着いた声なのか、言う。
「ダメ。機械は魔法がきかない。本当に強い魔法ならきく。でも、それはあの二人を巻き込む」
「でも、何でもいいから、魔法で敵の気を引くとか、そうだよ、さっきの酸とか電気とか、機械なら動力が電気のはずって前に……」
「そんなの分かってるわよ! 一番効くのは爆発の魔法。私は苦手の。でも、悔しいけど分かるのよ! 私の攻撃魔法は、きかない。きいても、ほぼ意味がないって。私とはレベルが、格が違うのよ、もう、ここまで言わせないで!」
こんなに感情をあらわにして、悔しがるジェーンを初めて見た。俺は、安易にごめんとも言えない。それに、僕も、動けない。何もできない。二人の太刀筋さえ見えないのだ。真空派が両側で巻き起こっているかのようだ。
レベルが、違うのだ。
突然、俺らの方まで熱気が伝わってきた。それが大きな炎となり、敵どころか蓮さんたちも包み込んでいる、中の状況が全然分からない、でも、どうしようもない。おそらく蓮さんの鳳凰の力だと分かるが、捨て身と言うこと? まさか、暴発? だって、熱風がこちらまでくる!
ジェーンが魔法の壁を作り、俺もその中で守られていた。ジェーンは紫の髪を光らせ、揺らしながら、
「加減ってのを知らないんだから、もう。普通なら距離置いてる私たちも黒焦げよ!」
そのまま、しばらくジェーンが防壁を張っていたのだが、炎の勢いが弱まると、なんと、あの機械の脚の部分がなくなり、大勢を崩した機械は明らかに、攻撃がデタラメになってきていて、僕でも見える、ということは、あの二人によって順々に武器をはね飛ばされ何度も攻撃を受け、機械の手も、なくなった。
飛び上がり、二つの頭を、同時にエドガーが切り裂いた。同時にすさまじい竜巻が機械の周りにおこり、その胴体にも衝撃を与え続ける。
いつの間にか、少し離れた位置にいた蓮さんが、
「これで、一応済んだってことでいいのかな?」
「へへ、てめー、いきなり鳳凰の大技使いやがって。死ぬかと思ったぜ」
と二人で話していると、あの機械の胴体部分が蛍光の緑に変色して、
「危ない!」と俺が叫ぶが、俺の方を三人とも見るだけで、何が危ないのか分からないようで、
「機械が緑になっていて、まだ動く」と僕が言うのと同時位に、太いエネルギーの波動砲が撃ち込まれ、蓮さんが、エドガーをかばってそれを受け、ビームが消えると同時に、地面へと落ちた。
「馬鹿野郎! なんでお前が俺をかばうんだ!!!」
エドガーの怒声が飛ぶ。僕は蓮さんが倒れたことで軽くパニックになっていた。すると、ジェーンは上部からつららの雨ををいくつも機械に降らせる。しかし、それを機械はビーム砲で溶かしていった。
「アポロ、手を貸して。二人で、爆発系の魔法で、穴をあけるから」
俺はそれに従う。ジェーンの汗ばんだ手、そして、魔力が俺にも伝わる。俺も、ありったけの魔力をつぎ込む。
「爆撃、襲来、轟襲来!! ありとあらゆる、我の前の愚かな物を粉砕せよ! アバレスト・クラッシュ!!!」
ものすごい音と衝撃、爆発。そして、疲労感、なのに、機械には、傷一つついていなかった。
「嘘、よね。傷くらい、ついてよ……」