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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第四巻 ジュエル・アンドロイドと憂いの戦乙女
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第四章 歓楽街を行く大人と子供

あの歓楽街から十五分程度歩いただろうか。そこにはすり鉢状の、穴ぼこが沢山ある洞窟があった。これが、あの悪名高い「逆さバベルの塔」か……でも、近くに魔力反応は、ない。近くに街がある位だからか、魔物の気配もないし、ここから見るとただの変な洞窟に見える。


周りに冒険者らしき人は、二、三人いるのだが……エドガーは「いねーな」と蓮さんに瞳で告げ、蓮さんも「そうだな」と言う。


「そんじゃあ、俺らは戻るべ、こんな所いてもしゃーねーよ」と、エドガーが他の冒険者がいる前で!


「エドガー! もうちょっと辺りを調べたりとか、待機しなくていいの? ほら、何が出るかは分からないけど、魔物の活動がさかんになるのは、夜間が多いし」


「その為に警備兵とかいるんだろ。それに俺ら雇われて来たんだ。その雇い主に挨拶してから、指示に従うのが筋だろ。そんで、緊急事態でもねーのに、こんな夜に金持ちの家に行って叩き起こすのか? ほら、街戻るぞ」


 うう、ここはエドガーの言っていることが正しい、はず。というか、高レベルの冒険者への依頼だから、エドガーと蓮さんへの依頼だもんな。俺はこれ以上ごちゃごちゃ言わず、街に戻る。うわーでもすごいなあ、やっぱりシェブーストの人波の凄さとはまた、違う感じ? ここの街は貧富の差が激しいというか、いかにも金持ちっぽい服装の人と、一発当ててやる的な人が混在している。


 しかも、街のちょこちょこした所に警備兵の人がいる。治安が良くないのか、抑止効果なのか。俺がきょろきょろしていると「お前マジで金すられるから、もっと堂々として歩け」とエドガーに注意された。そりゃそうだ。反省。特に俺の魔法は大振りだから、街中で逃げた奴をこらしめられる自信がない。


 依頼主には明日の昼前に会うとして、宿を探そうぜ、というエドガーの提案に従い、歩いて行くと、突然、エドガーに抱き着いた女性がいた。桃色の髪に、ひらひらした白いドレスとパールのネックレス。細い指に、桃色の石の指輪。すごく、いい匂いのする、謎の女性。


「エドガーのバカ! すぐ来るって言って、もう一年もたつじゃない! どうせシェブーストの女がいいんでしょ? 私のことなんて、忘れてしまったんでしょ」


 そんな彼女の髪を軽く撫で、歌う時のような甘い声で、


「そんなこと言うなよ、シェリー。俺が一流の冒険者だって知ってるだろ。忙しいんだ。お前だって、弱い奴より、強い男が好きだろ? な、これから店だろ、行こうぜ。何欲しい? 店に行く前に買ってやるよ」


 すると、女性の機嫌も良くなったようで、エドガーに甘えた声を出してくる。


「蓮、前泊った、アシュトンホテル三名。昼まで戻らなかったら、わりいけど、二人で依頼者の所へ行ってくれ、それじゃあ」


 と、歩いて行ってしまって……蓮さんも慣れてるのか、気にしてない様子で……


「あ、あのぉ、こういうことを聞くのはおかしいかもしれませんが、あれがエドガーの彼女っていうことでしょうか?」


「アポロ、どう見ても違うだろ。高級クラブの店の娘だ。エドガーに夢中な娘は何人もいるからな」


「ええっ! あ、そう、だ、ですよ、ね! そうかそうか。え! てことは、蓮さんも付き合いで行ったりとかしたりとかしたりとかしたりしてるんですか?」


「何を慌ててるんだアポロ。誘われて行ったことは何度もあるさ。それこそジパングの時は、僕も未熟で若く、上役に誘われたら断れないだろ。でも、僕には合わない。お金を払って褒められるというシステムがどうも理解できない。それこそ、アポロこそエドガーに連れて行ってもらえば良かったじゃないか。金は奴が持ってくれるし、気兼ねなく遊べるぞ」


思いがけない蓮さんの返しに、俺は、言葉につまる。行きたくないわけではないけれども行きたいわけでもないわけで、でも、おんなのこは魅力的な感じがする感じなわけで、ああ、もう、相手が蓮さんだし、もう正直に言うと「ええ、と、ですね。俺、あの、ちゃんと、女性とお話ししたことがないので、その、なんか、苦手ではないけど、その、緊張しそうというか、話したいのか話したくないのか、良く分からないというか」


「ん? でも、アポロはジェーンとかなり仲良く喋ってるじゃないか」


「それはジェーンが男友達みたいっていうか、冒険者仲間というか」


 すると急に蓮さんは大きな声で笑いだし、


「ははは!! アポロ、さすがに、男友達はジェーンに失礼過ぎるぞ。ははは! これをジェーンが聞いたらお仕置が待っているな。まあ、大体分かった。共に戦う冒険者とかではなく、女性として意識してしまうと、どうしたらいいのか分からない、ということだよな。僕も多少は分かる。年頃になり女遊びも侍の嗜みだと急に言われても、僕も困惑したよ。アポロは豊かな感受性があるから、きっといつか好きな人があらわれるだろう。焦らなくてもいい」


 蓮さん、ありがとうございます……と、思いながらも言葉にするのが、恥ずかしい。そうだよな。エドガーみたいなタイプとか、ここもそうだけど、お姉ちゃんのいる酒場に行くのが大好きなのが正常な男子、ってわけではないからなあ。


 いや、俺だってカワイイ子は好きだけど、何を話したらいいのか分からないというか、相手だってなんかよくわからないしさあ。それで、俺は冒険者になることしか考えてないし。その冒険者だってかけだしで半人前だし。二人が持っている大人の余裕って奴? それが全然ない気がする。


 でも、少し、蓮さんのことについて聞いてみたくなってしまった。俺が蓮さんの恋愛経験について質問してみると、蓮さんは困ったように笑い、


「裏・村正を受け継いだ身。色事はあっても、恋はしないと決めているよ」


 そう言って、いつものようにさっと歩いて行く。かっこいい、ような気がしたけれど、悪寒が走った。蓮さんは一生恋愛しないのだろうか? イロゴトって? なんて、俺がいえることではないけど……。すると、蓮さんが、エドガーがするみたく、軽く俺の頭を叩いて、


「こら、アポロ! いつまでも暗い顔してるな! なんてな。エドガーが楽しんでいる分、僕らもホテルでゆっくりしよう。それにこの街は人が集まるから掘り出し物のアイテムも多いんだ。明日はそれを探すのもいいな」


「はい! 分かりました」と俺は返事をした。結局蓮さんと一緒だから、カジノには行かず、ホテルに直交することになった。そこそこ高そうなホテル。でも、俺も蓮さんも、宝石を売ったお金があるしね。ホテルの中も、冒険者というよりも、この街を楽しみに来た市民の人が多いようだった。


 それぞれシャワーを浴び、少し会話をした後、二人でおやすみなさいをした。だけど、僕は何故か起きてしまった。蓮さんは寝息をたてている。俺はホテルのフロントに行って大時計を見ると、夜、いや、午前三時。変な時間に起きてしまったなあ。この時間にこの街を歩くのは危険かもしれないが、ちょっとした誘惑には勝てなかった。



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