第三章 小さな決意から星空の中へと
興奮して混乱状態のレキトに、俺はかいつまんで内容を説明する。自分がエドガーや蓮さん達のおかげで、幸運にもここまで成長できたこと。そして、自分が飛陽族という太陽を信仰していたらしい一族であるということとか。
レキトは未だに信じられない、というような表情をしていたが、俺は持ってきたプレゼントを渡す。あめ玉に、子供たちはニコニコして食いついてくれたし、レキトにはコモンの読み書きや勉強道具を渡す。
「これ、少しでも読み書きができると、学校に行けない子供達でも、絶対に将来役に立つから。レキトがチビ達に教えてあげて。それからこれ、お金。レキトなら絶対にちゃんと使ってくれること知ってるから、返したりなんてしないで受け取って。俺は自分が飛陽族だって知ったけど、でも、育ったのはガラクタウンで、助けてもらったから。だから」
俺が言葉につまると、レキトはお金の入った袋をにぎったのとは別の手で、俺の手を握った。
「正直、こんな短期間で、アポロがこんなすごい冒険者になって、こんなしてくれるなんて、思ってなかった。でも、本当にうれしい。僕はアポロみたくすごくはなれなくても、自分のできることをするよ。ありがとう。本当に何て言ったらいいか分からないけど。アポロ、ありがとう。もらった物は全部大切に使うよ」
レキトはそう言って、俺の手を強く握った。俺は、知ってるよ。レキトがほとんど一人で、小さい子を、捨てられた子の世話をしていることを。すごいよ。それをずっと続けてきたんだ。だから、俺と比べたりなんてしないで。
でも、それを口にするのは恥ずかしいというか、何だか口にしない方がいいような気がした。俺ははにかんで、
「本当はもっと一人前になってから来るはずだった。それか、二度と来たくなかった。俺、この街嫌な思い出ばかりだもん。でも、今日レキトに会えて、俺の思い渡せて良かった。シェブーストのギルドに手紙出したら、俺に届くから何かあったら送って。俺も、レキトがこの街にいてくれて、ありがとう。そんで、あのさ、馬車待たせてるから、行くね。身体、気を付けて」
レキトは俺の好きな笑顔で「ありがとう、ありがとう、元気で、アポロ!」
あっさりと別れた。自分でも何を言っているのか分からない部分、気持ちの整理ができていない部分があるけれど、でも、何だか、こっぱずかしいけど、気持ちは晴れやかだった。いつもなら茶化してきそうなエドガーも何も言わず、三人、黙って馬車へと乗り込んだ。
馬車の中でエドガーと蓮さんが、これから向かナイトホルムの話をぽつぽつとしている。俺は、一人、物思いに耽っていた。俺が手に入れたお金も、単にお使いについて行ったから。あの遺跡を突破できたのも、エドガー達のパーティに居られたから。
俺のレベルが14なのも、彼らの助けと、飛陽族と古代魔術師の力が大きい。レキトは俺のことを、自分のことのように笑顔で喜んでくれた。でも、俺は、俺の力で成し遂げたものではない。彼の笑顔が頭に浮かんで、今更になって、恥ずかしさと、苛立ちと、申しわけなさで、どうしたらいいか分からない。それに、ここでひとりきりになることだって、できない。
俺は、未だ、弱い。先輩たちの助けで、奇跡的に今があるんだ。
悔しい。
でも、本当に、ありがたい、嬉しい。これまで俺と旅をしてくれた皆。今、歴戦の彼らに比べて弱いのは当たり前だ、でも、俺は強くなる。そして、皆の役に立つ。
そんな、いつも思っていることを改めて思うと、何故だか、ふっと気が楽になってきた。これからも、今からだって、冒険は待っていて、俺には仲間がいる。だから、俺はベストを尽くすだけだ。ぐじぐじ考えたって仕方ないよな。俺だって、パーティ唯一の魔法使いとして、ちょっとは役に立ってるし多分!
「ふう」と自然にため息が出た。するとエドガーの声が聞こえてくる。
「だから、ギルドのおっさんが言うように、先に行ってる奴もいるそうだし、先ずは依頼主の所だろ、それにカジノか武器屋かだなあ。そうだ、お前の裏・村正、アンデッドにも強くなったんだよな? まえにグールやワイトと戦った時、お前の刀じゃ相性悪いからって、その刀で、敵を細切れにして無理やり再生不可能にしたの、ほんと引いたぜ」
「勝ちは、勝ちだろ。それより、依頼主に顔を出すのはいいのだが、エドガーはカジノにも行くのか? 状況確認が最優先だろう」
「だから、他の冒険者が頑張っているんだろ。それによう、せっかくの大陸一のカジノがある街なんだから、羽休め位いいだろ。終わりも分からないような依頼なんだしよー」
「分かった、先ずは現場の状況確認だ、それが済んだら、エドガーの好きにすればいい」
「ったく、気真面目なんだからよー。まーいいけど。どんな敵がいるのか、楽しみだな、アポロ!」
急に話を振られて「う、うん」と生返事で返した。そうだな……せっかく防御アイテムを蓮さんにいただいたんだし、俺も行けそうならガンガン退治するぞ!!
そう意気込んだ気持ちのごとく、駿馬は大地を駆け、なんと、普通なら二日以上かかるという道のりを、ガラクタウンに寄ったのにも関わらず、夜の少し前には到着できた。さすがトウカイテイオー! そういえば俺の翼も移動スピードアップしたら……あ、そしたら蓮さんが困るか。それに、多分エドガーもだけど、長距離飛行の練習なんてしてないもんな。あれば便利だけど、する必要があるかどうかは、ちょい疑問だ。それで疲れて、目的地で体力不足になったら本末転倒だし。
「おうおう、久しぶりに来たけどよ、シェブーストもいいけど、いいね、この景色」
エドガーが上機嫌でそう言うと、俺は街の方向を見た。わ! すごい! 色とりどりの電気? の明りがいたる所に灯り、この時間なのに、いや、この時間だからか、行きかう人々も活気に満ちていている。まるで星空の中を人々が歩いているかのようだ。
そこには色んな種族の人々がいた。シェブーストだってそうだけれど、それとはまた違う雰囲気。もっと派手な格好の人が多い気がする。胸をはだけた、ドレスみたいな服を着たお姉さんが通り過ぎると甘い香水が香り、つやつやした髪でスーツみたいな服を着たお兄さんはお店の前でにこやかな笑みを通りに投げかけている。
露店では串焼きの肉が売られていて美味しそうな匂い! でも、ふと、足元にいろんなゴミが散らかっているのにも気づく。人々のマナーはあんまりよくないのかな……
というか、町全体がカジノのようにギラギラしていて、この電気の消費魔力? はどの位なんだ? 電気を供給する、特別な装置があるのか? なんて考えていると、街を背にさっさと歩いてしまう二人とはぐれてしまう。俺は急いで先頭に並ぶと、ライトの魔法で前方を照らしつつ、二人の横を歩いて行く。




