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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第四巻 ジュエル・アンドロイドと憂いの戦乙女
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第一章 悪者退治にいく怖い人たち

 ホテルでぐっすり休んだ俺達は、朝の陽光が差し込むテラスで軽い朝食をとる。そうだ、俺は二人に、その逆さバベルの塔の周辺の状況はどうなっているのか、と尋ねてみると、いつものようにエドガーは豪快にハムサンドに食らいつき、蓮さんが紅茶を一口飲んでから話してくれる。


「あの塔、というか洞窟のすぐ近くには、大きな歓楽街のレイトホルムの街がある。このシェブーストとよりかは小さいが、それでも大きな街だ。そこの大富豪が、今回の依頼主だ。何でも、大物を始末したり、その元凶を浄化してくれたら、報酬をはずむらしい。レヴィンはともかく、金持ちの道楽に付き合っている気分だが、魔物がわいてきているとしたら、行かねばならないな」


 すると、口の中に物を入れながら、さらにソーセージをフォークでさしてエドガーが喋る。


「こまけーことはいいんだよ。久しぶりのレイトホルムだし、俺の格好の初舞台だろ? 暴れまくってやるぜ!!」


 そんな嬉々として……とも思うが、エドガーに蓮さんが行くんだから向こうにしてみても、ありがたいことなのかな。でも、聞く限り逆さバベルの塔の最下層まで行った人はいないらしいし、根源の除去は難しそうだなあ。


 そんなことを考えながらも、行ってみなきゃ分かんないよねえ、と今更地図で位置を確認してみると、レイトホルムは、シェブーストから北西にある。つまり! ガラクタウンに寄ることができる!! これから宝石を換金しに行くんだし、レキト達にお金とかを渡せる!!


 でも、向こうにも冒険者がいるだろうけれど、今寄ってもいいのかなあ。そう思いつつ二人にお願いすると、意外にもエドガーがあっさりと「いいぜ。その代わり一、二時間ですませろよ」と言ってくれた。あ、ありがたい! 一気に肩の荷がおりたぞって、まだ冒険にも出てないぞ!


 で、エドガーなじみの宝石の鑑定所で換金してもらったのだが、俺と蓮さんに、気軽に渡してくれたのは……き、金貨がある!! 金額は、エドガーが値切る前の、鎧の値段よりも高い……50万ゴート! これだけあれば、何ができる? 高すぎて分からない! いや、そうだ、安宿なら3,4年泊まれるし、って、そういうことじゃない。それに、こんな大金だけど、この祝福を受けた鎧が通常なら50万ゴート以上だと思うし、少し魔法がかかっていたりすると、それだけで値段が跳ね上がる。でも、極楽鳥との戦いの様に、いい装備こそ命を守るのだ。あの装備が無ければ、俺は確実に命を落としていただろう。


「おーい、アポロくーん。見慣れない大金見て固まってないで行くぞ。マジックショップや骨董屋で、良さげなものあったら買えばいいじゃねーか。金なんてもんは、なくなったら稼げばいいんだ。貯めておこうなんて思わず、バシッと使え! な! 」 


 そう、だよな。一、二か月前は貧乏性で仕方なかったけれど、色んな冒険と言うか、強すぎる人達を見てきて、感覚がマヒしてきている気がする、よし! 買うぞ! でも、半分くらいは貯金するぞ!! 


 そうして訪れたマジックショップには、そこまで欲しい物がない、いや、何が相場でなにがいいのか分からない……良さげな物はあるのだが、お金がすっからかんになるか、買えないか。一番欲しいというか気になった「白雪星空の水差し」は、高レベルのヒールやディ・ポイズン(解毒)やディ・パラライシス(麻痺回復)が使える道具で、しかも日の光に当てれば何度も使えるという優れもので、優れているから値段は二百万ゴート!! というか、マジックアイテム自体が全部高いのだ。


 何も買わずに店を出ようとした俺の視界に、ふと、入ったものがある。コモン(共通語)の辞書だ。というか、そのコーナーだけ、セールの札と、高価な店に不釣り合いな、小さいが魔法初心者用のものになっていて、そうだ! これをレキト達に買ってあげよう! コモンの読み書きや読書は、俺も苦労して覚えたけど、彼らにも必要な物だ。俺は鉛筆やノートや子供用の本とか、勉強道具一式を買い込んで、外に出た。


「お、いい買い物ができたみたいだな」とエドガーが言って、俺は笑顔で「うん」と言った。


 と、何故かマジックショップからなぜか蓮さんも出てくる。そうだ、俺、自分の買い物に夢中で気づかなかった、はは。蓮さんは何故か俺の前に立ち、緑色の宝石を渡してくれる。


「太陽の祭壇での礼だ。これはリーフシールドを発生させる、ウッディ・オパールだそうだ。ジェーンと話していても同意見だったが、アポロは強力な攻撃力がある反面防御力に不安がある。この石には回数制限があるそうだが、オパールを手に念じると、樹木の壁が発生し、アポロを守ってくれるそうだ。どうか、利用して欲しい」


「そ、そんないいのに、これも、いい値段、いや、でも、ありがとうございます! 大切に、いや、ちゃんと使って、自分の身を守ります!」それを聞いた蓮さんはにっこりと笑った。      ありがとうございます、蓮さん。


 その後、エドガーの新しい武器を物色しに、妖しい店やいかにも高級そうな店に出入りするのだが、どうにもエドガーの御眼鏡に叶うものはないようだ。というか、やはりエドガーは接近戦用にあの巨大で強力な大剣を持っているのだから、空中戦用に(勿論地上でも使えるが)銃がどうしても欲しいらしい。しかも、わがままお坊ちゃまの御眼鏡に叶うような、強力な魔銃、アーティファクトの銃が。


 でも、そんな物、中々あるわけないだろうことは俺だって分かるし、つい、ぽろっと、


「フォルセティさんはすごかったよ、蓮さんにさ、演習なのに、光の槍を雨の様に投げつけ、その上、ダイアモンドブレスを吐きながら、神聖魔法の波動砲みたいなのまで使うし」とまで言って、あ、この話しないほうがいいかも、と思ったがもう遅い。エドガーが露骨に不機嫌な顔と声で、


「あのなあ、聖騎士ってのはまともなのもいるだろうけれど、うちのアイツは、異教徒は殲滅せよってタイプの、暴君だ。聖騎士で神聖魔法を使えるくせに、回復魔法は使えないんだぞ。ありえるか? ヒールを使えない僧侶なんているかよ! 中身は悪魔よりヤベーよ。あんなの真似できるか! 第一、浮遊したまま、詠唱なしで魔法を連続で使えるなんて、それこそ、これから行く逆さバベルの塔のリッチレベルだぜ! で、話しによると、修羅化した誰かさんは、そのバケモノと互角の戦いをしたっていうんだから、怖いよなー俺みたいな善良な一般市民には信じられないぜ」


「最近、人を殺してないな」


 ぼそり、と蓮さんが言うと、エドガーが本気で慌てて両手をぶんぶん振り、そして恐ろしいことに俺をつかんで盾にしながら、


「うそうそ! 蓮先生最近怒りっぽいですよ!! マジで! な、アポロ! 」


「そそそそうです!! みんな仲良くがいいです!!」


 が、しかし、黙ったままの蓮さんの瞳が、あの時の様に、光を帯びて金色になり爛々と光っている。え!!!! 腕は、六本ではなく、二本だけれど、嘘、蓮さん!! 街中で、え? 周囲には人がいないけれど、あの、妖しい妖気が辺りに漂って、呼吸が何だか苦しくなってきて、俺も、エドガー、でさえ、身動き、が、できなくて、れん、さん、にこりと、笑って、


「どうだ、あの腕のアーティファクトのおかげか、この前の演習のおかげか、多分これは魔法ではないが、修羅の力も自然とコントロールできるようになってきたぞ」


 蓮さんの色がいつもの灰色に戻る。俺は、思わずその場に尻餅をついた。エドガーは俺の頭上で乾いた笑い声を上げつつ「はは……こいつ、昔から、ジョークが、下手なんだ……」



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