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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第三巻 我がまま御曹司の帰郷。 サファイアドラゴンと銀龍聖騎士の試練
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第二十三章 新たな旅立ち 逆さバベルの塔へ

あ、このクエストの本当の依頼者は、多分フォルセティさん、ってことなのかな。そこらへんは分からないけれど……。ぼさっと立っている僕の頭をエドガーが叩く「いて!」


「おい、出発するぞ、荷物があるなら取りに行け。ここからリンクテイルの街までは徒歩でも二時間程度だから、近いぞ」


「え? フォルセティさんが、朝出て行けって、わざわざ言ってくれたのに?」


 俺がそう言うと、エドガーは遠くを見ながら「俺が本当の一人前の銀竜騎士になったら、ちゃんと家に泊る。だから行くぞ、お前ら」と歩き出し、蓮さんは無言でそれについていくのだが、ジェーンは立ち止まっている。いかない、という意思表明みたいに。俺が彼女の顔をわざとらしく覗き込むと、


「またそういうことして! 行かないわよ。というか、ロアーヌ様にお会いして、談笑の途中急に、水魔法と神聖魔法も修行をつけてくれるっていうから、少し滞在させていただけることになったの。だから、今回もここでお別れ。頑張って怖いお兄さんたちについて行ってねー」


 うーん。予感していたとはいえ、やっぱり寂しいな。でも、ジェーンとは、また会えるよね。俺は「次会う時は、もう少し魔法を使えるようにしておくよ」

「そうよ、あんたも一応魔術師なんだからね。それじゃ、ばいばい」と微笑んで手を振ってくれる。俺も手を振って、急いで二人に追いつく。


急いで準備をすませて、俺と蓮さんが屋敷から荷物を取り出発する時に、門にはロアーヌさんがいた。エドガーも、いた。二人は無言で立ち尽くしている。そして急に、ロアーヌさんがエドガーを抱きしめた。


「もう、行くなんて、いつも、いつも、親不孝者。でも、おめでとう」ロアーヌさんは、涙声になって、両目から涙を流していた。胸が締め付けられる。生死も分からないし会えない息子の十年の重み、というのを始めて身に染みて、気づかされた。俺は、見てはいけないと、顔を反らした。俺も、何故だか涙を流してしまいそうだったから。そして、エドガーが小声で「悪い。一人前になったら、ちゃんと帰るから」


「いつでもいい、でも、好きな時に帰ってらっしゃい」と、ロアーヌさんは、速足で、屋敷の中ではなく、敷地内のどこかに移動しているようだった。


「行くぞ」とエドガーが言って、俺と蓮さんは黙ってついて行く。普通の家庭ではないのかもしれない。でも、エドガーのご両親は、それぞれのやり方で、エドガーを大切にしてきたんだなあと、胸にきた。


 無言でただ、三人、そこそこ舗装された道を歩いて行く、はっと、気が付いたことがある。でも俺は蓮さんに聞いた。


「これから行くリンクテイルってどんな街か知ってますか?」


「俺がガキの頃遊んでた、そこそこ大きな街だ。ギルドもあるし、そこで一泊だな」とエドガーが答えてくれた。


「へえ、だったらエドガーその街ではかなりの有名人だね」


「はあ? んなわけねーだろ、一体何年行ってないと思ってんだ。色々してたのもガキの頃だしよ、ってこんな話いいんだ。次のクエストはどうしようかなー。おい、宝石の換金所もあるから、俺が換金してやる。それとも取っておきたいか?」


「僕は換金して欲しいな」と蓮さん。俺は、というと、父さんからもらったのは絶対売らないし除外するとして、クエストの報酬として(今回本当に何もしてないけど!!)初めての報酬! しかも宝石、ルビー! というわけで、売るのは名残惜しいのだけれど、俺みたいな初心者はどんどんお金に換えて、装備やら役立つアイテムを揃える方が絶対にいいだろう。


 それに、まとまったお金が手に入るなら、全額は無理だけれども、ガラクタウンのレキトに渡したいなあ(あまり大金を渡しても、あそこだと盗難の恐れもあるし)。彼なら上手く使ってくれるはず。一、二か月位しかたってないけど、俺も少しは、成長できたし、翼も生えたし! でも、ガラクタウンに寄る、ってエドガーにお願いできるかな。あの辺あまり何も無いからなあ……


 そんなことを考えながら歩いて行くと、辺りが暗くなった頃、その街に到着できた。エドガーのなじみの街ということで、とりあえず、大きな宿にチェックインする、と。受付のおじさん、が、目を見開いて、


「エ、エドガー……、エドガー坊ちゃんですよね!! 何年ぶりだ? どうしたんですか? 何でうちに泊るんですか? それにしても大きくなって! 色んな噂はここまで届いてますよ!!! 竜を倒したとか、盗賊団を壊滅させたとか、他の冒険者のチームを一人でのしたとか、巨大クジラの体内で生活して別の大陸に渡ったとか!! 勘当されたとはいえ、この街には寄って下さいよ!! 皆歓迎しますよ」


興奮して喋り倒す男性に、エドガーは思いっきり不機嫌な顔で、


「それ以上話すな。他の奴にも話すな。早朝出るから、早く案内しろ」


 男はその迫力に負けて黙って頷くと、僕らを個室に案内してくれる。エドガーは大部屋でもあまり気にしない性格みたいだけど、今日は個室がいいだろうし、ここの主人も大部屋に案内はできないだろう。俺も個室に泊る。簡素だが清潔なベッド。俺は横になりながら、エドガーの事を思う。自分と、少し重ねてしまう。でも、エドガーには立派な、会える、御両親がいるんだよな。そういえば、俺以外のエドガー、蓮さん、ジェーン、みんな肉親が(多分)存命で、会えて、由緒正しき生まれなんだよなあ。


 胸の中に生まれる、小さな嫉妬。寂しさ。これは、どうしようもなかった。俺が情けなくて狡いのは分かっている。彼らのおかげで、俺がいっぱしの冒険者? にならせてもらったんだ。彼らがいなきゃ、あの飛陽族の遺跡なんて、絶対にクリアできていないだろう。


 でも、あんなに温かな家庭を見ると、やっぱり俺も寂しくなるよ。会いたいな。もういないかもしれない父さん、母さん。会えるように、強くならなきゃな。俺はあぐらをかいて、魔法のイメージを高めるため、瞑想を始める。


 翌朝は本当に早朝にエドガーにたたき起こされ、一番早い馬車でシェブーストへと向かう。レヴィンの力で一瞬でテレポートしていたから分からなかったけど、エドガーの屋敷はシェブーストに割と近いらしい。半日馬車に乗れば着くとのこと。


「シェブーストに行ってギルドで仕事をチェックするんですか?」俺は蓮さんに聞いたのだが、エドガーが「そんなの当たり前だろ! 俺の新しい力を見せつけてやるぜ!」といつもの俺様ノリに戻っていてくれて、ちょっとほっとした。そうだよな。エドガーが弱みを見せたりとかしないもんな。似合わないもんな。


 ああ、なんかもう懐かしの、って気さえしてしまうシェブースト。着いたのは昼過ぎで、日差しが気持ちいい。先ずは、ということでギルドに向かうと、窓口でまた、係員の人からエドガーと、今度は蓮さんの二人に声がかけられている。なんのこっちゃ、と部外者の俺も顔をつっこむ。


「ですから、お願いします。高レベルの冒険者の方にはなるべく声をかけさせてもらっておりますし、こちらでも報酬をはずみます。何より、この事態を放置すると、メサイア大陸にとっても大きな問題になることが予想されます。エドガーさん、蓮さん、お願いします」


 その熱心ぶりに対して、クールにあっさりと二人は了解した。え? 何の依頼? 俺が蓮さんに尋ねると、


「逆さバベルの塔って分かるか? あの誰一人最深部に行ったことがないと言われる迷宮だ。何故だか、最近になって、あそこから様々なモンスターが地上に出てきているらしい。僕らはその鎮圧、場合によっては、問題の根本の解決を頼まれた」


 エドガーはその会話をしながら、クラスチェンジをしたので、データの書き換えをしている。俺はその間にかの有名な塔について思いをめぐらせていた。


 逆さバベルの塔。一部ゾーンでは魔力がきかなかったり、電流や重力やワープゾーンがめちゃくちゃに作用していたりするらしい、恐ろしい迷宮。しかも迷宮には死んだ冒険者が悪霊となりさまよっているという。また、その最深部には、死者の指輪があるという。熟練した魔術師がその指輪を使えばリッチになれる、らしい。


 リッチ。死を司る、良心と魂の全てを捧げてなれる、人間でもありながら、アンデッドでもある者、魔法使いの頂点の一つ。念じるだけで、全ての者の生命を刈りとる魔力。リッチは死ぬことはない。どれだけ傷ついてもやがて蘇る。また、リッチに会ったものは、それだけで魂を吸われるらしい。恐ろしすぎる。


でも、魔法使いの最強の職業、ということと不死の魅力から、夢見る者も少なからずいる、らしい。俺も、なれるわけでもなりたいわけでもないが、何だか気になってしまう。


「どうした、アポロ、考え事か?」


「あ、はい、噂ですけど、逆さバベルの塔には死者の指輪があって、それでリッチになれるとか思い出して。でも、誰もそれを見たことないし、噂です、よね」


 すると、蓮さんは少し間を置いてから喋り出す。


「……リッチがいるというのは、噂ではない。僕が若い頃、奴と戦った。殺した、はずだったが、僕の刀は裏・村正。強力な聖なる力でないと、奴を滅することはできない。だが、俺が会ったリッチは、聡明で自分の知識欲の満足以外には、他人の生き死になんて気にしないようだった。彼によると他のリッチもそういうのが多いらしい。『砂粒のような人間の命が消えようと生きようと興味がない』そうだ。だからまあ彼らは普通の場所なら、人前に姿を現さないだろうし、普通は無害なのかもしれないな」


 さ、すが阿修羅さん、リッチも切っていたんですね……でも、当たり前だが、リッチって世界に何人もいるのか! 会っただけで死ぬとか怖すぎる! でも、ほんと蓮さんはよく平気だなあ。裏・村正っていうのはそんなにすごいんだなあ、というか、


「おいおい、今回のクエストは、正義の味方の俺達にぴったりの仕事だよなあ!! 久々にめいいっぱい大剣を振り回せそうだぜ!! なあ! アポロ!」となぜか上機嫌で蓮さんの肩まで組むエドガー。


「あれれ? 正 義 の み か た ?」と俺が言うと、エドガーが俺の頬を思いっきりつねる。いたあああああああああいいいい!!! 手加減してても自分がクソ強いってこと忘れないでくれ! う、蓮さんは冷たい微笑を浮かべこっちを見つめている……こ、怖い。ていうか、ブチギレやすい暴力龍人と血に魅入られた修羅に「正義の味方?」って素朴な質問をした俺がそんなに悪いのか! ああ、エドガーが離してくれた頬、熱を持ってじんじんしてるよ……


「それにしても楽しみだな。色んな敵と戦えそうだし」とエドガー。


「そうだな。それに余裕があるなら、逆さバベルの塔の、浅い部分だけ探索するのもいいかもな」と蓮さん。


 何だか、楽しさと不安が入り混じった不思議な気分だ。でも、今回俺は何もしなかった、できなかったし、次のクエストは何か成果を上げたいな、よーし! 頑張るぞ。


 いつものように、エドガーと蓮さんが次のクエストについて、準備に着いていろいろ話し合っている。知らない固有名詞が沢山出てきて、口を挟む余地はないけれど、でも、この空気はやっぱりいいなあというか、そろそろ俺も、パーティの一員って言っても、いいよね?


 そんな俺の頭を軽くエドガーが小突く。


「おい、なにぼさっとしてんだ。宝石鑑定、換金して、そっから宿の予約も取るぞ、冒険雑貨屋、まだあいてるよな、あとマジックアイテム屋は、ジェーンもいないんだし、お前がどれがどういう物か覚えて、力を引き出せるようにしろよ、おい、行くぞ」


「はい!」と俺は元気よく返事をした。わくわくも大変さも何もかも止まらない、素晴らしい俺の生活!



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