第十九章 鉱山の中でサファイアドラゴンと
「エドガー! 何してるの!」と俺が思わず口にした。岩に腰掛け、不満げな表情のエドガーは立ち上がり、
「おめーらおせーんだよ! 魔法が使えない戦士の俺が、あてずっぽうで岩を砕いても落盤の危険すらあるわ! あーでも、思ったより早くて、それは助かった。有難うな」
あ、そうだ。多分、朝出て、昼過ぎ位だ! 普通に馬車に乗ったら徒歩も含めて4日とか、かかるんだよね? 流石のサファイア・ドラゴンだ! かなり体力も気力も消耗したけど!
と、ここでレヴィンとジェーンがこれからのプランを話すのだが、俺は急にお腹が空いて来て、昼食を取ろうと提案すると、みんなその意見を受け入れてくれた。今日のお昼はライスボール! お米を炊いたものを丸く玉状にして、中におかずを入れるのだ。手軽に食べられて美味しいなあ。でも、問題はこのお米とそれを炊く、調理する道具が簡単に手に入らないことだなあ。
僕らの主食のパンはパサパサしていて、飲み物が欲しいけど、この「ごはん」、ライスボールはもっちりとした感じで、水分が多いのかな。冒険に適しているのに、作れないのは残念だなあ
「蓮さんはジパングにいた時、毎日この、ライス、お米を食べていたんですか?」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
「おいしいですね。これ。でも、調理方法が独特らしくって、メサイア大陸にもあまり普及してないから、お昼ご飯にするのも難しいですしね」
と、蓮さんの代わりにエドガーが大声で「おめー! また食べ物の話して!! こっちは死ぬ思いしてこの鉱山の中を探し回ってたんだぞ! ほら、さっさと準備して中行くぞ! こんなクエスト……もどき、さっさと終わらせてやる!!」
そう言うエドガーだが、蓮さんが僕に耳打ちする「このライスボールの具材、エドガーが好きなのばかりだな。握り方も柔らかいし、きっとロアーヌ殿が直々に握ったものだ」
そう、か。女中がいて自分で料理をするなんて、やっぱりエドガーのお母さんなんだなあ。のほほんとしてあまり顔に出してないけど、嬉しいんだろうな。
「そうね、まあ行きましょうか」とジェーンも素早く支度を済ませるので、僕もあわてて荷物をしまって、二人の後を追う。入口には龍の紋章、エドガーが手を触れると青銀色に一瞬光り、結界が解けたようだった。
先頭に立つのは、危険が無いからか、ジェーンとエドガー。真ん中が蓮さんで、俺とレヴィンが一番後。ジェーンはライトで前方を灯しつつ、カンディを使っているようなのだが、さすがに入り口付近には反応は無さそうだ。鉱山、なのだが、多分普通のとは違って、微弱な魔力反応というか、清々しいような、不思議な気分がする。
「なあ、レヴィン、レヴィンは宝石が好きなんだよね、こういう所にきたりするの?」
するとレヴィンはそれを鼻で笑って「王子様は子分にお宝を集めさせるのが常識だろ?」
そ、そうでした。いや、ほんと、たまにレヴィンがサファイア・ドラゴンだって忘れそうになるなあ。良くも悪くも。
「なあなあ、レヴィンって普段は何をしてるの?」
「あ? そうだな。寝てるのが多いかな。俺に限らずドラゴンってのは戦闘能力がずば抜けて高い分、睡眠時間も半端ないんだぜ。ドラゴンにもよるけど、一、二ヶ月寝て、数日起きて、みたいな生活も珍しくねーし。ただ、侵入者が来たらすぐに気づくけどな」
「え、じゃあ、今レヴィンは眠いの?」
「は? なめんなって。寝だめができるし、第一本気で戦ってないだろ。それに人間のフォルムになると、能力は制限されるけど、その分体力とかは使わないからな。気楽なもんだ」
「へーそうなんだ、ところでさ、守護龍? の仕事って何をするの?」
「別に。何もない。だって勝手に奴らが俺のことを祭ってるだけじゃん。でも、祭事とか、まつりごとの時は、まあ、顔出したりするかな。あと、何かが守護にいると、力が出るだろ。蓮の鳳凰とか、修羅とか」
「なるほど、でもそしたら、エドガーは銀の狼で……」
「てめーらぺちゃくちゃいつまでもしゃべってんな!! ジェーンが集中できねーだろうが!!」とエドガーに怒られる。たしかに、正論だ。でも、サファイア・ドラゴンと話せる機会なんてそうそうないだろうし、色々聞いて見たいなあと思うのだった。




