第十六章 彼女のこと
「上辺はそうではないけれど、フォルセティ様とエドガーよりも冷え切った関係の家族。さっさと私を結婚させたくて12歳から5,60の金持ちジジイとお見合いをさせられたわ。そんなのだからか、私が冒険者になることを告げても、そんなに驚かれなかった。今も、しょうがなく帰宅する時も、大して気にされない。だから、正直ね、ちょっとエドガーが羨ましいかもね。フォルセティ様は正直怖いけど、本当に強くて、戦闘以外ではマナーを守る紳士だし、ロアーヌ様は、あの、なんかね、恐れ多いけど、お母さんみたいな、感じしてさ。ほんとに! こんな恵まれた環境を投げ出したエドガーのバカっぷり。ほんとバカね。本当に、馬鹿なんだから、あいつ……」
ジェーンは俺と言うよりも、自分に向けて話しているようだった。みんな大変なんだなあ。と。急にしっとりとしていた顔色を一変して、
「ところでアポロ、魔法はちゃんと瞑想や訓練をして、少しは上達したのかしら? 蓮さんに少し聞いたけど、大冒険したらしいじゃない。あんた、低レベルのくせに、ほんと、あいつらといて大変ね。軽いのでいいから、見せてみてよ」
ま、まずい。だって俺、飛陽族の力、魔力とか、アーティファクトの力を引き出していて、普通の魔法をろくに使っていないかも……とりあえず、ギルドリングの能力をジェーンに見せてみる。
で、当然の様に、微妙には上達しているのだけれど、一応レベル14の魔法使いとしては、話しにならないレベルで、ジェーンの顔が、本当に固まっている。まずい、と俺は飛び上がり、空で鷹の高速パンチに、太陽の炎のカーテンを披露して、地上に下りる。のだけれど、まだ、ジェーンは難しい顔をしている。
「うーん、やっぱり、アポロは普通の魔法の力を伸ばすより、その飛陽族の力を伸ばした方がいいのかな。でもさ、やっぱりアポロの耐久力や筋力の値は低いじゃない。そうやって、前線に出る攻撃が多いと、一発の攻撃力は高いけど、ガス欠しやすいし、守備に不安が残るわね。オートバリア系の魔法が得意なのは、聖属性や土属性の魔法で、炎属性の魔法が得意なアポロなら相性がいいから、覚えやすいかもしれないけど、オートバリアって、正直それなりに高度な魔法なのよね。この分だと覚えられるかな。そうね、まあ、死んだら、お葬式行くから、頑張って」
「な、何そのまとめ! 真剣に聞いていたのに!! うーオートバリアって、すごく便利そうだなあ」
「そうそう、話しが少し飛んじゃうけど、そのオートバリアの力、硝子の盾を幾つも生み出す、魔力を秘めたレイピアを振るう、私みたいに美しい殺戮の天使だか堕天使だかがいるんだって。それがさ、メサイア大陸の東のリューン大陸で、影の様に現れたり消えたりして冒険者に恐れられているらしくてさ」
「わたしみたいに、うつくしい?」
「ぶほっ!」と俺の顔に強烈な水が叩きつけられた。げっほ、げほ、そんな、怒ることないじゃないか!
「イエスタデイ イエス ア デイ ライク エブリデイ アロアナゲン フォ エーニ」
と、突然ジェーンが小さな声で歌い出した。それは、今日エドガーが教えてくれた曲だった。それをジェーンに言うと、
「私もね、この曲好きなの。でも、ここまでしか覚えてないし、曲の意味も知らないけどね」
そうはにかむジェーンに、俺はちょっと真面目に言った。明日、一緒にエドガーを協力しに行ってくれませんかって。ジェーンは少し間を置き、
「単純に面倒くさいってこと以上に、これって、もしかしたらレヴィンの試練ってことじゃないの? 私達がでしゃばっていいの? フォルセティ様に確認をしたの?」
そう言われると、俺は言葉につまる。そう、だよな。意味があって、エドガーは一人で出て行ったんだよな……
「あはは! またマジ落ち込んじゃって。ロアーヌ様とレヴィンに聞いたら、ただのレヴィンのわがままらしいから、いいわよ。でも、鉱山にひ弱な私が行くなんて、嫌だわ。なにより、私は高いわよ。どうする?」
な! こう来るとは思わなかった……でも冒険者だし、お金というか報酬があって動くのは当然のことだ。でも、俺にはジェーンを満足させるような、金目の物なんてないし、
「なあ、ジェーン、俺達パーティだろ。パーティの仲間が困っているんだから、一緒に来てくれよ」
「そうだよ、面白そうだしお前も来い」