第十五章 夜の語らい
も、もういいです。天然ボケなのか、からかわれているのか……で、何が何だか良く分からないまま、夕食を御馳走になったのだが、
「蓮もせっかくいるんだし、ジパングの料理、スキヤキにしましょう」とのことで、鍋料理なのだが、野菜や肉を甘くいい香りのスープで煮込んで、それを生の卵をつけて食べる、という不思議な物で、俺もそれに従って食べてみると、お、おいしいい!!! なにこれ!
正直生の卵とか、危険で気持ち悪いし普段絶対食べないし、食べたくなかっただけど、ここの物が特別なのか、まろやかな甘みがあるし、ぼそっと、蓮さんに言うと、ジパングには生の卵をライス(イネ科の、調理で甘みのある米粒になる)にかけたものすらあるという……知らなかった……
そう! しかもお肉が、なんともいえない甘さがあっておいしい! 何でもワリシタ? とか言うので煮るのと、その中でもダシとショウユというのがキーポイントらしい。うう、結構料理知識には自信があったのに、全然知らないし、聞いてもいまいち分からないとは、まだまだ先は遠いなあ。 先ってなんだ。冒険者の俺。
そんなこんなで楽しい夕食は進んで行く。というか、あんなことをした後なのに、フォルセティさんと蓮さんは時折、気軽に談笑している。あんだけあって、仲良しなんですかねえ……。というより、フォルセティさんは強い人間にしか興味がない気がする。ジェーン(は十分強いけど)と僕なんて会ってから、一度も視界に入ってないかもしれない。
それと対照的に、マイペースに見えて、僕にも気軽に声や気遣いをかけてくれるのがロアーヌさん。いい夫妻、なのか? とにかく、何だか気疲れしてしまった。特に今日のあの「演習」で! せっかく助けた蓮さんがどうにかなったら、というか、後半はあの修羅っぷりと銀龍聖騎士の恐ろしさに寒気がしたし、その場にいた俺も巻き込まれてどうにかなるかと思った。なのに、二人はけろっとしてるんだよなあ……ふう。
そして、レヴィンがいないのに、レヴィンが食べたがっていたお菓子、ガレット・デ・ロワ、を頂いた。わざわざドラゴンが要求するのだからと、想像していた物よりもずっと地味だったけれど、美味しそうなきつね色のパイで、アーモンドのクリームが濃厚で美味しい。
すっかり夕食を堪能させていただいて、客間はいくつでもあるということで、とりあえず一泊させてもらう。とてもふかふかのベッドに一人部屋。でも、いつものみんなで泊る大部屋の方がいいな(すごく疲れている時は別だけど)。何だか部屋の広さを持て余して、今更エドガーの心配をし始めて、眠れそうにない。ちょっと、夜風に当たってみるかな。
とはいえ道は分からないのだから、適当に階段を下り、外に出て、この広い館の周りを歩いているのだが……まずい! 出たのはいいが、自室に戻れないぞ! まずいなあ、でもまあ、しょうがない。確か、分かる、はず……
「あれ? アポロどうしたの?」
そう言ったのは、庭園の中ムラサキの花々が咲き誇るアーチの近くにいる、ジェーンだった。
「何って、なんか、眠れなくて」と正直に言うと、ジェーンは悪戯っぽく笑って、
「ふーん、なんだかんだで、お高い場所が合わないんでしょ」
「うっ! そうでもないけど、なんか、エドガーの事とか今後の事とか考えると、眠れなくなって。それに、今日、エドガーに歌を教えてもらって。ジェーンも知っているだろうけど、エドガーの歌、すごく哀愁っていうの? 味がある甘い感じで、でもさ、フォルセティさんとは本当に絶縁した態度でちょっとショックで……ああ、ごめん。なんか話しぐちゃぐちゃだ」
俺が謝ると、ジェーンは少し真面目そうな顔になり、
「フォルセティ様は、恐ろしく堅物だけど、愛情の無い方ではないと思う。ただ、意地っ張りとか、ルールを絶対に守るだけで。それは、エドガーだって似てるし。これは二人の問題だから、私達には何もできない。」
「う、うん。分かってるつもり。でも、どうにかなったらとか、妄想しちゃった。あ、あのさ、ジェーンだってお嬢様なんだろ。ジェーンの家族の事教えてよ!」
勢いで俺がそう言うと、ジェーンは無表情で言う。




