第十四章 彼にとっての日常
そう大声がすると、地面に巨大な青い魔法陣が生まれた。そこにいたのは、ロアーヌさんと、ジェーン。すごい魔力だ。回復もそうだけど、身体の邪気が払われるというか、とても良い気分になる。まるで陽光の中にいるようだ。ロアーヌさんは続けて、
「貴方達は頑丈だからいいけど、このままだと屋敷も壊れるわ! はい、もう、終わり」
そう言うと、ロアーヌさんはさっさと戻って行く。ジェーンはなんとも困った顔で、周囲の惨状を見て、俺を見ると、ロアーヌさんの後を追った。
十分に広さがある、運動の試合ができそうな地面は穴だらけ。周囲の木々は消し炭になったり、凍り付いていたり、ひどい有様だ!
修羅の効果? が切れたのか、落ちるように蓮さんは地面に下り、あ! あの彫り物も消えている! 魔力反応もない。フォルセティも地面に下りると、龍化を解く。そして、彼はさらりと、
「まあ、私が見込んで家に招いただけある。腕を上げたな」
「いえ、すぐ熱くなるのが僕の悪い癖で、暴言の数々、失礼致しました」
「お前のそれはもう知っている。楽しい試合に免じてそれは許そう。そこの服を着て戻れよ」
と、颯爽と歩き出して行く。蓮さんはぼろきれになってしまった着物をこしみののように巻くと、俺に向かって「おお。アポロ。じゃあ、僕らも行こうか」
わっ、わっかんねええええええ!!! なんだよ!! あんだけのことしといて、何もなかったみたいに振る舞うとか、分からん!! 分からんと言えば!
「あのー一瞬、蓮さんから強い魔力反応を感じたのですが、期間限定で魔法が使えるのですか?」そう、多少ビビりながらも、好奇心には勝てずに聞いて見ると、蓮さんはいつもの落ち着いた調子で、
「エドガーの獣化はバーサク状態になり、目の前の何もかもを破壊しようとする。対して、僕が修羅、裏・村正の力を開放すると、阿修羅の加護を得ることができる。だから、魔法も一部だが補助的に使える。後は、この前のアーティファクトの力で、それが増大したようだな。そして僕は阿修羅に、裏・村正に、極上の血を、生贄を捧げなければならなくなるのだ。はは、今頃彼らは怒ってるかな。貢物がないって。だから、あまり使いたくはないというか、まあ、エドガーの暴走とそこまで変わらないか。ははは」
笑い事ではない、のだが、僕も乾いた笑い声がもれた。パーティの二大激強戦士が、本気を出したら暴走。笑えねー!!! ジェーンが前、この二人とパーティを二回以上組める人がほぼいない、と言った言葉が頭をよぎる。そりゃそうだ……たとえ暴走しなくてもね!
すっ、と音もなく蓮さんが何故か俺の真横に近づき囁く「アポロ、お前僕の事、誤解してるだろ?」
「ししししてないです!!!! 怖くないです怖くない! 全く怖くない、いえ、嘘です。いえ、それも嘘です!! いえ、なんでもないです!!」と反射的に言ったが、うろたえっぷりでバレバレだ! それを見た蓮さんは微笑み、
「僕の服の替えは、用意してもらおう。それとレヴィンがいないな、帰ったのか? ああ、エドガーのことだが、数日様子を見て、戻らないようなら、僕らで勝手に鉱山に向かおう。ジェーンはどうかな、手伝ってくれるかな、どう思う?」
「へ?」あ、頭が真っ白になっていた。内容が頭に入ってこない。
「ぼさっとしているなんてアポロらしくない」と不思議そうな顔で蓮さんが俺を見る。
「ぼ、ぼさっとしますよ!! あんな恐ろしい光景、初めて見ましたよ!!」
「遺跡の機械もすごかっただろ。変なアポロ」




