第十一章 団欒からの死闘
そんな団欒の中に、あの人が顔を出した。でも、用があるのは蓮さんだけだったようだ。
蓮さんも立ち上がり、一礼をする。
「レヴィン様の相手もしたようだな。腕を大層褒めていた。珍しいことだ。この後私ともいいか? 最近は歯ごたえのある相手がいなくて退屈だ」
「はい、フォルセティ殿。務まるかは分かりませんが、お手合わせ願います」
「ははは、修羅道を行く者が何を言うか、この正義の人殺し。分かっていると思うが、私なら殺すつもりで、裏・村正で挑んで来い」
この人は! この挑発に蓮さんの顔色が明らかに変わっている! しかしフォルセティさんは満足げに、
「いい眼になってきたな。久しぶりに見る、修羅の瞳だ。お前の瞳が清らかになる前に、行くぞ、ついて来い」
と言う言葉に、蓮さんは従う。いいのか、これ? まさか、のことはないよな? それにしても、さっきロアーヌさんがエドガーと案外似ていると言っていたが、悪い意味で似ているのかもしれない。でも! 俺が顔でジェーンに訴えると、ジェーンも少し困り顔で、
「フォルセティ様は、冒険者ではないからレベルなんてない。でも、あの方は銀龍聖騎士なの。好きな時に竜人に変身できるらしくって、しかも、聖騎士で、好きな時に光の槍を生み出す能力を持っている。その上神聖魔法も使える。一度だけ、アビスドラゴンっていう超強いドラゴンの討伐に同行させてもらったことがあったけれど、人間とは思えない強さだった。はっきり言って、あの御歳でも、エドガーより強いと思う。獣人や龍人とか亜人族は力が衰えるのが穏やかだし」
「ええ!! すごいとは思ってたけど、そんなに? エドガー以上!! しかも銀龍聖騎士って何それ! 明らかに強そうだし! それに聖騎士がああいう振る舞いをしてもいいの?」
「だから、ミハエル家は代々龍に祝福された一家で、フォルセティ様は若くして聖騎士の任命を受け、ミハエル家の試練を突破し、銀龍の能力を開花させたそうよ。それに聖騎士だって、色々いるのよ、偉い人も堅物もナンパな男も、ほんと、アレイジャで飲んだ男なんて……あっ! えーと、心配ね。二人とも」
フォルセティさんが怖いのか、とっちらかった話に最後の取って付けたような言葉はともかく、俺はちらりとロアーヌさんを見ているが、優雅に紅茶を飲んでいるので、俺が尋ねてみる。すると、変わらぬ穏やかさで、
「フォルセティもとても強いですが、蓮は人切りの侍ですから。お互い相手にとって不足はないはずですよ。それに万一のことがあっても、数分以内の殺傷等でしたら、死亡してもほぼ確実に蘇生できる自信がありますから。坊ちゃん、安心していていいのよ」
あ、相変わらずエドガーと愉快な仲間達はぶっとんでると思っていたけど、エドガーのご両親も、あの、凄すぎないか? 二人とも冒険者レベルとかあったら幾つなんだ? これだけ凄くて家柄もすごいと、なんか色々とエドガーもあったのかなあ。でも、この人、さらっと言ったけども、
「あのお、死んだ人を蘇生って、リザレクションって物凄く上位の魔法ですよね。しかも数分ならほぼ確実って、凄すぎないですか?」
「あら、私の国では反魂法と言うのだけれど、でも、そこまで凄い物でもないわ。蘇生はヒール、回復の上位ってだけで、頭部を爆破されたり、腕を切り落とされ紛失されたりすると、確率は比例して困難になる。純粋な再生の術ではないですからね。それに時間がたつほど確率も下がる。今回はそこまでお互いしないでしょう。みんな大好き不老不死、老化を止める効果もないし、そうだ、ジェーン、最近ね、エルズペス・ラデュレのクリームがすごく肌にいいの。帰りに持っていって。夜しみこませると、翌朝違うわよ、もう、しっとりぷるぷる!」
う、死者蘇生の頭部爆破とかの話から、オシャレ肌保湿の話に飛んだぞ……ついて行けない……あと、失った部分の超再生、っていうのはリザレクションでも多分無理なのか。アイシャ、改めてありがとう、君がいたから、蓮さんは助かった、って! ダメかもしれないが、あの二人の試合を見てみたい。俺はダメもとでロアーヌさんに頼んでみると、あっさり、
「いいわよ。演習場かしら? マイト、連れて行ってあげなさい」
「かしこまりました、」
と執事の人に連れていかれたのは、演習場と言ってもなぜか屋外にあるようで、実際にその場所に行くと、その理由が分かった。
何を、してるんだ、この二人は!! 石の地面は所々えぐれて、蓮さんは鳳凰を呼び出しつつ特攻して剣技を振るうし、相手のフォルセティさんも決して負けていない。大量の光の槍を生み出すと、まるでそれを矢の雨の様に降らせ、その神聖魔法の波動砲? みたいなのまで撃つ。な、何なんだ……




