第十章 放蕩息子の母
そのまま、ただ、蓮さんの後をついて行くと、エドガーのお母さんとジェーンが楽しそうに談笑している。だけど、僕の表情を見て察したのか、ジェーンが、
「あのさあ、ついこの前ひよっこだったアポロが、大陸一かもしれない冒険者の心配してどうすんの? 心配でも静かに待ってればいいのよ。元気で帰って来るんだから」
そう、いう、ことじゃないんだ。俺だったら魔力感知ができるし、パーティだったら、理不尽な依頼を受けたら、助け合うものだと思う。だって、一人でやらねばならない決まりなんてないし。
でも、ジェーンの意見の方が絶対に正論だ、というか、説得力がある。新参者で冒険者に成りたてで、しかもエドガーと過ごした期間も違う。僕は気落ちしながらも、椅子に座って、メイドさんが用意してくれた紅茶に口をつける。美味しいのに、味気ない。
あ、エドガーにも渡すはずだった、自慢のサンドウィッチ、渡せなかった。あれだけでも渡せていたらな。でも、散々美味しい物を食べてきたエドガーだし、俺が渡さなくても別に、いいか。
いけないいけない! 何を急に不安になって落ち込んでるんだ。俺が不安になって事態が良くなるわけでもないしな、僕はジェーンに、ここからそのベルメール鉱山はどの位の距離でどんな場所か聞いてみた。
「うーん、大体馬車に乗りっぱなしで、片道4日位かしらね。まあねえ、あんたの心配な顔も分からないでもないわ。だって、あの鉱山、多分、もう採掘できる人なんていないはず。あのドラゴンも、フォルセティ様も、ねえ」と最後は、口を濁す。
しかし、エドガーのお母さんは微笑みを絶やさず、
「あら、あの子なら心配いらないわ。何があっても元気そうじゃない」とお父さんとは逆にのん気な……、と、なぜか俺を見て。
「あら、そういえばこの子は、私と同じかしら? 何かキラキラして温かいものを感じるわ」
「へ? あ、いや、俺は飛陽族で、ロアーヌさんとは違う、と思いますが……」
「ロアーヌ殿は天女だ。ジパングの国における天使のようなものだ。だから太陽を信仰している飛陽族とは、近しい物があるのかもな」と蓮さんが言う。
そうか……天使だって、いや、天女だって信仰する神? とかがいるだろうし、ロアーヌさんの場合は、身体から光が見えるというか帯びている感じだから、俺とは近いものを感じたのかもしれない。
「そうでしたか。でもびっくりしました。天使……いや、天女も結婚できるんですね。しかも、あの、恋愛とかとか無縁そうな方と」
すると、ジェーンが少し低い声で「アポロ! あんたデリカシー無さすぎ失礼過ぎ! マナーってものがあるでしょうが!」
え? 失礼なこと言ったか? と思って反応できずにいると、ロアーヌさんは微笑して、
「天使に比べると、宗派、信仰する神にもよるでしょうけれど、天女の方が、ずっとお気楽な人生なの。厳しい戒律なんてないし、結婚も恋愛も自由。神託を届けたり、守護や祝福を与えるのが一応の仕事かしらね」
そう言った後、ロアーヌさんは一人で口元に手を当てて笑い、
「あの人ね、あれで案外ロマンチストなの。エドガーに似ていないようで、そっくり。ふふふ。やっぱり家族なのね」
なんだ、マイペースな人だなあ……息子、絶縁されてる状態なんだよな……でも、こういう人と会ったのは初めてだからか、優しい雰囲気だからか、話していてすごく落ち着く。不思議な感じだ。




