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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第一巻 廃墟に降り立つ太陽王アポロ
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第四章 修羅と呼ばれる男

 彼女はにっこりと笑って「これからたくさん働いてもらうから、よろしくね」


 その笑顔はぞっとする位魅力的で、この人は、悪い人ではないかもしれないけれど、多分、いい人ではないし、怖い。そして、頼もしい。


 外に出て、エドガーは何やら一人だけ飲み物を飲んでいて、「私にもちょうだいよ」とジェーンがじゃれついているのを見ていると、ふと、


「なあ、二人っておつきあいしてるの?」


 エドガーは飲み物を吹き出し、振り返り瞬時に大剣を抜く、ジェーンは手のひらにエネルギーのような物をタメながら、それを俺に向けている。そこには、二人の鬼がいた。


 何だかわからないが、言ってはいけないことを言ったのだとようやく気付いた俺は、

「いや、あの、二人みたいにレベルが高すぎる人なんていないじゃんか! しかも昔パーティを組んでいたらしいしさ。いや、俺ホント子供で、二人とも仲良しだなーと思って」


 と必死で言い訳をすると、エドガーが剣を背中のさやに戻した。ジェーンもその光を自分で打ち消した。気まずい間が流れる。が、ちょっと大げさな、エドガーの声がして、


「エロガキがアホなこと言いやがって。バーカ。それよりジュース吹き出しちまっただろ。お前買って来い。グレープジュースな」「あ、私はパイン」とジェーンが口にする。


 俺は小走りで屋台に行って、二人分のジュースを買って渡した。一瞬二人がいなくなるような気がしたが、もちろんそんなことはなかった。過去に二人に何かあったらしいことは分かるが、これ以上言ったら俺の首が飛ぶ。


俺もグレープフルーツジュースを飲み、三人並んで、広場でぼんやり、いや、大人二人が今後の計画を話し合っている。分からない地名やら何かの名前やらが出てきて、話に参加しようにも出来ず、それでも何かを聞こうとしていると、とにかく今日は休んで、各自旅の準備をしてから宿を取り、明日の朝にギルド前に集合して出発ということだった。


俺は宿に戻り、下着姿になると、今日買ってもらった防具を並べて見て、にやにやが止まらない。だってもう、これ中堅冒険者以上の装備じゃないか? 何より、かっこいい。かっこよすぎる。この指のリングも、後でジェーンが教えてくれたのだが、暴発を防ぎ集中力を高める能力が高いそうで、後は魅了の魔法を使う時のボーナスがあるそうだ。


 聞いた話だと、俺みたいな初心者に限らず、強力な魔法を使う時にも、敵味方を巻き込む暴発の危険というのはあるそうだ。


 それと雑な瞑想の仕方を教えてもらった「瞑想なんて人によってやり方が違うから、適当でいいの」とジェーンは言ったが、とにかく、心を落ち着かせて、自分が使おうとする魔法のイメージトレーニングをしろ、ということらしい。


 俺もベッドの上であぐらをかいて、集中してみる、のだけれど、明日のことが楽しみ過ぎて、とても集中なんてできそうにない。俺はにやついたまま大きなため息をついて、ベッドに身体を任せた。準備は多分ばんたん、後は明日を待つだけだ!


 朝早く目が覚め、準備をしてからギルド前に行くと、意外なことに多分時間前なのに二人の姿があった。エドガーは「じゃあ行くぞ」と口にして、俺はついて行く。その先は乗合馬車なのだが、俺ら三人が乗った瞬間走り出した。


「え? どういうこと? 他のお客さんは?」


 それにジェーンが「距離短いから。すぐつく。後は歩きね」


 ちょっと分からなかったが、俺があまり質問をするのは、早朝のこのコンビには良くないと思い、黙って揺られていると、2.30分程度で馬車から降りて、三人で草むらの中を歩いて行く。


「エドガー、俺魔法のコンパス持ってるよ。目的地教えて」


「ああ、いいんだよ。ったく。あの野郎、こんな所に家作りやがって、変人が。クソ! こっからはすぐだから、ちゃっちゃと済ませるぞ」


 そう言いながら、背の高い草をかきわけ、エドガーは進んで行く。でも、エドガーが会いたい人って誰だろう。わざわざ馬車から降りてこんな所に来ているんだから、今回の冒険に必要な人物なのだろう。


 ほどなくして着いたのは、ガラクタウンを思い出すボロイあばら屋が二つ。いや、たしかにこんな所に家を作るのは大変だろうが、もうちょっとならないのかというか、何でこんな所に住んでるんだ、この人?


 エドガーはさっさと名乗りもせず建物に向かって行く。俺はジェーンにこっそりここの人はどんな人か尋ねてみた、すると少し悩んで「あー正直さ、性格以外は結構タイプなの、マジで。でも性格がなー」


 ジェーンに性格のダメだしをされるってどんな人物だ、と思いつつ、俺達もエドガーに続いて「失礼します」と部屋の中に入って行った。


「だから、スゲーアーティファクトがある遺跡で、空を自由に飛べるという空族の遺産らしいんだ。もちろん金は言い分だけ払う、なあ、協力してくれよ」そう熱っぽく語っているエドガーとは対照的に、そこにいた男は涼しげな調子で返した。


「悪いが今ツボを作っていて、手が離せないんだ。他の優秀な冒険者を友にすればいい」


「お前じゃなきゃダメだから来たんだろうが! おとなしく俺と一緒に来い!!!」


 こんな必死で、しかもレベル68のエドガーが、必死にお願いするって彼は何なんだ? それに空族の遺産のアーティファクトって! 俺が思いを巡らせていると、彼と、目が合った。


 赤く少し長い髪を後ろで結んで、切れ長の瞳にひげを生やしているが、凛々しい印象のせいか、全く汚い感じはしない。むしろ、色白で小さめの顔のパーツは、なぜだか高貴な印象さえうけた。


「どうした。自分と同じ赤髪が珍しいか? この国ではそうだが、僕の国ではそうめずらしくないのだがな」


 そうやって彼ははにかんだ。とても、温和で優しそうな声だった。

「え、あの、出身地はどこなんですが」


「僕の出身国はジパングだ」


「えええええジパングって、あの黄金の国で仙人が住むという」


「何時代の情報だ。普通に船で行けるちょっと変わった国なだけだ」とエドガーが俺の頭を叩いて、代わりに話し出す。


「こいつ、蓮は俺の剣の師匠で、侍だ。しかも鬼怖い、一時期は指名手配の犯罪者の首を切って切って切りまくって、その刀に血を吸わせてる、本当の鬼だって噂も」


「おい! いい加減にしろ。全く、僕を仲間にしたいのか、茶化しに来たのか」


そうして蓮さんは大きなため息をつくと、


「こうなっては土に触れる気分でもなくなった。それに私自身も少々身体がなまってきたしな、いい機会かもしれない。悪いが少々待っていてくれ。準備をする」


すると嬉しそうな声で「おう、じゃあ、二人とも外で待っててくれや」とエドガーが口にして、言う通りにする。エドガーは蓮さんが大好きなんだろうな。何があったのかは知らないけど、単純に強いもの同士というのは気が合うものなのか。


すると、何故か、ジェーンがわざとらしいため息をついて俺につめよる。


「あのさ、聞いてよ。ここにいるのは、俺様アホ戦士様、それにちょっと抜けてる優しいキラーマシーン。それとおまえで何も知らない鼻たれぼっちゃん」


何も知らない鼻たれ坊ちゃんで悪かったなと思いながら話を聞いていると、さらにジェーンは俺に近づき、は? ダメだ! ダメ! お前、触れるぞ! いいのか! よくないだろ! おい! なんとか言え!


「私、普通の人間のいるパーティなら、本当にちやほやして、女の子として扱ってくれたの。でも、ここには鬼とか機械しかいない。ああ、もう、身体がほてっちゃう。ダメ。ねえ、アポロ、私が、大人の階段の登り方、教えてあげようか?」


 顔が真っ赤になるのが自分でも分かって、口をあんぐり開けたまま身動き一つとれない。ジェーンは胸の、大きな胸のボタンを一つ外し、俺の手を優しく握る、と、彼女はいきなり震えだし、大爆笑をした。一瞬何が何だか分からなかったが、今度は怒りと騙された恥ずかしさで顔が真っ赤になる。


「性悪巨乳女! あんたこそこの普通の人がいないパーティにふさわしいわ! それか酒場のお姉ちゃんにでも転職しろ!」


「うふ、ふふふ! あははは! いやーもう、ちびっ子からかうと面白いわ。はは、あ、腹痛い。はは。ま、これで女の怖さが分かったでしょ、あ、二人とも来たみたいだよ」


 いつまでもこの問題を引きずるのは嫌だったし、俺はもう水に流す。出てきた蓮さんは、腰に刀を差しているが、洋服は先程と同じ見慣れないローブのようなもので、前衛職には見えないが、これも魔法の品とかなのだろうか。それと顔のひげを大分剃ってきたのか、勇ましさがさらに増した。


「蓮、一応だけど、決まりみたいなもんだからな。ギルドリング使って」


 エドガーの言葉通り、蓮さんがリングで表示させたのは、 鳳来蓮<ホウライ レン> 修羅 レベル55 


レベル55ってのもやっぱりというかさすがだが「修羅って? あの……」と言葉を詰まらせた。また間違った知識かもしれないが、修羅って、人を殺しまくる道を選んだ人のことだよ、ね。


「それは、僕の一族が、阿修羅という神の加護を受けた武士の一族だからか。こちらの国に来て、冒険者の適性診断で出た。普通の侍のようなものだから、気にしないでくれ」


「何のん気に言ってんだよ。レベル55。なんだこれ。お前ならこれの何十上行けるんだよ。冒険に背を向けて土いじりばかり始めた結果だろ。戦いから、強敵から逃げてるんだろ」


苛だっているエドガーに、蓮さんは冷静に「エドガー、何度同じことを言わせる。レベルが強さではない。それに僕はレベルを上げることにあまり興味がない」


「はいはーい! まあ久しぶりの再会で色々言いたいこともあるだろうけど、最初っから険悪なのやめよーよ。私ら今回のチームなんだしさ。ね。久しぶり、蓮。蓮の顔とかは超好み。あと超強いの知ってるから、今回も期待してます。よろしくね!」

 

 ジェーンが話の流れをうまいことぶった切った。そうだ。これから冒険に行くのに、この空気は良くない。さすが数々の男を手玉に取った女!(想像)。


「はい! 俺はアポロ! ガラクタウンに捨てられた孤児で、ちょっと前に冒険者になりました。職業は古代魔術師で、今回の遺跡で力を発揮できると思います。すごく高レベルのみなさんと冒険出来て、俺、正直すごくラッキーだし興奮してます。足手まといにならないよう頑張りますので、よろしくお願いします!」


 ジェーンと僕の自己紹介にエドガーと蓮さんは、ちらりと顔を見合わせ、


「超強い勇者様のエドガー。あ、みんな知ってたか。そんじゃ、最後、蓮」


「そうか、アポロは古代魔術師か。ならば近くにあるポータルが使えるかもしれないな」


 エドガーのいらっ、とした顔が見えたが俺は「ポータル?」


「そう、古代人の遺産で、我がジパングにも似たような物で、鳥居<トリイ>というものがある。ポータルの場合だと、古代魔術師がいる時限定で、その魔術師の魔力に応じた距離内にあるポータルに一瞬で移動できる。ただ、魔力の消費も激しいから、無理に選ぶ必要もないが」


「じゃあそれがいい」と、エドガーとジェーンがほぼ同時に言う。こいつら……。でも、もし使えるなら、それにこしたことはない。


でも、僕もそのポータルというものを見たくなってきたし、蓮さんに言って、そこに向かうことにした。


力強い前衛二人に後衛は魔法使い二人とか、ほんと、いいパーティじゃないか! と一人にやにやをかみしめながら歩く。途中、大きなコウモリのようなモンスターがいきなり突撃してきたのだが、エドガーが難なく一撃で倒してしまったため、あっけなく終わった。


問題のポータルは、そう言われなければ気づかないような、石で作られた丸い魔法陣のようなものだ。でも、文字はかすれて読めない。知らない人が見れば、ただの、建造物が壊れた一部分にしか見えないだろう。


「ここに全員乗り、点在するポータルの中で、行先をイメージするんだ。普通は行ったことがある場所限定だが、同行者にも行ったことがある者がいるなら、大丈夫だだと思う。今回は、僕はそうだから」


 蓮さんがそう言うと、かみつくようにエドガーが言う。


「おい、何で蓮があの遺跡のポータルを知ってるんだ?」


「二十代だったころ、誘われてあの遺跡に行った際に、ポータルを発見した。遺跡の探索は、失敗した。僕も、パーティの全員、慢心していた。今回は雪辱戦だな」


「おいおい、十年前だとしても、レン蓮は相当やばいぜ。それでもダメだったのかよ」


「ああ。僕も若かったのもあるが、遺跡はやはり魔力で動かす仕掛けが多い。ガーディアンも僕一人では苦戦したからな。人や獣を切るのは得意なのだが」


 人を切るのは得意って! 本当だろうけど! 怖いよ! 


 俺がじゃっかん怯えていると、ジェーンが明るい声で、


「つまりガーディアンは鋼鉄とか機械属性で、優秀な魔法使いがいなかったのね。今回は私がいるから任せて」


「お、俺も、古代の物質の起動とかなら任せてよ!」


「そうね。じゃあ、早速、ポータルの起動お願いね」


 そうジェーンが微笑む。うーん、やっぱりやるしかない。僕が覚悟を決めて、全員でその枠内に入り、手を握る。


 蓮さんが言う「僕のイメージはできた。後はアポロのタイミングでお願いする」


 とはいっても何をすればいいんだ、と思いきや、ちょっと意識しただけで、四人は別の所にいた。


 が、周りに遺跡らしきものはないのですが……。


 手慣れたもので、エドガーがコンパスを使っている。


「普通に徒歩なら四日位の距離が、一日程度になってる。目的地じゃねーけど、レベル2の古代魔術師には上出来じゃねーの?」


 う、褒められてる、のか? これは? と、一歩進もうとすると、身体がふらつく。あ、これ、魔力を沢山使ったから?


「もう、これ飲んで。魔力の回復速度が速くなるポーション。貸しにしといてあげる」


「あ、ありがとうございます」とビンに入った赤い液体を飲むと、予想外においしく、何だかこれだけで元気が出てきた気がする。でも、気がする、だけ、かも。


「無理を言って悪かったな。僕はほかの二人に比べて軽装だし、しばらくはアポロを背負おうか? 別に気にすることないぞ。君のおかげで随分楽ができたんだ」


 一瞬、その意見に甘えようという考えがわくと、不機嫌なエドガーの声が、


「ジェーンはまだしも、蓮、お前はやりすぎなんだよ。過保護野郎が」


「功労者をいたわることの何が悪い。だいたいだな、エドガーは目上の者に対する礼儀がなってないな。何度このセリフを言わせるんだ」


「礼儀なんて俺に求めんなっての。悔しかったら俺より高レベルにでもなりやがれ」


 すっ、と目にもとまらぬ速さで蓮さんは刀を抜くと、撫でるような動作をして、刺す。


 一撃で絶命したのは、角が四本ある、大きな、いのししのようなモンスターだった。


「おーこれアンクルイシュトヴァンじゃねーの? ラッキー、今日の飯はこれだな」


「ああ。適当に身体を切り離して、運ぶとするか」と手慣れた様子で身体に刀を入れる、蓮さん。


 僕はまだエドガーの剣技を見たことはなかったが、蓮さんのそれは、鬼気迫るものがあった。自分が切り殺されるような感覚さえ覚えたのだ。


エドガーが話したことは、誇張したりしてない。多分嘘じゃないし、この人は、恐ろしく強い、人殺し、いや、冒険者なのだ。


 僕は小声でジェーンに「あの二人、優しけど、強すぎて怖い」とささやいた。


「それが分かったら正常よ、アポロ君」とジェーンははにかんだ。


「ところで、アポロ僕の背に乗って行くか?」


「いえいえいえ、俺、大分元気になってきました。ありがとうございます」


 俺が慌ててことわると、そんなことは気にしていないらしきレンさんは、


「そうか。ジェーン、火であぶってくれないか?」


「うん、いいよ」と頭部を切り落とした大いのししの止血をして、その大いのししの両脚を蓮さんは片手で持ち上げる。そしてコンパスを手にしたエドガーを先頭に進んで行く。


 それからは先頭にあの二人がいるのだから、たまにモンスターが出現したとしても、瞬時に片づけてしまうから、何が何やらわからない。背後から何か現れても、ジェーンが軽く氷漬けにしてしまう。ただ僕は歩いてついて行くだけだ。


 それでも、小休憩を挟んだとしても、六時間は歩いただろうか? 明日のこともあるし無理に歩くのは得策ではないと、野営の準備を始める。


 役に立ってなかった分、枯れ木を集め、火をつけ、調理の準備を始める。前にバイト先で一度だけ、アンクルイシュトヴァンを調理したことがあった。俺は蓮さんから受け取ると、皮をはいで、肉をブロックに分け、表面を軽くあぶる。それからニンニクのみじん切りとスージョーユをかけて、完成だ


「アンクルイシュトヴァンのサシミだよ。ちょっと見た目はワイルドだけど、味はすっきりして濃厚だったって」


「そうかそうか、それなりに、うまそうだな」とエドガーがひとつまみして、俺の肩を叩く「おい、さすがコック! かなりうまいぞこれ!」


「イノシシのサシミというのは初めて食べるが、さっぱりとした口当たりで、味わい深いな」

 

 と、蓮さん。少し遠くでその様子をうかがっていた。ジェーンが、少しだけ食べる。


「おいしい、けど、これ口臭くならない?」


「それなら大丈夫。レモンシャントの茶葉あるから、食後に紅茶飲んだら平気だよ。気になるなら、それを口に含んだまま、歯みがきをすれば」


 と、ここで僕はエドガーとジェーンが顔をうつむきかげんにして、軽く震えていることに気が付いた。「ねえ、どうかした」と俺が聞くと、


「だってよ! お前コックっていうか、お嬢様かよ! 食後には紅茶をどうぞ! ってさ! あースゲーおかしい!」


「何言ってるんだよ。レモンシャントは種をつぶすと鎮静効果があるし、すごく便利なんだよ」


 でも、もうこの手のことでエドガーにかなう気がしない。僕は肉を何切れか口に運んで、レモンシャントの入ったビンを置くと、ふて寝をしようとした。しばらくすると、


「そうねー。私もそろそろ寝ようかしら」


 ジェーンがそう言うと、蓮さんが、


「エドガー。交代で番をするからな」


「へいへい。じゃあ、蓮、先、よろしくな」


「あ、俺は?」と思わず声が出てしまった。


 蓮さんは微笑み「ゆっくり休みなさい。アポロには明日活躍してもらうからな」


 そうだ、僕は魔術師として、十分な休息をしなければならないんだ。僕は無言で頭を下げ、目を閉じる。


 でも、一向に寝むれる気がしない。ふと、目を開くと火を境にして、木にもたれかかり、炎のような赤髪と白い肌が、炎にちらちらと照らされて、恐ろしい迫力があって、


「眠れないのか?」

 びくり、としたまま、僕は「はい」と言った。

「無理に寝ようとしなくてもいい。三時間でも寝れば身体は動くし、明日は僕たちに戦闘を任せればいい。気負うことはない」


「はい、ありがとうございます」とは言ったが、俺は、この人が気になった。それを言ったらエドガーやジェーンだってそうだ。


でも蓮さんは、もしかしたら俺がなりたかった姿の一つだったのかもしれない。スマートで温和で親切で、そして、恐ろしく強い。エドガーとは違う、力に魅入られた人間の面影する、と言ったら、俺の考えすぎだろうか。


「蓮さんは、その刀を手にしてから、ずっとその刀だけなんですか?」


「そうだな。恐ろしいことに折れてくれないし、切れ味も衰えないんだ」


「蓮さんは、小さい頃から修行をして、ずっと戦い続けていて、それで、今は、ツボを作っているんですね」


「そう、だな。大体合っている。どうかしたか? 眠れないなら少し暖かいお茶でも飲むのがいい」


俺は生唾を飲み込み言った「俺は、本当は戦士になりたかったんです。今は、もう後悔していないし、自分の能力にちょっとだけ自信もあります。ただ、もし、俺が戦士として生きるなら、蓮さんみたいなのが、すごくいいなあと思って」


 すると、蓮さんは立ち上がって俺の目の前に立つ。ん? 俺は事情がつかめない。


「修羅道とは、見境もなく人を切り続ける地獄道。切り続け、殺されても地獄、己の修羅にのまれて狂えども地獄。俺の裏・村正は血が欲しいと泣くんだ。分かるか? これを愛刀として、修羅へと堕ちる覚悟がお前にはあるか?」



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