第七章 小さな秘密
たまたま、と言うのだけれど、長い髪をまとめて、アップにしている。いつもの派手でセクシーな服ではなく、白と青の、小さなフリルのある清楚な服を着た彼女は、似合ってないわけではないが、普段の彼女を知っている人間には、かなりの違和感が……
「いいじゃないの、お見合いをした仲なんだから、そんな態度をとらなくても」とお母さん。
「えええ!!! お見合い!! エドガーとジェーンが!!」
蓮さんは黙って困ったような顔。エドガーとジェーンからは、殺意の視線が!!! 怖い! 本気で! 背筋に冷たいものが走る。身動きができない。あ、そういえば、お見合いをしたってことは、ジェーンも令嬢? みたいな人で、家を捨てて? 冒険者になったんだよね。普通、女の子を冒険者にしないもん。しかもお金持ちの家のお嬢さんが、死と隣り合わせのその日暮らしなんて。でも、普通に考えたら絶縁とか、ないか。なんか、複雑な事情がありそうだ。
でも、エドガーのお母さんは軽く笑って、
「お見合いなんて、どこでも何度でもやっているものですから、僕、あまり気にすることではないのよ」
そ、そうか、お金持ちの人たちは、お見合いなんて普通のことなのか。よくわからないし、何だかあの二人がぎくしゃくしている気がしないでもないけど……俺が余計なことをするのは控えるべきだ。自分の命の為にも!
「おーやっぱりおいしいな、おもてなしされてる気分になる」と空気をよまずに、女中さんにも色々持って来させて、飲んでは食べるレヴィン。さすが、巨大なドラゴン、いくらでも食べられるのか?
でも、俺も席につくようにうながされ、白地に緑の縁取りのされた上品なカップで紅茶を飲んでみると、ものすごく美味しい!! 口の中、鼻の中に香りが広がり、喉元を通れば、果物を食べているかのような濃密さがある。透き通った果実の雫のようだ。正直、羨ましい……こんないい食事をとれるなんて! いや、そういうセコイ根性は止めよう。今はこの美味しいティータイムをありがたくいただこう。
「ロアーヌ様と少しお話があるから、男どもは、エドガーの部屋にでも行っててよ」とジェーンが少し困ったような不機嫌そうな口調で言う。ロアーヌ、エドガーのお母さんはニコニコしながら、
「だ、そうですから、男同士、気軽にしていなさい」
その言葉に従って、俺らはエドガーの部屋に向かおうとするのだが、レヴィンが蓮さんに、
「蓮、お前かなり強くなったな。腕にアーティファクト反応もある。模造刀で、演習でもしないか? 寝てばっかで身体がなまってしかたがないんだ」
「それは、面白そうだな。エドガー、演習場を借りるぞ、そういえば、お前と剣技の修行をしたのもそこだったよな」
エドガーは投げやりな調子で「はいはい、お好きにどうぞ」と言いながら歩みを止めず、俺は二人の戦いが平穏無事に終わりますようにと思いながら、エドガーの後をついて行った。




