第六章 再会
異様にうろたえ、喜ぶ男に、エドガーは冷静に、
「ルーシャ、悪いが、俺はこの家の守護龍の命令で、ここにいる。絶縁も解かれてはいないが、守護龍レヴィン様の頼みなら、断れないだろ。そういうことだ。心配をかけてすまないな。母様には俺から交渉する。どうせ周りの者にはすぐばれるだろうが、この話は内密にしてくれないか」
「も、もちろんです! 失礼しました!!」と男は恐縮して頭を深々と下げた。それから颯爽と、エドガーは進んで行く。そうなんだよなあ、いつものエドガーではなくて、本来はお坊ちゃま、御曹司なんだよなあ……今の言葉遣い一つとっても、あの歌をうたうエドガーの様に、気品のある甘い感じがした。
俺達はエドガーについて行って、歩いて行くと、ひときわ大きな邸宅があり、その近くには二人の守衛がいて、俺達に強気な声をかけてきたのだが、エドガーが
「お久しぶりです。エドガーと申します」
すると、守衛は慌てて頭を下げる。そして、悠然と進んで行くと呼び鈴も鳴らさず、大きな扉を開いた。そこには、大きな龍の、百合で飾られたレヴィンの紋章があった。
中には大きな階段とシャンデリア、骨董品らしき壺、床には瑠璃色のじゅうたん。エドガーは迷いもなく扉を進んで進んで行くと、廊下で天女のような女性に出会った。誇張ではない。その女性は薄絹のショールとローブを身にまとい、そしてその背からは、「あの里の者」なんかではない、物語の天使の様に、柔らかな光が差していたのだ。
長い黒髪と白すぎる肌。とてもエドガーのお母さんの年齢には見えない。優しい雰囲気の人。こんな雰囲気の人、シェブーストとかでも見たことがない。そもそも人、なのかな?
「あら、エドガー、どうかしたの?」
「母様。レヴィン様がサファイア・メダイとガレットがどうしても欲しいとのことで、恥を忍んで、敷居を跨いだ次第です。厚かましいのは承知ですが、その2つをいただけないでしょうか?」
すると、その女性、きっとエドガーのお母さんは、柔らかい声で、
「あら、十年ぶり? に帰って来たと思ったら、そんなわざとらしい言葉使いをして。ふふ。ガレットは焼いてあげられますけれど、サファイア・メダイは、お父様に頼まなければならないの。私がうまくいくようにしますから、気を楽にして、お茶でも飲んでいなさい」
息子が十年ぶりに帰って来たのに、この明るい朗らかな態度。すごいな……この人も。
そうしてドラゴン……レヴィン。そうだ、あのポータルに書かれていた名前。彼に深々と頭を下げ、
「レヴィン様、わざわざこの狭い家へご足労、胸が痛みます。何もない場所ですが、少しでも気晴らしになれば、幸いです」
「おう、人間のまともな食べ物食べるの久しぶりだから期待してる」とあくまで態度を崩さず、
「蓮、久しぶりですね。ますます男前っぷりがあがって、思えば貴方とエドガーの縁も長く、奇妙なものよね。あら、いけない、お茶も淹れたばかりで、スコーンもあるの、早くこちらにいらして」
な、なんだろう、名家で、エドガーのお母さんというとなんか堅いイメージがあったが、ほんわかした人だなあ。蓮さんに小声でそのことを言うと、蓮さんはニヤリと笑い「でも、実はな、怒ると本当に怖いんだぞ」と言った……それ、あなたもですよ……
その扉を開く、と、お茶中らしき、紫色の艶やかな髪をした、清楚な服を着た胸のデカい……
「ジェーン!!!!」
「な、なんであんた達が揃いもそろってここにいるのよ!!!!!」
「こっちにも理由があるんだよ!!」とエドガーが静かに不機嫌に言う。
するとジェーンは「こっちには理由なんてたいしてなくて、たまたまよ!」




