第五章 放蕩息子の帰郷
と、エドガーが蓮さんの服を引く。蓮さんも刀をさやにしまう。すると、なんと! あの巨大な竜が僕よりやや高い位の身長の男になった。輝かしく長い金髪に、深海のような深い青の瞳。女性と間違えてしまいそうな、美しく整った顔。青と白に彩られたローブを着て、背中にはやはり虹色の翼。
「俺も行く。しばらく外出てないし。おつかいは最後でいいよ。だから俺も一緒に行くからな。寝てばっかいたから久しぶりだー! あー結構楽しみだなー!」
多分、このワガママ王子の機嫌を損ねるのは良くないと判断したのだろう。二人はその申し出を受けた。竜でワガママってタチが悪いよなあ。しかも勘当されたとはいえ、エドガーの家の守護龍だと言うんだから、闘いを挑むわけにもいかないだろうし。と、俺の肩が叩かれた。
「お前、飛陽族だろ。獣剣士に修羅に飛陽族とか、エドガーはレアな職業ばかり集める収集癖があるのか? 俺の宝石や好きを馬鹿にできないな」それをエドガーは軽くいなすが、そうだ!!! 俺は彼に聞けばいいんだ、飛陽族のこと、現在のことを。すると彼は少し悩み、
「俺は何千年か生きてるけどさ、俺が若い頃、飛陽族は結構いたはず。でも彼らは俗世と関らない生活をしていたからなあ。それで疫病が流行って、一気に数が少なくなったとか。まあ、俺聞いた話だしあんまあてにならないけどね。でも、お前みたく、まだ少数だけど、生きているらしいよ」
「嘘!!! どこに!!」と俺が興奮を抑えられずに、相手がドラゴンだということも忘れてつめよると、彼はさらりと、
「俺が話に聞いたのは、サイボーグとか数百年前の話だけど。それ考えると、お前ほんとレアだな。なんで生きてるの?」
「なんで、生きてるのって……ガラクタの山に、捨てられてたからだよ……」自分で、そう言って、情けなさと悲しさとどうしようもなさが入り混じる。でも、
「でも! 飛陽族の遺跡で父さんに一瞬だけ会えて、このブラッドスターって宝石と両手に力をもらえたから、だから、俺は、飛陽族は死んでないと思うんだ」俺が良く分からない熱さと不安で、そうまくしたてると、ドラゴンは冷静に返す。
「いいな、お前。竜は長命で強力なのに、人殺しや宝石集め位にしか趣味が無いから」
それは意外な言葉だった。でも、それぞれの種族の、人の、悩みや辛さがあるんだと、改めて思った。ふっと、アイシャの重すぎる、不条理な十字架が頭をよぎった。俺達は、時に無力だ。でも、抗えるなら、抗う。自分のことは、自分で決めて生きていきたいんだ。彼女の様に。
俺はサファイア・ドラゴンに上手い言葉をかけられないまま、地上へと出る。
「エドガー、お前の家の近くに祭壇あるだろ。そこに一気にワープしてもいいか? 家の敷地にも入れないのか?」
「いい、ワープしてくれ、レヴィン」とエドガーが言うと、本当に一瞬で、広大な敷地と大きくて立派な建物のある場所に着いた。するとエドガーは大きなため息をつき、蓮さんは「久しぶりだな。何年ぶりだろう」「は? 何年ぶりって、お前、何で寄った?」「何でって、近くを通ったから、たまたまだ。奥様や旦那様と少し話をして、お茶をご馳走になっただけだぞ」「お前は、俺の気持ちも知らずに! 相変わらず鈍い奴だな!」「鈍い奴とはなんだ。一々エドガーの許可を得なければならないのか?」「ちげーよ、そういう問題じゃなくてな……」
と、蓮さんとエドガーがわいわい話していると、一人の男性が近づき、エドガーの手を両手でつかんで、涙を流し、跪いた。周りの俺らが驚いていると、
「エドガー坊ちゃま!! ついに、ついに、お帰りになられたのですね。私は、私は本当にこの日がいつ来るかと毎日のように願いながら、仕事を勤めさせていただいておりました。十年! ああ!! 十年、一層ご立派になられて。ああ、奥様にこのことを伝えなければ!!」




